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世界最速の1波600Gbps光伝送と587Gbpsのデータ転送実験に成功【NII、NTT東日本、NTT】

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先端科学技術研究で得られるビッグデータ転送の高速化に向けた600Gbps波長ネットワークとそのフル活用プロトコルの実現に目途

 NIIとNTT東日本とNTTは12月11日、東京都と千葉県に実証実験用として1波600Gbpsの伝送環境を構築し、そのフルスループットの確認、その上での汎用サーバを用いた587Gbpsデータ転送の実現、光波長変更と伝送レート変更による伝送経路変更実験に成功したと発表した。
 この実験では、商用環境に1波長600Gbpsにおいて世界最長となる約102kmの伝送環境を構築し、データ転送にはNIIが開発したファイル転送プロトコル「MMCFTP(Massively Multi-Connection File Transfer Protocol)」を用い、サーバ1台での世界最速の587Gbpsのデータ転送速度を記録した。また光ネットワークの高信頼化に向けた伝送経路切り替えでは、伝送距離を考慮し、光波長の変更に加え600Gbpsから400Gbpsへの伝送レート変更を行い、円滑な経路切り替えに成功した。

背景

 NIIでは、全都道府県や日米間を100Gbps回線で結ぶ学術情報ネットワークSINET5を2016年4月から運用している。素粒子物理学、核融合学、天文学などの先端科学技術分野では、国内外に設置された大型実験装置などで大量データが生み出されており、それを各研究機関に転送し分析を行っている。現在、多数の研究機関が100GbpsインターフェースでSINET5に接続しているが、そのデータ量の増加から、研究機関間で100Gbps回線を使い切るデータ転送が活発になされるなど需要が急増しており、100Gbps超に向けた更なる高速化対応が望まれている。
 一方、NTTグループの取り巻く環境として、ビッグデータや映像データの流通拡大、クラウド技術の進展に伴う基幹光ネットワークにおけるトラフィックの急激な増大が続いている。これらに対応するため、次世代の基幹光ネットワークについて、継続的な研究開発・設備導入を進めてきた。
 今回の実験では、2018年11月に、NII(千代田区一ツ橋)と千葉県柏市の間に1波長で600Gbps伝送可能な光伝送ネットワーク環境が構築され、次の3種類の実験が行われた。

実験1

 NII(一ツ橋)を起点に柏市で光ファイバを折り返す形でネットワークを形成し、伝送実験が行われた(図1)。600Gbps伝送環境は、NTTが開発した世界最先端のデジタル信号処理技術、ならびに最大100GbEを6本多重可能なOTUCn技術を1チップで実現(図2)することにより1波100Gbps~600Gbpsの伝送レート可変トランスポンダを実現し、NTT東日本が600Gbpsでデータ転送可能なネットワーク(実験3では400Gbps経路も)を構築。600Gbps信号のフルスループットは試験用テスタで確認したという。商用環境において約102kmファイバを介した600Gbps伝送の実証は世界初となる。

図1:実証実験ネットワークの構成


図2:世界最先端のデジタル信号処理技術とOTUCn技術の実装イメージ

実験2

 600Gbps伝送環境下にて、MMCFTPを用いて1台のサーバから2台のサーバへの転送、および2台のサーバから1台のサーバへのデータ転送が行われた(図3)。実験の結果、587Gbpsおよび590Gbpsのデータ転送速度で40TByteの大容量データを転送完了させることに成功した。40TByteは一般的な25GByteのブルーレイディスクに例えると1,600枚分で、この大容量データを約9分で転送できることになる。この結果により1組のサーバで587Gbpsのデータ転送を可能とする見込みを得たという。

図3:データ転送実験

実験3

 柏市にも伝送装置を設置して伝送距離の異なる2つの伝送経路を構成し(図4)、伝送路の障害を想定した経路切り替え実験が行われた。伝送装置の経路変更機能、光波長変更機能および伝送レート変更機能を用いて、経路切り替えに合わせ、波長変更を行った上で1波600Gbpsから1波400Gbpsへの速度変更を行い、通信回線が再確立されることを確認した。データ転送では、経路切り替え前には600Gbps波長で580Gbpsを計測し、経路切り替え後には、データ転送が再開され、400Gbps波長で393Gbpsのデータ転送速度を計測したという。

図4:伝送経路切り替え実験の構成

 なお、今回の実験の一部は、総務省の委託研究「巨大データ流通を支える次世代光ネットワーク技術の研究開発」により得られたデジタルコヒーレント光伝送技術を利用している。

今後の取り組み

 最先端の学術研究では、実験装置の大型化・高性能化、ハイパフォーマンスコンピュータを用いたシミュレーション、さらにはIoTなどから収集されるビッグデータなど、扱うデータ量が爆発的に増加していく。NIIは「データ流通や大量の各種観測データを効率的に行うためにも、MMCFTPを先端科学の発展のために提供し、実利用を通じて安定化と更なる高速化を図っていく予定だ」としている。また、NTT東日本、NTTは「これからも伝送容量の増大に対応するため、大容量伝送技術開発を引き続き推進していく予定だ」としている。