光通信、映像伝送ビジネスの実務者向け専門情報サイト

光通信ビジネスの実務者向け専門誌 - オプトコム

有料会員様向けコンテンツ

波長帯拡張19コア一括光増幅器を用い、715Tbps、2,009km伝送成功【NICT、古河電工】

テレコム 無料

大容量と長距離伝送を両立しつつ、消費電力やスペース削減に期待

 NICTネットワークシステム研究所と古河電気工業(以下、古河電工)は3月28日、二つの波長帯に対応した19コア一括光増幅器を開発し、これを用いた715Tbpsの高密度波長多重信号の2,009kmにわたる伝送実験に成功したと発表した。
 これまでのマルチコア伝送の研究では、距離が数10kmで中継増幅なしの大容量伝送、または、中継増幅を行い1,000km超の長距離であるが伝送容量が比較的小さい試みのみだった。
 今回、特性が異なる二つの通信波長帯(C帯及びL帯)全域345波長にわたって、16QAM信号(総容量715Tbps)を19コア一括で中継増幅し、周回伝送系による総延長2,009km伝送に成功した。同成果により、大容量と長距離が要求されるネットワークでも、一括光増幅器を用いたマルチコア伝送システムが実現可能であることを実証した。さらに、一括光増幅器を利用することで、ネットワークの消費電力低減、コストや設置スペースの削減が期待できる。
 なお、同論文は、第42回光ファイバ通信国際会議(OFC2019)にて非常に高い評価を得て、最優秀ホットトピック論文(Post Deadline Paper)として採択されている。

背景

 増大し続ける通信トラヒックに対応するため、従来の光ファイバの限界を超える新型光ファイバと、それを用いた光伝送システムの研究が世界中で盛んに行われている。これまで、大容量を目指した研究では、数10km程度の距離で光増幅器は利用されず、長距離を目指した1,000kmを超える中継増幅伝送では、波長帯域が限られ伝送容量が比較的小さい試みだった。大容量を実現するためにはコア数と波長数を増やすことが有効だが、波長数を増やすためには、波長間隔を狭くし密度を上げ、加えて特性が異なるC帯及びL帯を使用するため、多くのコアの光信号の一括増幅は難しく、実現していなかった。また、マルチコア一括光増幅器は、光増幅器の数を削減し、消費電力低減、コストや設置スペースの削減が期待できるため、コア数が多いマルチコアファイバに対応し、複数波長帯の光信号を一括増幅する光増幅器が待たれていた。

今回の成果

伝送実験システム(一部)の写真

 今回、古河電工が開発した19コアC+L帯光増幅器を用いて、NICTが19マルチコア伝送ファイバと共に周回伝送システムを構築し、715Tbpsの大容量光信号を2,009km伝送することに成功した。これは、伝送能力の一般的な指標である容量距離積に換算して従来の約1.4倍である1.4エクサビット×kmとなり、世界記録となる。
同伝送システムは、以下の要素技術から構成される。

  • 19コアC+L帯一括光増幅器
  • 19コア伝送ファイバ
  • 345波長一括光コム光源
  • 1パルス4ビット相当の16QAM多値変調技術

 同光増幅器は、C帯とL帯の光信号それぞれに対して異なる増幅特性を持つ19コア増幅ブロックを作成し、波長多重カプラを用いて合分波することにより、C帯とL帯の増幅を同時に行えるようにしたものだ。19コアという多数のコアを収容して高効率に増幅特性を得るため、既存の光増幅器(EDFA: Erbium Doped Fiber Amplifier) と異なり、ダブルクラッド構造を持つ利得ファイバ(EDF)の内側クラッドに励起用のレーザ光を導入し、19コアを一括して励起し、増幅動作をさせる点に特色がある。

図は、光増幅器数の違いをイメージした、マルチコア伝送システムと既存のシングルコア伝送システムの比較。下は、シングルコアファイバを複数本用いて、既存のネットワークで大容量を実現し長距離伝送した場合のイメージ図であり、上は、マルチコアファイバと一括光増幅器を用いた伝送システムで、大容量かつ長距離伝送した場合のイメージ図で。マルチコア伝送システムでは、(コア数-1)の光増幅器の削減が可能で、消費電力低減、システムのコストや設置スペースの削減が期待できる。

図は、マルチコア一括光増幅器を使ったこれまでの伝送実験の結果と今回の成果の比較。7コアでは大容量が難しく、19や32コアでは長距離と大容量の両立が実現しなかったが、今回は19コア光増幅器を使い、2,009km、715テラbps、1.4エクサbps×kmを達成した。

図は、今回開発された19コア一括光増幅器の内部構造。C帯用とL帯用の19コアEDF(利得ファイバ)は、それぞれ2つのクラッドを持つダブルクラッド構造が導入され、励起レーザは、内側クラッドに注入され、19コア全てを一括で励起する。励起に用いられなかった残存のエネルギーは、19コアEDF直後の励起光除去素子にて熱に変換される。19コアEDFの両端には、19コア伝送用ファイバ及びアイソレータが配置されている。C帯とL帯の混在した光信号は、それぞれの波長帯に対応したEDFに導入され、増幅された後に再度、合波される。

図は波長当たりのデータレート。多少のばらつきはあるものの、C+L帯345波長において、ほぼ均等で安定したデータレートが得られ、合計で715Tbpsを実現した。

今後の展望

 NICTネットワークシステム研究所と古河電工は「ビッグデータや5Gサービスなど、今後ますます増加していくトラヒックをスムーズに収容可能な次世代の光通信インフラ基盤技術の確立に向けて、実用化加速の要となる革新的技術の研究開発や、産学官連携による国際標準化への取組を強化していく」としている。