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特別寄稿:2022年、5Gが通信事業者に与える影響【コムスコープ・ジャパン】

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著者:コムスコープ・ジャパン 屋外ワイヤレスネットワーク部門 営業本部長 黒田 隆広

 コロナ禍が始まった当初、多くの人がリモートで仕事を行うようになり、世界中の通信事業者は投資を固定インフラに振り向けた。それでは2022年は、通信事業者にとってどのような年になるのか。4Gのネットワークを維持しつつ、5Gのキャパシティと新機能を追加するにあたり、最も現実的な方法を模索する年になるかと思う。

5Gの展開をシンプルにするための戦略

 北米の通信事業者は過去最高の入札金額となったC-bandの展開をどのように行うか、検討を重ねることになるだろう。入札額は合計で809億ドル(約9.2兆円)にも及び、少しでも早く全米展開を進めて投資の回収を図る必要に迫られている。T-Mobileはすでにその展開を開始したところだ。このように差し迫った状況の中、通信事業者はネットワークキャパシティの増強、スペクトル効率の追求、5G展開への道筋を考えていく必要がある。

 同時に、新規参入するプレイヤーも見受けられる。特にCATV事業者が、CBRS(Citizens Broadband Radio Service:ダイナミック周波数共用を用いて、企業等がプライベートLTE/5G網の構築に使用できる3.5GHz帯域)を利用して、新たなネットワークイノベーションを起こそうとトライアルを実施したり、最終的にはローカル5Gを独自に立ち上げようともしている。

 日本では、Sub 6GHz帯域での5G全国展開が全モバイル通信事業者において本格化する一方で、既存バンドの5G化も一部進んでおり、5Gのカバレッジが大きく進展する年になると予想されている。また、SA (Stand Alone)の商用化が始まり、5Gの機能をフルに活用したユースケースの広がりも期待されている。
 ネットワークの価値をいかにお金に換えるか。そのマネタイズの方法を世界中の通信事業者が模索している。5Gも当初は都市部を中心に展開されていく。より速いスループットを提供するだけでなく、コンサートやスポーツイベントでは新しい楽しみ方の提供、畜産業では5G搭載の首輪を使った運営の効率化、そして最新医療ではリモートで超音波スキャンを行う試みなどが期待されている。

 日本国内では、人手不足と少子高齢化が予想されることから、自律走行車や配送ロボットなど、高度な5Gのユースケースの開発が進んでいる。また、日本ではモバイルゲームの人気が高まっており、最高のマルチプレイヤーゲーム体験を提供するために、安定した5G接続が必要となっている。
 このような新たなサービスを提供するには、無線ネットワークの高密度化が必要とされ、通信事業者は一定の地域をカバーする技術を追求していくことになる。

 このような背景から、ヘルスケアやロジスティックス等の分野で新たなビジネスモデルのイノベーションが次々と生まれると予測されている。様々な企業がプライベート5Gを数か月ではなく数日で立ち上げられるように、AWS (Amazon Web Services)が、新たなマネージドサービスの提供を開始したことは記憶に新しいところだ。バーティカルな市場のスペシャリスト達が5Gネットワークの一部(スライス)を購入して、ニッチな産業に特化したサービスを提供する、といったトレンドは今後も続くだろう。

既存インフラを最大限に活用する方法

 5G展開のレースは、テクノロジーの競争はもちろんだが、建築や工事といったインフラエンジニアリングの競争でもある。実際、我々の顧客は、5Gは過去のどのG(ジェネレーション)をとってみても、最大のインフラエンジニアリングのプログラムだと言っている。「5Gに向けて新たな周波数帯域が追加される」ということは、「すでに既設の機器でいっぱいになっているポールや鉄塔に新たな機器を追加する」ということに他ならない。通信事業者は「4Gや5Gの重い機器を既設インフラに追加する」というチャレンジに直面することになる。
 そのためモバイル通信事業者は、既設のインフラを最大限に活用しつつ、消費電力を減らす方法を模索している。目標は「新たなコンクリート柱や鉄塔をなるべく立てず、既設インフラを活用する」こととなる。

 このような課題に対して、我々は、5Gアクティブアンテナを既設のパッシブアンテナと組み合わせる、といった技術を開発している。通信事業者は、複数のアンテナを組み合わせることによって、ポールや鉄塔のスペースと風圧荷重を最適化するテクノロジーを求めている。より多くのモバイル通信事業者は、専有面積やコストを抑えて、エネルギー効率を追求するために、ニュートラルホスト(複数の通信事業者に鉄塔や通信機器インフラを貸し出す企業)を活用することが予想される。

 5G機器を製造するために電力はどれぐらい使われているのか等を調査することによって、これから先、通信事業者はエコロジー対応への実績を積み上げていくことになる。法制化によって追加でグリーンコミットメントが必要となったり、エネルギー貯蔵、新エネルギーの使用、ヒートディシぺ―ション(熱放散)といったことに対しても気を配る必要がある。熱効率の高い機器、代替エネルギーの使用、ネットワークへの電力供給の新たな方法などは、「通信事業者がカーボンフットプリントを本気で減らそうとしているか」の尺度となる。
 通信事業者の電力消費が著しく増えるにつれ、グリーンに対するコミットメントはこれまで以上に重要となっている。5Gの展開にあたり、通信事業者はMIMO技術を採用しているが、これにより以前のシステムと比較して2.5~3倍の電力が必要となる可能性がある。これは近い未来に「数百万局の5Gネットワーク機器が4G LTEよりも多くの電力を必要とする」ということになる。

 通信事業者は、32T32Rや64T64RといったMassive MIMOに使われるアクティブアンテナのソリューションを都市部に展開するにつれて、今後さらに電力消費に敏感になることが予想されている。アクティブアンテナと比べて、パッシブアンテナのソリューションは、電力をほとんど消費せず、また製造時に消費される電力も少ないため、今後も大多数の5G基地局はパッシブアンテナを使うことが予想されている。
 北米のC-bandはその割当が行われたばかりで本格展開はこれからだが、早くも消費電力が大きな問題となることが予想されている。また、クラウドネイティブなネットワークマネージメント ソフトウェアによって、稼働中の無線機器からデータを収集して問題を未然に防ぐといったオペレーションも始まるだろう。

O-RANの導入方法について

 O-RANが5Gのコアテクノロジーとなるまでの間に、ベンダ間の相互接続試験が多く行われることになる。2022年は、多くの通信事業者がこのネットワークアーキテクチャが業界標準となるようにサポートしていくことになるだろう。
 この新しいスタンダードが、5Gを展開していく中で、どのような役割を果たしていくのか。長期計画が非常に重要となる。日本の通信事業者は、この分野で最も先進的な取り組みを行っており、世界から注目が集まっている。

 O-RANの最終目標は、より多くのイノベーションを引き起こすことだ。様々な分野の企業がAIをベースとした新たなアプリケーションやサービスを提供するようになることが予想されるが、そういった企業に対して、通信事業者はよりフレキシブルに必要なサービスを提供可能となる。

屋外ワイヤレスネットワークの将来

 「世界中のモバイル通信事業者は、2019年から2025年の間に1兆ドル(約115兆円)を5Gのために投資する」と予測されている。2022年は、多くの国にとって5Gネットワークの展開を本格化させる年となるだろう。日本においては2020年より本格化している5G全国展開の第一ステージが中盤に差し掛かり、各社は新たなビジネスの立ち上がりとそこで必要とされる技術的要件を考慮しながら、既存バンドの5G化、SAやO-RANの導入の計画を実行に移すフェーズとなっている。
 そのような状況下で、通信事業者はこれまでの投資を最大限活用しつつ、5Gの展開をシンプルにしてくれるベンダに期待を寄せている。例えば、アクティブとパッシブのハイブリッドアンテナはポールや鉄塔の荷重を減らし、OPEX低減に貢献する。RU(無線機)とBS(ベースステーション、5GではCU/DU)の間の接続をシンプルにすることで、建設にかかる人件費を抑えることができる。
 加えて通信事業者は、よりフレキシブルに5Gの展開を行うために、有線や無線といったカテゴリに依存せずに、横断的にソリューションを提供するサプライヤを求めている。

 日本国内には既に100万局近い無線局が存在している。5G化への道のりはまだまだ始まったばかりと言えるだろう。新たな5Gビジネスの立ち上がりと共に、求められるネットワークの形も変化を続けていくことが予想される。

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