ノキアが取り組む、AIイノベーションと先進ネットワーク【AIコネクティビティのための超高効率ネットワーク】
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ノキア
ストラテジー & テクノロジー
フェロー 特別研究員
ハリー・ホルマー氏
ノキアのストラテジー & テクノロジー フェロー 特別研究員であるハリー・ホルマー氏からは、モバイル5Gによる通信事業者の新たな収益モデルや、モバイルインフラにおけるAI活用のメリットおよび6Gの最新研究動向が解説された。
5Gと一括りで表現しても、それを運用する事業者によって、平均データレート、AIによる効率化、SA化によるマネタイズなど、様々な要素により差別化が図られている。つまり、「5G」という言葉の背後には、通信品質の成熟度・AI運用レベル・商用モデルの進化段階といった、複層的な進化の差が存在する。
そして6Gは、商用展開のタイミングとして2029年末から2030年が見込まれており、それに向けた標準化が進められている。その商用開始時には、5Gよりもはるかに高いパフォーマンス、AI活用、衛星との連携、センシング機能などが想定されており、その実現に向けて様々な研究が進められている。
これら5G、6Gの要点について、ノキアで先進的な研究に携わるホルマー氏が、どのような見解を示したのか。以下にレポートを纏めた。
グローバルで進む、5Gの高速化と収益化
5Gの高速化を実現する要素は、新しい5Gのプロトコルや、TDDスペクトルの利用、新しいビームフォーミングのMassive MIMO無線機などが挙げられる。こうした技術を駆使し、各国は5Gの平均データレートの高速化を達成している。

ノキアが提示した、GDP上位20カ国における、各国の5Gの平均データレート。
ホルマー氏は「現在、多くの国の5Gが素晴らしい平均データレートを達成している。300Mbps超え、または500Mbpsに到達している国もある。5Gは超高速な接続を提供したという意味で、成功を収めている。ノキアの無線機はこれまで、GDP上位20カ国のうち14カ国で展開をされているので、明らかにノキアの製品がこの世界各国の5Gのテクノロジーのパフォーマンスに貢献していることが見てとれる」とし、「日本のモバイルネットワークは素晴らしいが、日本の平均データレートをグローバルのベンチマークと比較していただくと、まだ改善の余地があるのが分かる。ノキアは、日本が5Gのメリットを本当の意味で享受できるように、日本のパートナー様と協力してグローバルのテクノロジーの活用を進めていきたい」と話している。

ノキアは、日本の主要パートナーと協力している。
ノキアは日本でのビジネスにおいて、5G、そして6Gの領域で日本のパートナーと密に協力している。これがノキアの開発や製品の改善に影響し、またノキア製品が日本の要件に合致する好循環を生んでいる。モバイル分野における、最近の主な取り組みは次の通り。
・AIを無線アクセスネットワークで活用するAI RANの取り組みでは、2024年からソフトバンクやKDDI等と協業を開始しており、2025年も継続している。
・6GにおけるAIベースの無線接続の実証検証では、既にNTT等のパートナーと共に取り組んでいる。
・6Gの展開に必要な新しい周波数帯である7GHz帯に関して、そのスペクトルがどのような振る舞いなのか、伝搬特性なのかを、ソフトバンク等と共に日本の環境で実証実験をしている。
・楽天モバイル等とは、収益化を重要な要素として5G SAに向けた取り組みも行っている。
5Gが固定無線アクセス(FWA)の普及と成功を加速

米国におけるFWA加入者の急成長。現在のFWA加入者は1,400万。FWAサービスにより米国の通信事業者は、50億ドル以上の収益。
5Gの平均データレートが高速化されることで、モバイルユーザだけでなく、同じ5Gのネットワークを使うFWAのユーザ体験も向上する。
ホルマー氏は「FWAは、成功を収めている国が多くある。もちろん日本もそうだ。またインド、オーストラリア、ヨーロッパでも成功を収めている。例えば、アメリカでは急速に成長している市場であり、現在、およそ1400万のFWAの加入者が5Gのテクノロジーを使っている。加入者は高速のブロードバンドの接続を使うことができることで満足度を高め、モバイル事業者も収益がアップしている」とし、「アメリカでは現在、このFWAがモバイル事業者に50億ドル以上の追加の収益をもたらしているというデータがある。そしてまた、課題も生まれている。現在、FWAの加入者は多くのデータを消費するヘビーユーザになっており、すでに多くのモバイルネットワークでトラフィックの半分を占めている。これが、5Gのネットワークをさらに高速化・効率化するべき理由になる」と説明している。
5G SAとAI-RANが、さらなる収益化を可能に

ノキアの顧客は、収益化の最大化に向けて5G SAとAI-RANに注目している。
5Gの収益化を進める上で、5G SAへのアーキテクチャ移行とAI-RANが必要というのが、ノキアと顧客の見解だという。
ホルマー氏は「新しい種類のデバイスの登場も、ネットワーク要件に変化を与えている。例えば、AI搭載デバイスは、特にアップリンクにおけるネットワーク要件を増加させる」と指摘する。

AI搭載デバイスが生み出す新たなユースケースにより、今後はアップリンクの重要性が増していく。
ノキアでは、AI搭載デバイスがネットワークのトラフィックにどのような影響をもたらすかについて、次のように分析している。
現在、モバイルネットワークのデータ使用量では主にダウンリンクが圧倒的であり、アップリンクと比べて十倍となっている。これは、ビデオストリーミングなどで使われているためだ。だが、デバイス内のAIがより多くのコンテンツを作成できるようになることで、アップリンクの増加という変化がある。例えばシーン認識では、その写真を分析するためにクラウドへのアップロードが実行される。そして写真を美しくするといった編集がAIで可能になっている。また、AIエージェント等がスマートフォンに搭載されると、スマートフォンとクラウドの間のトラフィックが増加する。
ホルマー氏は「AIユースケースにより、ネットワークはより多くのデータを送信できることが求められる。アップリンクではより多くのパフォーマンスが必要になるので、今後はダウンリンクよりも重要性が増していく」との見解を示している。
6Gは効率を高め、新しいユースケースを可能にする

6Gの進化の方向性。
将来の6Gの商用化に向けて、ノキアは非常に高いターゲットを想定している。現在の5Gと比較し、ネットワークの効率化、カバレッジエリアの拡大、アップリンクのデータ量の増加をめざし、基地局やデバイスの電力効率の向上も重視している。また、AI やXRのユースケースを想定した接続を最適化するデザインや、統合されたセンシング、衛星との接続、デバイスの拡張性もある。
ホルマー氏は「6Gへのアップグレードは、非常に簡単になることを重視している。5Gのコア、スペクトル、サイトを再利用することで、通信事業者は5Gから6Gへと簡単にアップグレードできるようになるだろう」とし、「また、アーキテクチャをシンプルにしたい。5Gの現在の課題として、NSAとSAという二つのアーキテクチャが混在している点が挙げられるので、6Gでは単一のスタンドアロン アーキテクチャにすることで、進化を円滑に進めたい」と話している。

6G標準化は、高い目標から始動する。例えば、基地局のピークのデータレートは100Gbps、電力消費量は5kWh/TB未満と、5G比で10倍の改善となる。スペクトルのリファーミングも効率化される。そして新しいサービスやデバイスのスケーラビティに関しては、音声やIoT・ウェアラブルが初日から使えることを目標としている。5Gの強化で使われているAIも、6Gでは完全に無線に組み込む想定となる。ホルマー氏は「衛星やセンシングなども含め、これらの実現には新しいイノベーションが必要になる」と説明している。

3GPP標準化における、6Gスケジュール。6Gの商用展開のタイミングは、2029年末から2030年を見込んでいる。
AI統合により、6G無線の効率が向上

AIは無線設計に統合され、無線の効率を向上させる。
6Gの標準化作業が進む中、ノキアとパートナーは、主なターゲット、テクノロジーを定義して、それを標準化に組み込んでいく、そして実際の製品に活かして行くというフェーズにあるという。ホルマー氏は「AIは非常に重要な6Gのコンポーネント エレメントとなる。6Gの無線のデザイン自体に、AIを不可欠な要素として組み込むことを仕様化したいと考えている。現在、私たちの研究では、このポテンシャルとして、AIを使うことで無線を効率化できる可能性があるというデータが出ている。例えば、AIをデバイスとネットワークの両方に活用することで、無線リンクのパフォーマンスを3dB上げることができる。また、ポテンシャルとして、シグナリングを少なくする、オーバーヘッドを少なくする、電力消費を下げる、スループットを上げる、といったこともAIの活用で可能になってくる」と説明している。
また、5G-AdvancedにおけるAI活用として、マルチユーザMIMOのビームフォーミング効率化や、モビリティの通信断を低減することで信頼性が向上できることも示された。

ノキアは、5G-AdvancedのAI活用の方向性を先取りして、すでに5Gハードウェア段階で実装を始めている。AIアクセラレーションチップを最新のベースバンド製品に搭載することで、無線のパフォーマンス向上を実現しており、ホルマー氏は「ラボでアップリンク受信を測定したところ、受信機のチャネルの推定をAIベースのチャネル推定のレシーバに交換することで、データレートのパフォーマンスが向上するというデータも出ている。ノキアでは、こうした5GハードウェアにおけるAIを活用した無線の改善を、6Gでさらに進めていくことになる」と説明している。
6G ISAC – 通信とセンシングを単一の無線で提供
6Gの新しい領域として、通信とセンシングを単一の無線で提供するISAC(Integrated Sensing and Communication)も重要だ。これは、通信で利用している無線機をレーダやセンサとしても使っていく取り組みとなる。この領域では、様々なユースケースが考えられている。

ISACはモバイルネットワークに“検知・把握”を付加する技術として期待されている。
・ドローンのセンシング、ドローンの識別
・交通の監視、自動車関係のアプリケーション、社内の様々な接続やレーダの統合や連携
・産業ロボットなどでのセンシング活用
・ヘルスチェックなど医療分野での活用
・基地局を気象用レーダなどにも利用する環境センシング
ホルマー氏は「6Gの無線とセンシングを組み合わせることでこうした新しいユースケースを創出することができる。これらは、新しい収益化の可能性もモバイルオペレーターにもたらすことができるだろう」と話している。
防衛および公共安全

ノキアは、防衛および公共安全向けにもポートフォリオを拡充している。
ノキアでは、モバイルの無線機を、コンシューマやエンタープライズだけでなく、警察、消防、防衛などのパブリックセーフティに活用する、デュアルユースも提案している。ホルマー氏は「5G無線は非常に効率的で、5Gのレーダは非常にパフォーマンスが高い。そのため、クリティカルなコミュニケーションのユースに活用できる」と説明している。
ノキアはこれらのクリティカルなユースケースをサポートするため、具体的な製品群を有している。例えば小型の基地局であるバンシーは、無線とコアネットワークのコネクティビティをもっている。ホルマー氏は「ローカルネットワークで非常に便利なもので、災害などで基地局がダウンした際、ローカルのカバレッジエリアをカバーすることが出来る。私のバックパックの中に収めることができるほど軽量だ」とし、「ノキアにはデバイスに強い歴史もあり、現在、非常に安全な実用的なデバイスを、防衛や公共安全のために開発・提供している」と説明している。
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