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Nscaleが、11億ドルのシリーズB資金調達を実施。ヨーロッパ、北米、中東に展開する大規模AIインフラの展開を促進するために活用

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 Nscaleは9月25日(ロンドン)、11億ドルのシリーズB(Series B)資金調達を実施したことを発表した。

 同社は「英国、欧州史上最大のシリーズB資金調達だ」としている。
 
 この資金調達はAker ASAが主導し、Sandton Capitalを含む既存株主からの継続的な支援に加え、Blue Owl Managed Funds、Dell、Fidelity Management & Research Company、G Squared、Nokia、NVIDIA、Point72、T.Capitalが参加した。

 英国に本社を置き、世界中で事業を展開するNscaleは、AIネイティブなインフラストラクチャプラットフォームであり、Nscaleが所有およびコロケーションするデータセンタにおいて、垂直統合されたコンピューティング、ネットワーキング、ストレージ、マネージドソフトウェア、AIサービスを提供している。

 Nscaleは、最も急速に成長しているインフラストラクチャ市場の一つにおいて、AIを推進するエンジンであるGPUに対する企業の需要の急増に直接対応している。ヨーロッパに拠点を置く戦略的に配置されたデータセンタは、世界有数の低コストの再生可能エネルギーを活用しており、Nscaleは厳格な規制要件を満たしながら、これらの大幅な節約を顧客に直接還元することができる。ノルウェーの大規模ハブから、レイテンシに敏感なワークロード向けに設計された小規模なメトロクラスタまで、Nscaleの次世代施設は業界ベンチマークよりも迅速かつ低コストで提供可能だ。

 今回の新たな資金は、Nscaleがヨーロッパ、北米、中東における大規模AIインフラの展開を促進するために活用され、Stargate UKやStargate Norwayなどのプロジェクト向けの“AI factory”データセンタの迅速な展開と、垂直統合型AIクラウドプラットフォームの拡張を可能にする。この資金は、エンジニアリングチームと運用チームの拡大を加速させ、世界中の企業や政府機関の顧客へのサービス提供を強化する。

 NscaleのCEOであるJosh Payne氏は「私たちは、未来のAIネイティブ・インフラ・プラットフォームを構築している。AIは産業、経済、そして国家戦略を変革している。しかし、データセンタ、GPU、そしてそれらを調整するソフトウェアといった物理的なバックボーンなしには実現できない。私たちは、次世代の技術革新を推進し、世界中の産業やイノベーターが今日不可能と思われていることを実現できるよう設計された、垂直統合型のAIエンジニアリング基盤を構築している」とし、「私たちは、急増する需要に対応し、前例のない規模でブレークスルーを実現するために設計された、この種のプラットフォームとしては最大級のグローバルプラットフォームを構築している。これにより、Nscaleはお客様に希少かつ非常に需要の高いコンピューティング能力へのアクセスを提供し、安全でコンプライアンスに準拠し、エネルギー効率の高いAIインフラストラクチャの構築を迅速に加速することができる。ヨーロッパにはハイパースケーラーが必要であり、Nscaleはその課題に取り組んでいる」とコメントを出している。

 50以上のデータセンタ構築、最先端のスーパーコンピューティング・プラットフォームの開発、大規模技術契約の交渉、数十億ドル規模のインフラ事業の拡大を手掛けてきた経験豊富なリーダーシップチームを擁するNscaleは、世界最大級のGPUパイプラインと、グローバル規模で提供できる実績のある専門知識を兼ね備えている。

 物理的なAIインフラの提供と並行して、NscaleはAIスタック全体にわたる製品イノベーションを加速させている。具体的には、ファインチューニング サービス、高度な推論API、AI Studio、堅牢なオーケストレーション ツール、プライベートクラウドの強化などを提供している。

 今回の資金調達は、Nscaleが最近打ち出した英国AIインフラ計画を踏まえた動きとなる。例えば、NscaleはMicrosoftと共同で、ロートンにあるNscaleのAIキャンパスに英国最大のAIスーパーコンピュータを開発する計画を発表した。また、Nscale、OpenAI、NVIDIAは共同で、英国でOpenAIの技術を展開するための包括的なインフラプラットフォームであるStargate UKを設立することを発表した。これは、特に主権国家のワークロードに重点を置いている。

 7月、NscaleはStargate Norwayの立ち上げ、Aker ASAおよびOpenAIとの画期的なパートナーシップにより、欧州初のハイパースケールAI事業を立ち上げ、2026年末までに10万基のNVIDIA GPUを導入することを目標としている。2か月後、NscaleとAkerの合弁会社は、ノルウェーのナルビクにAIインフラを提供するため、Microsoftと数十億ドル規模の契約を締結し、この勢いをさらに加速させた。今後、NscaleはDell Technologiesとの提携を拡大し、DellのAIインフラを活用して、欧州における主権国家のAI事業をさらに支援していく。

 Aker ASAのプレジデント 兼 CEO、Øyvind Eriksen氏は「AIは世界経済を変革し、再生可能エネルギーの価値を再定義している。Nscaleとの提携により、私たちはこの変革を加速させるために、独立性、拡張性、そして専用設計を備えたインフラを支援する。Nscaleのフルスタック、GPUファーストのモデルは、実行において真の優位性をもたらす。今回のシリーズBラウンドの規模と質は、Nscaleのビジョンと勢い、そして私たちの協力関係の強さを証明している。シリーズB投資と合弁事業の両方を通じて、私たちはAI時代における産業的重要性の構築に、長期的かつ重要なコミットメントを果たしていく」とコメントを出している。

 G Squaredの創業者 兼 マネージングパートナーであるLarry Aschebrook氏は「わずか数ヶ月の間に、Nscaleは集中力とスピード感を持って前進し、野心的な計画を実稼働能力へと転換し、迅速に意義ある存在へと成長した。チームは、企業や国家が実際に利用できる、信頼性と効率性を備え、かつ自国のデータに近い、大規模な独立系インフラを構築している。私たちは、JoshとNscaleチームが規律を持って事業を拡大し、インフラ構築業者にインフラを提供し、国家レベルでのAIリーダーシップのための戦略的基盤を確立していく中で、彼らを支援できることを大変嬉しく思っている」とコメントを出している。

 Nokiaのプレジデント 兼 CEOであるJustin Hotard氏は「欧州および世界中で、安全で拡張性の高いAIインフラの構築に対する需要はますます高まっている。NokiaはNscaleの投資ラウンドに参加し、IPおよび光ネットワークに関するNokiaの専門知識と、Nokiaの先進的なインフラプラットフォームを融合させ、AIインフラの未来に必要なイノベーションを実現するパートナーシップを発表した」とコメントを出している。

 Dell TechnologiesのEMEA地域プレジデントであるAdrian McDonald氏は「AIの未来は、すべての国が安全かつ自立し、自らの条件でイノベーションを起こせるかどうかにかかっている。私たちは、このビジョンの実現に必要な基盤となるインフラとサービスを提供することで、国家の展望を世界規模のインパクトへと転換することに貢献している。Dellの戦略的投資と当社のAIソリューションの力により、Nscaleは世界中の人々と産業にとって意義のある進歩を促進する、カスタマイズされたプラットフォームを構築している」とコメントを出している。

 英国のAI大臣であるKanishka Narayan氏は「Nscaleのような英国発の企業の成功は、英国がAIの最先端を担えることを示している。世界的な専門知識と投資を引きつけることで、英国が国際競争力を高め、成長を促進し、全国で雇用を創出するために不可欠なインフラを構築している」とコメントを出している。

 今回の資金調達において、Goldman SachsはNscaleの独占的な仲介役(placement agent)を務めた。

編集部備考

■NscaleのシリーズB調達には英国AI大臣のコメントも寄せられており、単なる民間企業のニュースではなく、国家レベルの重要施策と並列で語られている。これは、英国でもAIインフラが電力・通信・交通と同列の「国家インフラ」とみなされていることを感じさせる。
 今回の調達額は欧州史上最大のシリーズBであり、従来のラウンド常識を大きく超えている。通常、シリーズBはプロダクト市場適合性を確認しつつ成長資金を確保する段階だが、Nscaleの場合はその規模感自体が「すでに次世代インフラを構築する国家級投資」に近い。通信業界に置き換えるなら、シンプルな事業者レベルの資金調達ではなく、基幹ネットワーク投資に匹敵する規模といえる。
 こうした巨額資金が流れる先は、通信インフラと演算資源が一体化した「次世代プラットフォーム」であり、Nscaleのエコシステムの参加企業を見渡すと幅広い領域をカバーするものであると想像できる。これは従来の「通信は伝送、演算はクラウド」という役割分担をAI側からも揺るがす動きであり、通信事業者にとっても、AIインフラとどう連携するかが次の競争軸になることをより強く認識せざるを得ない。
 さらに今回の調達は、英国一国のためではなく、ヨーロッパ、北米、中東といった広域展開を前提にしている。つまり「AIインフラの地政学的競争」が強まったともいえる。通信業界にとっての教訓は明確だ。国内市場や従来のビジネスモデルにとどまらず、いかにAIインフラの国際展開や地域間連携の文脈に自社のポジションを築くかが、次の10年を左右する。

■上記のようにNscaleの取り組みを考察してみて感じたのは、「IOWN構想のアプローチをAI起点にすると、Nscaleのような戦略になるのでは」ということだ。
 特に、次の2つの類似点が興味深い。

・NscaleのAIインフラの国際展開は「GPUクラスタ、データセンタ、IP、ネットワークを束ねて演算リソース+通信基盤をグローバル規模で提供しようとする」ものとなる。一方、IOWN構想の無線・有線・DCを含む国際展開は「フォトニクスネットワークを基盤に、光電融合デバイスや超低消費電力の演算資源を含めてトランスポート+コンピューティングを統合しようとする」ものとなるので、類似性を感じる。

・通信+演算の一体化において、Nscaleは「GPUやAI向けデータセンタを通信事業的に扱う動き」であり、IOWNは「光電融合で通信路そのものに演算的要素を融合する発想が含まれている」ので、類似性を感じる。

 つまり、アーキテクチャの発想は違えど、「通信と演算を統合した国際的プラットフォームを築く」というビジネスマインドは共通している。巨額投資を得たNscale、そしてIOWNというグローバルフォーラム、両者の類似点から感じるのは、「通信を演算と不可分に提供する」発想をいち早く実現することは、次の国際競争軸において重要であるという点だ。
 AIを起点に、急速に立ち上がる需要に応えるNscale。光電融合を起点に、持続可能な基盤を構築するIOWN。両者の起点とアプローチは異なるが、いずれも「通信と演算を統合した国際的プラットフォーム」をめざす点で共通しており、世界の潮流を力強く牽引していくはずだ。そしてこの潮流は、半導体アーキテクチャや供給構造を根底から変える可能性も含んでいるので、通信業界やAI業界に留まらず、半導体を含む巨大な産業構造そのものの変革を予感させる。
 Nscaleの取り組みは、AI活用を促進させると同時に、世界の潮流に影響を与えることでIOWN構想の後押しにもなると期待したい。