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オープン光ネットワークの監視・制御の課題解決に向けた共通の監視・管理制御技術の開発・実証に成功【慶應義塾大学、NEC、KDDI総合研究所】

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マルチベンダ環境でも信頼性の高い光ネットワーク構築が可能に

 慶應義塾大学、NEC、KDDI総合研究所の3機関は3月30日、異なる複数のベンダの伝送装置で構成されたオープン光ネットワークにおいても、共通に監視及び制御することが可能な技術を研究開発(以下、本研究開発)し、信頼性の高い光ネットワークの構築が可能となることを実証したと発表した。
 これは、総務省委託研究 研究開発課題「新たな社会インフラを担う革新的光ネットワーク技術の研究開発」の技術課題Ⅲ「高効率光アクセスメトロ技術」(平成30年度~令和3年度)(JPMI00316)での取り組みだという。

 オープン光ネットワークは、更改周期や更新時期の異なる光ネットワークの機能モジュール(トランスポンダ、ROADM機能等)を適時適所に導入可能であり、光ネットワーク全体の装置コストの低減が期待されている。一方で、光信号品質の担保や装置制御の複雑化、障害特定・復旧の困難さが増大することが予想され、オペレーションコストの増大や信頼性の低下が懸念されていた。
 本研究開発では、リアルタイム監視、マルチベンダ制御、高可用ルーティング技術を確立し、国内外の5ベンダの伝送装置から構成されるテストベッドにて、光ファイバ障害やトランスポンダ障害時の自動障害復旧が可能であることを確認した。これにより、運用コストの増加を抑えると共に高信頼なマルチベンダ光ネットワークを構成できることを実証し、今後のマルチベンダ対応光ネットワークの実用化に道筋をつけることができたという。
 本研究開発は、慶應義塾大学理工学部山中研究室、NEC、KDDI総合研究所ら(以下、本研究グループ)によって実施された。

本研究開発のポイント

  • 異なる複数のベンダの伝送装置で構成されたオープン光ネットワークにおいて、伝送路やノードの障害をベンダ非依存でモニタリング可能な監視技術と、共通なAPIを用いてベンダ非依存に装置の制御が可能な制御プラットフォーム技術を研究開発した。
  • 上記開発技術を、5ベンダの装置で構成されたテストベッドにて自動障害復旧のシナリオに適用し、運用コストの増大を抑えながら高信頼な光ネットワークの構築が可能であることを実証した。
  • データセンタ並の信頼度の機器を用いても、耐障害性を劣化させない新しい経路割当概念を提唱した。

研究背景

 光伝送装置のオープン化の流れは急速に進んでおり、今後数年程度で実用化が行われる可能性がある。オープン化に必要な技術として、各ベンダの装置の制御インターフェースの共通化、各コンポーネントの共通モデル化、異種ベンダ間の相互接続性の担保等が必要であり、TIP、Open ROADM等のデファクト標準化団体により、検討が進められている。
 一方、メトロ・基幹伝送ネットワークで必須である、異種ベンダ装置で構成されるマルチベンダ光ネットワークにおける監視技術、ファイバ断線等の異常検知時におけるネットワークプロテクション等の高信頼化技術については、検討が道半ばだ。例えば、マルチベンダ光ネットワークの管理系はベンダ毎の異なったアラーム体系に基づくため、各ベンダのアラームを統一解釈する仕組みが別途必要となる等、管理系の複雑化、コスト高を招く可能性がある。

研究内容・成果

図1:各開発内容と実証実験概要

 本研究グループは、オープン光ネットワークの監視・制御の課題を解決するために、次の基盤技術を開発した。

  • 光物理層の監視技術として、障害として起こる可能性が高い伝送路障害、トランスポンダ異常出力を監視する技術に注目し、かつ、光ネットワークへの多数配置、常時監視を行うための低コスト化を実現する技術の開発を行った。
    具体的には、伝送路を監視する多ポート伝送路監視装置(リアルタイムOTDR)、および、波長フィルタ、フォトダイオード、独自のアルゴリズムで構成したリアルタイム簡易スペクトルアナライザの開発を完了した。(図1: NEC)
  • ベンダ非依存の管理システムとしてオープンソースであるOpen Network Operating System (ONOS)を活用し、Open ROADMモデルを用いた管理モデルの共通化や光パスの設計モジュール等の開発等を通して、監視、プロテクション等の高信頼化技術を搭載したマルチベンダ対応の管理システムを構築した。
    また、設計モジュールにおいてGNモデルを用いた伝送路特性の推定を行い、これまでベンダ固有の機能に依存していた光信号品質の保障技術をマルチベンダ対応の管理システム上に実現した。(図1: KDDI総合研究所)
  • 転送容量を固定的な確定値ではなく、期待値として確保する転送容量期待値保証ルーティング(ECGR:Expected Capacity Guaranteed Routing)の概念(図2)を提唱し、稼働率が99%の光伝送装置を用いても、稼働率が99.999%の光伝送装置を用いた場合と同等の通信容量提供が可能であることをコンピュータシミュレーションにより実証した。
    また、光伝送装置から取得した情報に基づいて個々の機器の故障予測を行うことで、ECGRにおいて機器全体の故障率平均値ではなく個々の機器の状況に対応した故障率を適用し、光ネットワークの資源利用効率の向上が図れることを確認した。
    さらに、故障予測に基づいた動的な資源割り当ての考え方を、将来のホワイトボックス転送・伝送装置の制御部が提供すると予想されている計算機資源群に適用するECGRを応用したエッジコンピューティング環境に適用することの有効性を確認した。(図1: 慶應義塾大学)

図2:転送容量期待値保証ルーティング(ECGR)の概念説明図

実証実験

 本研究グループは、個々の上記基盤技術を組み合わせることで、オープン光ネットワークにおける高信頼化技術を実証した。本実証の風景は、けいはんな情報通信オープンラボ研究推進協議会 IoTネットワーク基盤分科会オープン光ネットワーク基盤ワーキンググループのWebサイトにて掲載されている。

1. 物理層(光レイヤ)の連携検証
異種ベンダ機器で構成するマルチベンダ光ネットワークのテストベッド(図3)をKDDI総合研究所内に構築し、NECが開発したマルチベンダ対応の監視装置、および、KDDI総合研究所が開発したオープンソースベースのマルチベンダ対応の管理システムを組み合わせ、実証実験を行った。
実証実験では、マルチベンダ対応の監視装置が光伝送路障害やトランスポンダ障害を検知し、経路再設計と装置設定が連動したマルチベンダ対応管理システムを介することで、シングルベンダで構成した光ネットワークと同等の運用コスト(シングルコマンド動作)で高信頼なマルチベンダ光ネットワークを構成できることを実証し、今後のマルチベンダ対応ネットワークの実用化に道筋をつけた。

2. 物理層とルーティング技術を組み合わせた連携検証
1.で構築したマルチベンダ光ネットワークテストベッドと、慶應義塾大学内に構築したECGRテストベッドを接続し、ECGRテストベッド内の光リンクを光ネットワークテストベッドが提供する実証実験環境を構築した。
光ネットワークテストベッドの光ネットワーク制御プラットフォームが保持する装置の状態情報や品質情報を、ECGRテストベッド内のECGR管理装置に取り込み、計算される光ネットワークの故障率が時間の変化に伴い劣化または光ネットワーク内の経路変更により向上するのに併せて、ECGRが利用する複数経路の容量割り当てが動的に変化することの実証実験を行った。
実証実験において、光ネットワークと上位レイヤのECGRが連携することで信頼性向上に寄与しうることを実証し、将来のデータセンタ並の信頼性機器での運用可能性に道筋をつけた。

図3:マルチベンダ構成のオープン光ネットワークテストベッド

今後の展開

 3機関は「今回の研究開発の結果から、運用コストの増加を抑えると共に高信頼なマルチベンダ光ネットワークを構成できること確認することができた。これらは安心安全な電気通信ネットワークの構築に大きく貢献する。今後は、本研究開発で確立した基盤技術を基に、これまで進めてきた顧客ヒアリングをさらに進めて真に役立つ技術の峻別を行い、光ネットワーク監視・制御基盤技術の開発及び検証等を推進し、2020年代半ばの実用化をめざして研究開発に取り組む」との考えを示している。