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NICTと住友電工が、世界記録更新となる、標準外径の19コア光ファイバで1.02 bpsの1,808 km伝送を達成

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将来の長距離大容量光通信インフラ実現に期待

表1: NICTによる標準外径の新型光ファイバによる長距離大容量伝送実証

図1:19コア光ファイバのイメージ図

 増大し続ける通信需要を支えるために、従来の光ファイバ伝送の限界を超えるマルチコア光ファイバなどの新型光ファイバと、それを用いた光伝送システムの研究が世界中で盛んに行われている。NICTは様々な標準外径光ファイバを用いた長距離大容量伝送を実証してきた(表1)。標準外径の非結合型4コア光ファイバでは、0.138ペタbps・12,345 kmの伝送容量・伝送距離を達成している。しかし、非結合型マルチコア光ファイバでは、コア間の信号干渉抑制のためコア数が制限されるため、商用の長距離光ファイバ伝送システムで利用されている波長帯(C帯、L帯)に加え、一般的に商用化されていない波長帯(S帯)まで拡張する手法を用いて大容量化を実現している。
 一方、マルチモード光ファイバや結合型マルチコア光ファイバを用いた伝送方式は、受信器におけるMIMOデジタル信号処理による干渉除去を前提に、非結合型マルチコア光ファイバのコア数制限を打破する次世代の大容量伝送技術として研究開発が行われている。これまでに、標準外径の15モード光ファイバを用いて0.273ペタbps・1,001 kmの伝送容量・伝送距離を達成している。
 しかし、マルチモード光ファイバ伝送では、モードごとの伝搬特性の差が大きいため、更なる長距離化に向けては課題を抱えている。また、結合型マルチコア光ファイバを用いた伝送は、マルチモード光ファイバ伝送に比べ、各コアを伝搬する信号の伝搬特性は均一化されるので長距離伝送に適しているが、これまで、標準外径の結合型19コア光ファイバでは、1.7ペタbps・63.5 kmの伝送容量・伝送距離の実証に留まっており、長距離大容量伝送のための光ファイバの損失低減や光増幅中継機能の実現が課題だった。

今回の成果
 今回、住友電工は標準外径の結合型19コア光ファイバの設計・製造を担当し、コアの構造と配置の最適化により、複数の波長帯域(C帯、L帯)で光ファイバの損失低減を実現した。NICTは19コアの信号を同時に増幅する機能を有する伝送システムの開発と実証を担当し、1.02ペタbps・1,808 kmの伝送容量・伝送距離を達成した。

 伝送システムは、送信系、受信系、周回伝送系からなる。周回伝送系は、19コア光ファイバ、合波器/分波器、光増幅器、周回制御スイッチから構成される。19コア光ファイバ用の光増幅中継機能は、各コアの光信号に対応するように並列にした19台の光増幅器により実現される。19コア光ファイバの信号は、分波器により各コア用に分岐し、光増幅器により伝搬中の信号減衰が補償され、合波器により各コアの信号が再び光ファイバに入力される。今回の実験では、送信系にてC、L帯における180波長の偏波多重16QAM信号を19コア多重して合計1.02ペタbpsの光信号を生成し、1区間当たり86.1 kmの19コア光ファイバを19回周回させた。周回伝送後、受信系にて全コアの信号を一括で受信し、MIMOデジタル信号処理によってコア間の信号干渉を除去し、各波長のデータレートを測定した。総伝送容量は1ペタbpsを超えており、また、総伝送距離は、おおよそ札幌-福岡間に相当する1,808 kmとなり、国内の大都市を結ぶネットワークに適用できることが実証された(上記表1)。伝送能力の一般的な指標である伝送容量と距離の積に換算すると、1.86エクサbps・kmとなり、これは標準外径光ファイバの世界記録となる。

今後の展望
 Beyond 5G以降の社会では、新しい通信サービスにより爆発的に通信量が増加することが予想されており、高度な情報通信インフラの実現が求められる。本研究の結合型19コア光ファイバや光増幅中継機能による伝送システムにより、将来の大容量・長距離の光通信インフラの実現へ向けた技術開発が大きく進展した。今後は、光増幅中継技術の更なる効率化やMIMOデジタル信号処理の高速化を進め、実用化の可能性を探求していく。

各機関の役割分担
NICT:伝送システムの設計・開発、伝送実験
住友電工:結合型19コア光ファイバの設計・開発

採択論文
著者名: R. S. Luis, M. v. d. Hout, S. Gaiani, B. Kalla, D. Orsuti, Y. Goto, G. Rademacher, B. J. Puttnam, A. Inoue, T. Nagashima, T. Hayashi, P. Boffi, T. Bradley, C. Okonkwo and H. Furukawa
論文名: 1.02 Petabit/s Transmission Over 1,808.1 km in a 19-Core Randomly-Coupled Multicore Fiber
国際会議: OFC 2025 最優秀ホットトピック論文(Postdeadline Paper)

今回開発した伝送システムと光ファイバ伝送損失特性

図2:伝送システムの概略図

1:【多波長光源】C帯、L帯における180波の多波長光を生成する。
2:【信号変調回路】多波長光に偏波多重16QAM変調を行い、光信号を生成する。
3:【送信信号生成回路】光信号を各コア用に19分岐し、遅延差を付けて擬似的に異なる信号系列とする。
4:【周回制御スイッチ】周回前の光信号と、周回してきた光信号とを切り替える。
5:【マルチコア多重器】導波路型の多重器を通じ、各コア用の光信号を19コア光ファイバに入射する。
6:【19コア光ファイバ】86.1km長の19コア光ファイバを伝搬する。伝搬に伴い各コアの光信号が干渉する。
7:【マルチコア分離器】受信側でコアごとに光信号を分離する。
8:【増幅中継部】光増幅器を用いて、光信号を増幅する。波長間の光信号強度ばらつきを、波長チャネル制御器(プログラム可能な波長フィルタ)によって調整する。伝送光ファイバの入力側に帰還させることで周回伝送を行う。
9:【高速・並列受信回路】各コアの光信号を波長分離し、コヒーレント受信器で電気信号に変換する。
10:【オフライン信号処理】MIMO処理により、ファイバ伝搬中の光信号干渉を除去する。

図3:結合型19コア光ファイバの伝送損失特性と生成したC帯、L帯の光信号における180波長の光信号

今回の実験結果
 図2の伝送システムにおいて、1,808kmの伝送後、受信時に誤り訂正処理などを適用し、波長ごとにデータレートの最大化を行った。図4のグラフの青点は、各波長における誤り訂正適用後の全コア合計データレートを示し、C帯では約4.5~6.7bps、L帯では約3.3~6.2テラbps程度のデータレートが得られた。全波長合計の伝送容量は1.02ペタbpsであった。

図4:結合型19コア光ファイバ1,808km伝送後の波長ごとの全コア合計データレート