6G時代に自動車や列車での安定した大容量通信を実現する、分散MIMOの実証実験に成功【NTT、ドコモ、NEC】
DX/IoT/AI 無料車両の高速走行時や高速移動の他車両による遮蔽時にも高周波数帯で安定した通信を提供
日本電信電話(以下、NTT)、NTTドコモ(以下、ドコモ)、日本電気(以下、NEC)は3月25日、基地局から複数のアンテナを分散配置する40GHz帯分散MIMOにおいて、適切なアンテナおよびビームを高速に選択する技術と、基地局側主導で無線端末側の受信周波数や受信タイミングが大きく変化することを防ぐ周波数・タイミング補正技術により、周辺を高速移動するバスやトラックなどに遮蔽される場合や無線端末自身が高速移動する環境においても、通信品質の低下を抑制する実証実験に成功したと発表した。
これにより、自動車や列車など高速移動環境において、多数の乗客へ大容量コンテンツの提供や自動運転に向けた大容量センシングデータの収集などのユースケースに対して、ミリ波分散MIMOにより安定した大容量無線通信を実現できる可能性を示した。
今後は、高周波数帯分散MIMOの高速移動環境への社会実装に向けて、一般道路や鉄道などの実サービスを想定した実証実験を進めるとともに、分散MIMOの適用周波数の拡大をめざしミッドバンド帯など、さらに幅広い周波数帯への分散MIMOの適用を検討していくという。
本実験の成果は、「つくばフォーラム2025」(5月15日~16日)および(5月28日~30日)に開催される「ワイヤレスジャパン 2025×ワイヤレス・テクノロジー・パーク(WTP) 2025」に出展する。
背景
5G Evolution & 6Gでは、サイバー空間とフィジカル空間が融合した世界での映像・センシング情報の収集、車両とあらゆるものが連携して自動運転等を実現するV2X(Vehicle to X)、五感情報や雰囲気、安心感などの感覚も含めた多感通信などの実現が期待されている。これらの実現には無線通信のさらなる高速化・大容量化が必要であり、5Gから利用可能になったミリ波帯を有効活用し、さらに高い周波数帯を移動通信に活用することが検討されている。
これら高周波数帯は電波の直進性が高いため、遮蔽対策が重要となる。その対策として、1つの基地局から多数のアンテナを分散配置し、各無線端末に対して複数の分散アンテナから無線伝送を行う高周波数帯分散MIMOシステムは有力な解決手段の一つだ。
NTT、ドコモ、NECは2022年6月に発表した高周波数帯分散MIMO技術の実証実験協力にもとづき、端末移動予測によるアンテナ選択技術の実証実験を行い、屋内遮蔽環境での安定した大容量無線伝送を実現した。さらに、複数の無線端末が同時に同一周波数チャネルで無線伝送する場合に、各分散アンテナで形成されるアナログビームフォーミングの干渉抑制効果を最大限活用するマルチユーザ伝送技術の実証実験を行い、歩行速度で移動する場合でも静止時と同じ無線伝送容量を実現した。
今後の展開として、高周波数帯を活用した無線通信の大容量化を活用する有望なユースケースに、自動車や列車など高速移動のケースが想定される。高速移動体では、車両自体の高速走行や周囲の高速移動する他車両によって通信環境に急激な変化が生じることが考えられる。このような急激な変化に対応するため、通信品質の良いアンテナおよびビームを高速に選択できる必要があるものの、分散アンテナ数の増加に伴い選択候補が膨大になるという課題があった(以下、「課題1」)。加えて、高速移動中に分散アンテナを切り替えると、ドップラー周波数や伝搬遅延が急激に変化するため、通信品質の大幅な低下が生じるという課題もあった(以下、「課題2」)。
実証実験の内容
分散アンテナ同時ビームサーチ技術(以下、「技術1」)
課題1を解決するために、NTTとドコモは、複数の分散アンテナで、同一のビーム識別信号を用いて、同一時間・同一周波数を使って、最適な分散アンテナとビームの組み合わせを高速に検出可能なビームサーチ技術を開発した。そして、停車する無線端末と分散アンテナの間を約50km/hで走行する車両により遮蔽される場合に、従来の全組み合わせ検索では最適な組み合わせ検出に掛かる時間が分散アンテナ数に比例して(今回の実験環境では4倍)通信品質の劣化が生じるのに対して、技術1により、1分散アンテナ相当の時間で組み合わせの検出が可能となり、通信品質の劣化を抑制できることを実証した。
技術の概要
高周波数帯分散MIMOによる伝送のためには、無線端末毎に無線通信環境の変化に応じて、最適な分散アンテナとビームの組み合わせを検出する必要がある。そのためには分散アンテナとビームの各組み合わせの無線品質を定期的に観測する必要がある。従来では、分散アンテナ間でビーム識別信号が干渉しないように分散アンテナ毎にビームを切り替えながら、ビーム識別信号を送信し、無線端末が各分散アンテナと各ビームの全組み合わせの無線品質を観測していた。しかしながら、本方法では、分散アンテナ数の増加に伴う観測時間の増加により、最適なアンテナとビームの検出が遅れる問題があった。
そこで、NTTとドコモは、各分散アンテナがビーム切り替えを同時に行い、同時に同一のビーム識別信号を送信することで、分散アンテナの数が増えても観測時間を一定に抑えながら、分散アンテナ間のビーム識別信号が干渉しないため無線端末はビームの識別が可能となり、各分散アンテナからのビーム識別信号の合成受信品質により適切な分散アンテナとビームを選択できる手法を考案した。(図1)
本手法により、複数の分散アンテナに対する適切なビームの選択を、1つの分散アンテナに掛かる探索時間と同等の時間で実現することが期待できる。

図1:分散アンテナ同時サーチ技術の概要
実験内容および結果
技術1の実証実験を、国土交通省 国土技術政策総合研究所の試験走路で実施した(図2-1)。使用した実験機の周波数帯については、国内での5Gミリ波で使われる28GHz帯やそれ以上の高周波数帯での活用を想定して、より高い周波数帯である40GHz帯を使用した。その他の物理仕様は5G NRに準拠しており、信号帯域100MHz、サブキャリア間隔60kHzのOFDM方式だ。また、基地局装置からのIF(Intermediate Frequency)信号をアナログ信号のまま光ファイバで伝送するA-RoF(Analog – Radio over Fiber)を用いて、基地局装置は複数の分散アンテナを接続している。分散アンテナは道路の両端の#1~#4の位置に4台設置し、無線端末は車両の天井上部に前方向に向けて2アンテナを装備して図の位置に配置した。さらに、高速移動する遮蔽物として大型車両が図中の経路を約50km/hで移動させた。
アンテナおよびビームの選択に技術1を適用した場合と、各分散アンテナで順にビーム毎の通信品質を観測して選択した場合(以下「従来技術」)のスループット特性を評価した(図2-2)。なお、分散アンテナ側の候補となるビーム数は16、無線端末側の候補となるビーム数は9とし、アンテナおよびビームの選択周期は観測に掛かる時間より、技術1では120ms、従来技術では480msとして実験評価した。グラフの横軸は時間、縦軸は下りリンクのスループットを示す。全ビームの通信品質の観測に時間を要する従来技術では、大型車両で遮蔽されてからアンテナおよびビームが切り替わるまでに約350ms程度のスループットが大きく落ち込む区間が見られる。一方で、技術1では1分散アンテナ相当の時間で全アンテナおよびビームの観測を完了することができるため、100Mbps以下へのスループットの落ち込みを回避でき、落ち込みの時間も約100ms程度まで、約1/4の時間に抑えることができていることを確認した。技術1は分散アンテナ数によらずアンテナおよびビームの選択時間を抑えることが可能なため、より多くの分散アンテナを展開するケースにおいて、より高い効果を期待することができる。

図2-1:技術1の実験環境

図2-2:実験結果(従来技術と技術1のスループットの比較)
アンテナ間で協調した周波数・タイミング事前補正技術(以下「技術2」)
課題2を解決するために、NECは、高速移動に伴うドップラー周波数や伝搬遅延の変化を無線端末側に感じさせないユーザセントリックな通信の実現に向け、基地局側の分散アンテナ間で協調して無線端末が受信する周波数やタイミングを事前に補正する技術を開発した。技術2により、アンテナ切り替え時におけるスループットの低下を抑制し、無線端末が100km/hで走行した際にも、安定して大容量通信を実現できることを実証した。
技術の概要
従来、無線端末は、基地局からの無線信号に対して周波数やタイミングを合わせることで、基地局との無線通信を行う。ここで、自動車や列車など高速移動体においては、移動に伴って分散アンテナの切り替えが発生するが、無線端末に対するドップラー周波数や伝搬遅延は分散アンテナ間で異なるため、アンテナ切り替えの前後でドップラー周波数や伝搬遅延の急激な変化が発生し、通信品質の低下が課題となる。そのため、技術2では、基地局側において、受信した上り参照信号を用いて分散アンテナごとにドップラー周波数や伝搬遅延の変化を測定し、無線端末側での受信周波数や受信タイミングが一定になるように、分散アンテナ間で協調して送信周波数や送信タイミングを事前に補正する(図3)。技術2により、無線端末側では従来同様に基地局からの無線信号に対して周波数やタイミングを合わせるだけで、アンテナ切り替え時におけるドップラー周波数や伝搬遅延の変化が抑制され、無線端末に移動を感じさせないユーザセントリックな無線通信を実現する。

図3:アンテナ間で協調した周波数・タイミング事前補正技術の概要
実験内容および結果
技術2の実証実験を、技術1と同様の試験走路にて、同様の実験機と無線端末車両を用いて実施した。図4-1に示すように、高速移動環境を模擬して分散アンテナを道路の片側に150m間隔で#1~#3の位置に3台設置し、基地局と分散アンテナの接続には技術1と同様にA-RoFを用いて、無線端末車両を100km/hで走行させて下りリンクの伝送実験を行った。
無線端末側だけで周波数やタイミングを補正する従来技術と、基地局側でもアンテナ間で協調して周波数やタイミングを事前補正する技術2の下りリンクのスループットを比較した。図4-2に示すように、従来技術の場合、アンテナ切り替え時にスループットが10Mbps程度まで大幅に低下したのに対して、技術2を適用した場合、アンテナ切り替え時におけるスループット低下を抑制し、100Mbps程度で維持できることを確認した。これにより、高速移動時でも安定してミリ波を用いた大容量通信を提供できるようになる。
なお、本実証環境の点群データ取得も実施しており、今後はシステムレベルシミュレーションによる無線性能評価も実施していく予定で、リアル/サイバー空間の融合に向け検討を進める予定だ。

図4-1:技術2の実験環境

図4-2:実験結果(従来技術と技術2のスループットの比較)
今後の展開
今後は、ミリ波による大容量化の有望なユースケースとして、自動車やバス、鉄道などの実サービス環境において実証実験を行い、高周波数帯分散MIMOシステムの適用領域を拡大する研究開発およびミリ波の社会活用促進を進めていくという。