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ラマン増幅用の新しい励起光源技術を開発【古河電工】

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 古河電気工業(以下、古河電工)は3月6日、インコヒーレント光を用いたラマン増幅用の新しい励起光源技術を開発したと発表した。インコヒーレント光を用いた新しい励起光源技術は、励起光の揺らぎによる信号光への影響を抑えるため、従来は実用化が困難であった前方励起ラマン増幅が実現できる。前方励起ラマン増幅は光ファイバ通信の伝送特性向上、伝送距離拡大に有効な技術であり、今回の開発は、5G時代の急激なトラフィック増大の予想に対応して世界的に開発が進む600Gbpsや1Tbps超のデジタルコヒーレント光伝送など、光ファイバ通信システムの高速・大容量化に大きく貢献するものと期待される。
 この新しい励起光源技術とラマン増幅光伝送における有効性については、2月7日よりサンフランシスコで開催された光技術関連国際会議(Photonics West 2019)と、3月3日よりアメリカのサンディエゴ で開催中の光ファイバ通信関連国際会議(OFC2019)において発表されている。

市場背景

 光ファイバを用いたラマン増幅はErドープ光ファイバ増幅(EDFA)と並び現在の光ファイバ通信を支えるコア技術だ。EDFAは1990年代前半に実用化され、1.48μmと0.98μmの励起レーザが使用されている。同社は1.48μm励起レーザの高出力化、実用化で世界をリードしてきた。高出力1.48μm励起レーザの開発はラマン増幅技術の開発を促し、1990年代後半から2000年代前半に実用化に至った。特に光ファイバ線路が増幅媒体となるラマン増幅は光ファイバ損失による伝送特性劣化を改善する技術としてEDFAと併用され広く普及している。
 ラマン増幅では、励起レーザが有する揺らぎが光信号に影響を与えるため、受信側から励起する後方励起ラマン増幅が標準的に用いられている。後方励起ラマン増幅では、信号光と励起光が反対方向に進むため励起光が信号光に及ぼす揺らぎは平均化され、その影響は軽減されるが、光ファイバを伝搬する信号の伝送特性に改善の余地があった。一方、前方励起ラマン増幅では、伝送特性改善に優れラマン増幅の効果を最大限に生かすことができるが、信号光と励起光が同じ方向に伝搬するため、励起レーザの揺らぎが信号に影響を及ぼし、伝送特性を劣化させてしまいる。このため、長らく前方励起ラマン増幅用の新しい励起光源技術の開発が望まれていた。

新しい励起光源技術の内容

 今回の新しい励起光源技術は、インコヒーレント光源に半導体増幅器(Semiconductor Optical Amplifier:以下、SOA)の発する自然放出光(Amplified Spontaneous Emission:以下、ASE)を利用している。ASEはランダムな光であり、ファブリ・ペロー共振器構造のレーザにみられる発振モード間の揺らぎが無く、前方励起ラマン増幅でも信号光に影響を与えない。
 一方、光ファイバ通信システムに適用するには小型、高信頼な光モジュールが必要となるが、同社はデジタルコヒーレント光伝送用信号光源で培ってきたSOAおよび高度なパッケージ技術を有しており、これらを最大限に活用し小型で高出力なインコヒーレント光源技術の開発に成功した。また、インコヒーレント光を励起レーザでラマン増幅する技術開発も合わせて進め、光ファイバ通信システムへの適用領域拡大も図った。例えば、新しい励起光源を1次励起、励起レーザを2次励起とすれば長距離伝送システムの特性向上が容易になる。
 EDFAおよびラマン増幅用の励起レーザで世界をリードしてきた古河電工は「今回のインコヒーレント光を用いた新しい励起光源技術の開発によって、引き続き光ファイバ通信システムの大容量化、高度化に貢献していく」としている。

新しい励起光源技術を用いた前方励起ラマン増幅

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