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5G無線向け低消費電力技術を開発

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アンテナのサブアレイ間符号化技術により、ミリ波高速通信の実用化を促進

 富士通研究所は9月6日、第5世代(5G)移動体無線通信の基地局やアクセスポイント向けに、10Gbps超の高速通信をWi-Fi並みの低消費電力で実現可能にするサブアレイ間符号化技術を実装した無線装置を試作し、複数の端末に対して同時に電波を送信する実証実験に成功したと発表した。
 2020年頃の実用化を目指して開発が進められている5Gの超高速通信を実現するために、ミリ波帯の活用と、多数のアンテナ素子を使って各端末に同時にビーム状の電波を送信する技術が注目されている。従来、デジタル回路とアナログ回路の両方で制御することによって、電力を多く消費する回路の数を減らすことができるハイブリッド方式が開発されているが、複数の端末に向けた電波が干渉し通信速度が低下する課題がありった。今回、この干渉を低減して通信速度の低下を抑えながら、低消費電力を実現する技術の有効性を実証した。
 この技術により多数のユーザが密集した場所で同時に通信しても、高速で快適な通信を行うことが可能になる。

開発の背景

 スマートデバイスの普及に伴い、無線データ通信のトラフィック量は1年で2倍弱のペースで増大しており、2020年頃には2010年比1,000倍になると予想されている。このため、10Gbps超の通信速度を実現する5G移動体無線通信技術の研究が世界各国ですすめられている。
 通信容量を増大させるためには、携帯電話基地局やWi-Fiアクセスポイントがカバーするエリア半径を小さくして面積あたりの通信可能な端末数を増やすことや、広い帯域幅を利用するなどの方法がある。
 数GHzの帯域幅を利用可能なミリ波を使った高速通信は、数10m~数100mの間隔で携帯電話基地局やWi-Fiアクセスポイントを設置することが想定されるため、無線装置が多数必要となり、無線装置の低消費電力化が重要となる。

図1 :5Gや無線LANで想定されるネットワーク構成

図1 :5Gや無線LANで想定されるネットワーク構成

課題

 5Gの超高速通信実現に向け、ミリ波帯の活用と、多数のアンテナ素子を制御してビーム状の電波を各端末に向けるMassive MIMOが注目されている。アンテナ素子にはアンテナから電波を飛ばすためにデジタル信号をアナログ変換するD/A回路が必要となるが、ミリ波帯においてアンテナ素子それぞれにD/A回路を一つずつ使用するデジタル方式にした場合、高速なD/A回路が多数必要となり、消費電力が大きくなる問題がある。
 そのため、信号処理の一部をアナログのアンテナ素子部分で行うことで、複数のアンテナ素子に対して一つのD/A回路を接続し、D/A回路数を削減することにより消費電力低減が可能となるが、このアナログとデジタルの両方でビームを生成するハイブリッド方式の場合、端末に向けたビームが互いに干渉し、通信速度が低下するという課題がある。例えば、アンテナ素子数が128、ビーム多重数が8の場合、デジタル方式に比べてハイブリッド方式ではD/A回路を16分の1に削減できるが、多重したビームが互いに干渉するため、通信速度は最大8分の1に落ちてしまう。

開発した技術

図2:インターリーブ型ハイブリッドビーム多重

図2:インターリーブ型ハイブリッドビーム多重

 富士通研究所では、ハイブリッド方式の1つであるインターリーブ型の構成では、不要放射によるビーム間干渉をキャンセルすることが可能であることを発見し、2016年3月にこの技術をサブアレイ間符号化方式として発表している。

 インターリーブ型では、1つのD/A回路に接続するアンテナ素子の集まりであるサブアレイ内の、アンテナ素子間隔を広げて、サブアレイの範囲を大きくしている。アンテナは範囲が広いとビームが細くなり、アンテナ素子間隔が広がるとグレーディングローブと呼ばれる不要放射が発生する性質を持っている。サブアレイの素子が1つ置きに配置した場合(図2)、A・Bのサブアレイからそれぞれ、A・Bの信号が2方向に電波として放射される。

図3:サブアレイ間符号化ビーム多重

図3:サブアレイ間符号化ビーム多重

 ただし、Aは2つの方向でA、Aと同じ位相の電波ですが、Bはアンテナ素子の位置関係によってB、–Bと方向により電波の位相が変わる。この性質を利用し、サブアレイ間で適切な符号化をすることで(図3)干渉をキャンセルしてビームを多重することができる。このとき、1つのサブアレイにA + Bの信号を入力し、他方のサブアレイにA – Bの信号を入力すると、ある方向では(A + B) + (A – B) = 2Aと、信号Aだけの電波となり、別の方向では(A + B) – (A – B) = 2Bと信号Bだけの電波とすることができる。

図4:サブアレイ間符号化の実測結果

図4:サブアレイ間符号化の実測結果

 今回、インターリーブ型のハイブリッド方式でサブアレイ間符号化を実装した60GHz帯の試作機を開発して、実測で狭い多重ビームの生成と10Gbps超の高速通信を確認したという(図4)。

効果

図5:試作したアレイアンテナボード

図5:試作したアレイアンテナボード

 開発技術を用いることで、多数のユーザが密集した場所で同時に通信しても、通信速度低下を最小限に抑えることができ、高画質の動画視聴や、撮影動画をアップロードする場合などでも、高速で快適な通信環境を提供できる。
 高速通信と低消費電力化の両立を可能とする本技術を用いることで、狭いエリアに多数の携帯電話基地局やWi-Fiアクセスポイントを設置するミリ波高速通信の実用化が進むと考えられる。
 富士通研究所は、ミリ波無線機のさらなる高速化とビットレートあたりの低消費電力化を進め、2020年頃の実用化を目指すとしている。