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Ericssonとユーリッヒ研究センターが、6G向けの高度なAI開発を進める技術開発で協業

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 Ericssonとユーリッヒ研究センター(Forschungszentrum Jülich)は3月25日、ネットワークのパフォーマンスと効率性の限界を押し広げ、将来のソリューションが可能な限り少ないエネルギー消費で、卓越したインテリジェンスとパフォーマンスを実現することをめざし協業すると発表した。

 両者は「この新たな協業は、通信分野におけるEricssonのグローバルリーダーシップと、高性能コンピューティングおよび次世代コンピューティング技術におけるユーリッヒ研究センターの世界的に名高い専門知識を融合させるものだ。ユーリッヒ研究センターは、欧州で最も高性能なスーパーコンピュータであるJUPITERの開発にも携わっている」と説明している。

 両者は3月24日、覚書に署名した。この協業の重要な焦点は、高効率なニューロインスパイアード・コンピューティング(ニューロモルフィック・コンピューティング)アプローチにある。これは、複雑なネットワークタスクの処理における新たな可能性を切り拓き、次世代インフラストラクチャを支える基盤技術を進化させることをめざしている。

 両社は、5Gの継続的な進化を支え、将来の6Gネットワークの基盤となる高度なAIおよびHPCソリューションを探求していく。初の商用6Gサービスは2030年頃に開始される見込みだ。

 ユーリッヒ研究センターのボードメンバーであるLaurens Kuipers教授は「この連携は、より持続可能なデジタル社会の実現に大きく貢献する可能性を秘めている。高性能コンピューティングにおける当社の卓越した技術力と、革新的なニューロコンピューティング手法に関する研究、そしてEricssonの通信分野における専門知識を組み合わせることで、よりエネルギー効率の高いネットワークソリューションの開発と、欧州のデジタルインフラの強化をめざす」とコメントを出している。

 Ericssonのクラウドソフトウェア&サービス部門 アーキテクチャ&テクノロジー責任者であるNicole Dinion氏は「モバイルネットワークの未来は、AIと比類のないエネルギー効率へのニーズに深く結びついている。長年にわたりスーパーコンピューティングと応用物理学の分野で世界をリードしてきたユーリッヒ研究センターとの協業は、同センターの研究力と計算能力を、通信技術のあらゆる分野における当社の専門知識と融合させるものだ。私たちは、次世代の通信を定義するアーキテクチャを探求していく」とコメントを出している。

 この新たなパートナーシップでは、Ericssonのコアネットワーク、ネットワーク管理、およびRANを強化するためのAIモデルと手法を研究する。
 この協業は、以下の複数の研究分野に及ぶ。

Ericsson製品ポートフォリオ全体におけるAI手法:実行速度、大規模データセットへの拡張性、情報保持、およびストレージ効率を評価するためのアプローチの体系的なベンチマーク。セキュリティおよび商業上の条件をクリアすることで、チームはJUPITERの計算リソースを活用し、大規模モデルのトレーニングにも利用する可能性がある。

無線およびエッジにおけるAI推論のためのエネルギー効率の高いコンピューティング:無線チャネル推定やMassive MIMOなどのタスク向けに、高効率なソリューションを開発・プロトタイプ化する。これには、ニューロモルフィックコンピューティング(例:メモリスタ)などの革新的なシステムアーキテクチャアプローチを探求し、従来の方式と比較して最適化を高速化し、エネルギー消費を削減することが含まれる。

AIのためのHPCおよびクラウドアーキテクチャと運用:ユーリッヒ研究センター(特にJSC:Jülich Supercomputing Centre)におけるエクサスケール研究から得られたモジュラー・スーパーコンピューティング・アーキテクチャ(MSA)の概念を研究・実装し、HPCおよびクラウド環境におけるエネルギー効率を高めるための熱回収などの運用戦略を研究する。

 この共同研究は、JSCをはじめとする欧州有数のセンターと連携して世界クラスのスーパーコンピューティング インフラストラクチャを構築しているEuroHPCエコシステムの概念に基づいたクラウド戦略の実現可能性に関する知見を提供する。

編集部備考

■今回の発表は、一見すると5G/6Gインフラの省電力化に向けたAI活用の延長線上に位置付けられる。しかし、その枠組みだけで捉えると、本質を見誤る可能性がある。というのも、Ericssonとユーリッヒ研究センターが共同研究の焦点として掲げるニューロインスパイアード・コンピューティングは、省電力化だけでなく、計算の前提そのものに関わる効率化アプローチとなりえるからだ。

 6Gで想定されるネットワークは、分散化と高密度化が一層進み、無線アクセスからコア、さらにはエッジに至るまで、多数のノードが相互に連携する構造となる。このとき問題となるのは、通信トラフィックそのものだけではなく、それを制御・最適化するための計算負荷も含まれる。ノード数や状態量の増大に伴い、ネットワーク全体を俯瞰した制御は指数的に複雑化し、従来型のAI処理を前提としたアーキテクチャでは、消費電力とスケーラビリティの両面で制約が顕在化する可能性がある。
 こうした文脈において、ニューロインスパイアード・コンピューティングの特性は、従来のネットワークとは一線を画す点が興味深い。例えば、イベントドリブン型で必要な時にのみ処理を行う点や、スパースな情報処理を前提とする点は、「常時稼働」を前提としてきた従来のネットワーク制御モデルとは異なる時間軸と動作様式を持ち込む。これは省電力化の手段というよりも、ネットワークの制御そのものを再設計する可能性を含んでいると見ることもできる。

 もっとも、今回は先進的な研究の提携を発表した段階であるため、両者が具体的な適用シナリオや戦略的意図を詳細に示しているわけではない。そのため、以下はあくまで技術動向からの一つの読み筋に過ぎないが、この取り組みは通信インフラにおける計算アーキテクチャの選択肢を拡張する試みとして期待できる。特に、近年はAI処理基盤としてGPUを中心とした構成が主流となりつつある中で、それとは異なる計算原理を持つアプローチを早期に検証することは、将来的な設計自由度の確保という観点でも意味を持つ。
 また、分散化が進む6Gネットワークでは、中央集約型の大規模AIだけでなく、エッジ側での軽量かつ自律的な判断が求められる場面も増えると見込まれる。この点でも、低消費電力かつイベントドリブン型の処理特性は親和性が高いと考えられるが、その有効性は今後の検証に委ねられる部分が大きい。

 6Gに向けてネットワークの複雑性と制御負荷が増大していくことを踏まえれば、今回の協業から生み出される成果が従来の延長線上に収まらない可能性は十分にある。ニューロインスパイアード・コンピューティングの導入は、その一端を示す試みとして、今後の動向を注視すべき領域の一つといえるだろう。