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光ネットワークの伝送性能を高精度に推定する技術を開発【富士通研究所とFLA】

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ネットワークシステムのスループットを約20%改善

 富士通研究所とFujitsu Laboratories of America(以下、FLA)は3月21日、光ネットワークのスループットを向上させる新しい光ネットワークの伝送性能推定技術を開発したと発表した。
 既設の光ネットワークに新しい波長を用いて通信経路を追加する場合において、従来は通信経路を構成する光ファイバや通信機器の伝送性能を正確に計測することが困難なため、光ファイバや通信機器の設計仕様値を基にして、安全に運用ができるように見積もった上で伝送速度を設定していた。このため本来使えるはずのネットワークスループットに対して制限された状態で運用されていた。
 今回、光ネットワークにおいて、運用中の光信号のビット誤り率を観測することで、光ネットワークの特性を学習し、新たに追加する経路の伝送性能を高精度に推定する技術を開発した。開発した技術を最大伝送距離1000km程度の光ネットワークを模擬したテストベッドにて評価し、推定誤差が15%以内であることを確認した。また、実証実験結果に基づいたネットワークシミュレーションを行った結果、ネットワーク全体のスループットを約20%改善可能であることを確認した。これにより、実際のネットワークのスループットを最大限発揮できるようになり、高効率な通信インフラの提供が可能となる。

開発の背景

 高度なICT社会を支える光ネットワークは、異なる波長の光信号を束ねて一つの光ファイバで伝送する波長分割多重技術により、光ネットワーク内の多地点間を大容量かつ低遅延を実現しながら接続している。しかし今後は、クラウド型サービスのさらなる拡大、第5世代移動通信方式の実用化に伴う通信需要の増大に応えるため、光ネットワーク全体のスループットをこれまで以上に向上させる技術の開発が求められている。

課題

 光ネットワークの運用中に、ある地点間で追加の通信要求が発生した場合、その地点間の伝送性能を推定することで実現可能なスループットを算出し、この結果に基づき新しい波長の信号を追加する。光ネットワークは数多くの光ファイバ、通信機器から構成されており、光ファイバの損失や増幅器の雑音量など、個々の物理パラメーターについて、すべてを計測して正確に把握することは困難であるため、従来は、光ファイバや通信装置の設計仕様値に基づいて伝送性能を推定していた。しかし、安定したネットワーク運用を担保するため実際の伝送性能より過小に見積もる必要があり、結果として本来使えるはずのネットワークスループットに対して制限された状態で運用されるという課題があった。

開発した技術

 今回、運用中の光ネットワークを構成する装置から得られる一般的な観測値である、ビット誤り率を使ってネットワークの特性を学習することにより運用時の伝送性能を高精度に推定する技術を開発した。これにより光ネットワークのスループットを向上できるようになる。

従来技術と今回開発した技術の概要

 この技術では、光ネットワークの物理特性を模した計算モデルから算出するビット誤り率と、運用中の光受信器から得られるビット誤り率を比較して、その誤差が小さくなるように計算モデルに対して機械学習を行う。今回新たに開発した、光ファイバの損失や増幅器の雑音量などそれぞれの物理パラメーターに対するビット誤り率の感度を分析する技術により、その感度の大小に基づき自動的に適切なパラメーター更新量を算出し、ビット誤り率だけの情報から効率的な学習を実現した。
 この技術を運用中の光ネットワークに適用することで、新たな通信経路を追加する際の伝送性能を高精度に算出可能になるという。

光ネットワークの伝送性能を推定する技術

効果

 富士通研究所が構築した伝送距離約1000km相当の光ネットワークテストベッドを用いて、今回開発した技術の実験検証を実施し、得られた結果に基づきFLAが推定精度の分析を行った結果、同テストベッド環境における推定誤差が15%以内であることを確認した。さらに今回の検証結果に基づいてネットワークシミュレーションを行ったところ、伝送経路によっては1波長あたりの信号スループットを最大50%改善し、光ネットワーク全体としてスループットを約20%改善できることを確認したという。

今後

 富士通研究所とFLAは「今回開発した技術の精度検証をすすめ、富士通の光伝送システムFUJITSU Network 1FINITYシリーズ、 広域ネットワーク仮想化ソリューションFUJITSU Network Virtuoraシリーズに適用する技術として、2018年度中の実用化を目指す」としている。