Nokiaが、ネットワーク サービス プラットフォームにエージェント型AIフレームワークを導入し、IPネットワークにおける信頼に基づくAI運用を実現
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Nokiaは6月11日(エスポー)、マルチベンダIPネットワーク向けの包括的な管理・自動化プラットフォームであるネットワーク サービス プラットフォーム(NSP)の機能強化を発表した。
同社は「IPネットワーク運用に特化したエージェント型AI(Agentic AI)フレームワークを導入することで、ネットワーク事業者は、実際のネットワークコンテキストに基づいて推論を行い、定義されたポリシーとセキュリティ境界内でガイド付きアクションを実行できるAIエージェントを展開できるようになる」と説明している。
AIトラフィックの増加に伴い、IPネットワークの規模と複雑さが増大する中、事業者は運用を完全に制御しながら、効率性と信頼性を向上させるというプレッシャーに直面している。AIはネットワーク運用を変革する可能性を秘めているが、多くの事業者は、本番環境における説明可能性、信頼性、リスクに関する懸念から、慎重な姿勢を崩していない。
Nokiaは「IPネットワークの権威あるコントローラとして既に機能しているNSPにエージェント型AI機能を直接組み込むことで、これらの懸念に対応する」としている。
Appledore Researchのパートナー 兼 主席アナリストであるGrant Lenahan氏は「Appledoreは、通信事業者が質の高いデータとオントロジー関係の重要性に注力するよう提唱してきた。これらは、効率的かつ正確なAI推論において、特定のAIモデルよりもはるかに重要であることが明らかになっている。NokiaのNSPは、信頼できるデータと運用規範に基づいて構築された広範なAIネイティブ インフラストラクチャによってこのアプローチを採用し、多様なAIユースケースのための堅牢で安全な基盤を提供する。複雑なネットワークにおける効果的な自動化を設計する上で、ドメイン専門知識はおそらく最も重要な要素だ」とコメントを出している。
NSPは、トポロジー、プロトコル動作、構成状態、サービス関係、最新のネットワーク変更など、正確かつ継続的に更新されるネットワークビューに基づいてAIエージェントを動作させる。これにより、AIエージェントは推論されたデータや断片的なデータではなく、ネットワークの真実に基づいて推論し、通信事業者が定義した意図、ポリシー、アクセス制御の範囲内で動作することができる。NSPエージェントフレームワークは、モデル コンテキスト プロトコル(MCP)などのAIベースのプロトコルを介して外部エージェントとの通信を可能にし、通信事業者のマルチベンダ、マルチドメイン ネットワーク全体にわたって、完全自律型ネットワークへの移行を支援する。
この新しいフレームワークに基づいて構築された最初のユースケースは、AIドリブン型のトラブルシューティング エージェントだ。これは、通信事業者が根本原因をより迅速に特定し、運用上のノイズを低減し、複雑なIPネットワークの問題をより高い確信度で解決できるよう支援することを目的としている。これは、通信事業者がライブネットワークでAIを安全かつ段階的に、大規模に導入できるよう支援するというNokiaの戦略における重要な一歩となる。
NokiaのIPネットワーク自動化ソフトウェア担当ヴァイスプレジデント 兼 ゼネラルマネージャーであるSasa Nijemcevic氏は「業界はAIネイティブ運用へと急速に移行しているが、信頼性が依然として決定的な要素だ。私たちは、ネットワークの実際の運用方法を尊重したエージェント フレームワーク上に構築されたAIエージェントによってNSPを強化している。これは、通信事業者がネットワークを管理する方法に大きな影響を与え、運用を大幅に強化し、トラブルシューティングなどの影響力の大きいユースケースから始めて、実際の運用上の課題解決に重点を置くことで、自律型ネットワークへの移行を加速させることを可能にする。これは、AIネイティブネットワークへの段階的かつ実践的な一歩だ」とコメントを出している。
ネットワーク事業者にとって、この新しいエージェント フレームワークは、サイロ化されたソリューションを作成することなく、複数のAIユースケースを段階的に導入するための柔軟な基盤を提供する。事業者は、信頼性の高い特定のシナリオから始め、一貫したガバナンスと運用制御を強制する共有フレームワークを使用して、信頼関係の構築に伴いAIの役割を徐々に拡大できる。
エンドユーザも、障害解決の迅速化、サービス信頼性の向上、長期または連鎖的な障害の可能性の低減といったメリットを享受できる。運用リスクを高めることなく、より良いユーザエクスペリエンスを提供できる。
Nokiaは「2026年末までに商用提供開始予定のこのNSPの機能強化は、信頼性の高いAIネイティブなネットワーク運用を実現し、通信事業者がAIイノベーションを具体的かつ測定可能な運用成果に結びつけることを支援するという当社の取り組みを強化するものとなる」としている。
編集部備考
■通信ネットワークという「絶対に止めてはならないインフラ」を担う通信事業者にとって、AIの自律的な判断に対する慎重さは必然だ。特にエージェント型AIは、ハルシネーションや予期せぬ挙動といった懸念が有るため、その判断プロセスに人間が意図的に介入・関与するHITL(Human-in-the-loop)を用いて安全性、信頼性を担保しても、その導入は従来の効率化ツールの採用とは性質を異にする。
だが、この関門を越えた場合、その価値は自社運用の効率化に留まらない。今後の社会におけるエージェント型AIの普及は、ネットワークそのものの進化を促すからだ。従来のトラフィック制御がフロー単位であったのに対し、今後はAIの意図(インテント)を理解した上での制御が求められるようになる。すなわち、帯域保証といった従来のQoSから、意思決定時間の保証や予測に基づく事前最適化へと進化する「AIネイティブネットワーク」の必要性が高まる。このとき、自社インフラのAI化を実践した通信事業者は、AIトラフィックの特性を最も深く理解する存在として、差別化されたインフラ提供者となり得る。
通信事業者がAIを運ぶ伝送路に留まるのか、それともAI社会の意思決定を支えるインフラへと進化するのか。その分水嶺の一つが、エージェント型AIに対して「責任を引き受ける主体」となれるかどうかにある。慎重さを「制約」とするのではなく、「厳格なガバナンスと安全運用の実績」へと昇華できたとき、通信事業者は次世代AIインフラにおいてさらに強固なポジションを確立するだろう。
■エージェント型AIの導入という文脈において、通信事業者の役割は「自らAIを運用する主体」として語られることが多い。しかし、この構図を一度反転させ、「価値の源泉は運用ではなくデータにある」という前提に立つと、本件は全く異なる意味合いを帯びてくる。
エージェント型AIの本質は、自律的な意思決定にある。そして、その意思決定を支えるのは膨大な観測データだ。ネットワークの状態、トラフィックの変動、遅延や輻輳、ユーザの振る舞いといったリアルタイムの情報が、AIの判断精度を規定する。すなわち、AIの性能はアルゴリズム単体ではなく、「どれだけ質の高い現実世界のデータを取り込めるか」に大きく依存する。
この点において、通信事業者は極めて特異なポジションにある。広域かつ常時稼働する商用ネットワークを通じて、社会全体の活動を反映したリアルタイムデータを継続的に取得しているためだ。これはログの蓄積だけではなく、「世界の状態変化を時系列で捉えた観測基盤」と捉えるべきものであり、他のプレイヤーが容易に再現できるものではない。
こうした視点に立つと、エージェント型AIフレームワークの導入は、「AI運用の高度化」だけではなく、「データ価値の顕在化プロセス」として再解釈できる。すなわち、AIを導入することにより、AIを通じて自社ネットワークから得られるデータの意味づけと活用方法を高度化することで、その価値を引き出すという新たなビジネスが拓ける。
ここで重要となるのは、データの扱い方だ。「通信の秘密」を厳格に順守してきた通信事業者達は、「これまでデータを不当に扱ったり、悪用することはなかった」「国の重要インフラとしてルールを厳格に守ってきた」という歴史的な実績、すなわち信頼を持っている。
そして、エージェント型AIの時代においては、「データを外に出すか否か」というよりも、「どのように抽象化・匿名化し、価値として提供するか」という設計が問われる。言い換えると、生データの提供ではなく、意思決定に資する形に加工された「知見」としての提供が求められるだろう。例えば、近年注目されている手法である、特定の個人が特定されるリスクを防ぐ「差分プライバシー(Differential Privacy)」や、暗号化したままデータを計算する「秘密計算」、実データと全く同じ統計的特徴を持つ「合成データ(Synthetic Data)」の生成技術といったものは、通信事業者の培ってきたノウハウと相性が良い。「プライバシーを厳格に保護しながら、AIの学習効率を可能な限り高める」という、一見矛盾する難題をクリアするための実践的なノウハウのベースをすでに有していると言える。
また、このデータ価値を外部に提供するためには、蓄積だけでは不十分だ。リアルタイム性、品質保証、監査可能性といった要件を満たした上で、再現可能な形で利用できるようにする必要がある。すなわち、データそのものをプロダクトとして成立させるための基盤整備が不可欠となる。この点において、通信事業者が長年培ってきた運用管理やSLAの知見は、データビジネスにおいても重要な資産となる。
例えば、エージェント型AIが普及すると、人間とAIの通信だけでなく、「AIエージェント(車)とAIエージェント(信号機)の交渉」といった、マシン・ツー・マシンの通信が飛躍的に増加する。こうしたAIが社会でどう振る舞い、どう失敗したかという「AIの行動ログ」そのものが、ネットワークを流れる次世代の学習データとして蓄積される。通信事業者はこの「AI同士の相互作用データ」を最もクリーンに、大量に収集できる優位なポジションにいる。これをフィードバックすることで、さらに賢く安全なAIエージェントを育てるループを回せるようになる。
AI同士がリアルタイムで交渉し、意思決定を行う社会が到来した際、必要とされるのは通信帯域だけではなく、「信頼できる現実データへのアクセス」も含まれる。ネットワークは、データを運ぶだけでなく、データの信頼性を担保する基盤としての役割を担うようになる。また通信ネットワークのデータの価値は、その量や希少性だけではなく、「同一条件で継続的に観測される」という特性にもある。特に、物理的なネットワークの現場で得る「何が起きると、どうシステムが崩壊するか」という極限状態のデータ(アノマリーデータ)は、極めて価値の高いデータとなるだろう。
このように見れば、通信事業者の競争領域は「回線品質」や「運用効率」から、「どれだけ高品質な現実世界データを提供できるか」へとシフトしていく可能性がある。エージェント型AIの導入は、その変化を加速させる契機となる。
エージェント型AIの時代において、通信事業者の新たな、かつ強力な競争力は、ネットワークの外側だけでなく、その内側に蓄積された「観測データ」にもあると言えるだろう。
(OPTCOM編集部)




