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工場IoT化に向け、業界の垣根を超えて無線通信技術を稼働中の大手工場で検証

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 NICT、オムロン、ATR、NEC、NEC通信システム、富士通、富士通KCN、サンリツ及び村田機械は、製造現場でIoT化を推進するため、業界の垣根を越えて、複数の稼働中の工場で、無線通信技術の基礎評価及び検証を行ってきた。
 工場内では様々な無線システムが混在することにより、無線通信が不安定化する課題があり、これらの課題に取り組むため2015年6月から、Flexible Factory Projectを立ち上げ、現在まで検証を続けてきた。
 さらに、ユーザとなる工場にも協力関係を広げ、音、振動、温度、湿度、電流波形などを取得する多様なセンサからの情報を無線で送信する評価実験に取り組んでいる。また、これら評価結果の検証とユーザとなる工場へのヒアリング等の調査を通し、工場で用いられる無線通信の要件を用途別に整理した。明確化された用途別の通信要件や洗い出された課題を反映させて、複数の無線システムを協調制御して安定化するための無線通信のソフトウェア構成の提案を行なった。
 今後、この結果を踏まえて、工場で想定される設備ごとに独立した無線システムのシミュレーションを通じた不安定化のリスク評価や、安定した通信のための無線通信ソフトウェア構成の定義を行い、システムの構築及び実証実験を通して有用性の検証を進めることで、工場内のIoT化に向けた活動を更に推進するという。
 なお、このプロジェクトでは、複数の通信方式や周波数にまたがる統合分析と全体の取りまとめをNICTが、実験設計をATRが、通信メーカーとして通信機器への実装を想定した評価をNEC、NEC通信システム、富士通、富士通KCNが、機器メーカーとして実際の利活用を想定した評価をオムロン、サンリツ、村田機械が担当している。

 

背景

 ユーザ企業である三菱重工工作機械の本社・栗東工場内やトヨタ自動車の堤工場及び高岡工場内にて、共同実験各社が持ち込んだ音、振動、温度、湿度、電流波形などの情報を取得するセンサを生産設備に取り付け、複数のセンサから取得した多様な情報を無線で送信する評価実験を実施した。
 これまで、無線通信の現場の課題事例を利用空間と時間にわたって詳細に確認した結果、無線資源が有効に活用されていない以下のような実態が判ったという。

  • 短期間で急速に無線設備の導入が進んでいるという現状。
  • 設備ごとに無線設備が導入されており、工場全体での無線設備を協調させた制御・管理が必要。
  • 大型モーターから発生するノイズが無線周波数帯に及んでいる。
  • 工場にある大型設備による遮蔽によって無線の通信品質が悪化する。
  • 複数の設備が同時に動くラインでは、通信の衝突を避けるメカニズムにより、送信待ち時間が長くなり、受け手がデータを受信できるまでに時間がかかる。

 工場内で様々な無線システムが混在することにより、無線通信が不安定化するリスクを確認できた。
 また、本プロジェクトの一環として、業種の異なる複数の工場からヒアリングを実施し、現在あるいは近い将来、工場、工場附帯施設、物流倉庫で用いられる無線用途を、「品質、制御、管理、表示、安全、その他」のカテゴリに分けて抽出し、無線用途別に通信要件を整理した。この通信要件は、今後、製造現場に設置される複合的な無線システムの動作シミュレーション、設計、不安定化のリスク評価、ガイドライン作成などに用いることが可能だという。
 さらに、実際の製造現場で必要とされる具体的な利用シーンを想定し、設備ごとに独立した無線システムを協調させて制御することで安定化するためのソフトウェア構成を無線アーキテクチャとして提案した。この無線アーキテクチャは、工場の生産設備の無線化に当たり、無線の非専門家がシステム設計を行うことを想定し、以下を特徴としている。

  • 920MHz帯、2.4GHz帯、5GHz帯、60GHz帯の周波数を対象としている。
  • これまでの実験で明らかになった工場ごとの無線環境の違いと、実際に使われる無線用途別の通信要件を踏まえて設計されている。
  • アプリケーションソフトウェア側の情報のやり取り手法を統一することにより、物理層によらず制御を可能にした。

今後の展望

 NICT、オムロン、ATR、NEC、NEC通信システム、富士通、富士通KCN、サンリツ及び村田機械は、ユーザと通信・機械・システムの専門家と共に、個々に所有するセンサ、IoT、無線通信、セキュリティ、クラウド、AI等の技術と今回得た知見を活用し、無線通信に求められる機能要件の明確化を通して、製造現場におけるリアルな工場内無線通信の課題を解決するソリューションを提案していくとしている。
 なお、無線用途別の通信要件は、「製造現場における無線ユースケースと通信要件」として、2017年3月に公開予定。
 今後は、生産性向上を目的に無線接続するデバイスの導入加速が見込まれる製造工場において、無線通信の利活用を促進するため、同プロジェクトでは、複数の無線システムを協調制御して安定化する技術の確立と標準化を目指すという。

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