NTTと東京大学が、光ファイバにより巨大構造体の”見えない歪み”を検知する新技術を実証
DX/IoT/AI 無料飛行機や洋上電力設備など数十mから数kmの緩やかな形状の変化を常時モニタリング
NTTと東京大学は3月19日、既存の光ファイバケーブル構造を活用したセンシング用光ファイバケーブルを用いて非常に緩やかな形状変化(数m以上の曲率半径)を検出できる光ファイバセンシング技術を世界で初めて実証したと発表した。
従来の光ファイバ形状センシング技術は検出可能な曲率半径が一般的に数cm~数十cm程度と急峻な変化に限られ、検出距離も数m程度と適用シーンが限定的だった。今回実証した光ファイバセンシング技術により、長さ数十mから数kmにおよぶ大規模なインフラ設備における、曲率半径数m以上の緩やかな形状変化を遠隔から検出・監視することができる。本技術により、大型構造物で生じる意図しないわずかな歪みの検出や、地下管路など目に見えない社会インフラの設備形状を可視化し、位置情報をデジタル化することができる。そのため将来的には、大規模設備にセンシング用光ファイバケーブルを実装することで、大型構造物や社会インフラのデジタルツイン上での可視化や設備の予防保全への活用が期待される。
背景
近年、光ファイバに沿った形状を検出する光ファイバ形状センシング技術が開発されている。この技術では、マルチコア光ファイバと呼ばれる、1本の光ファイバ内に複数の光の通り道を持つ構造を用い、それぞれの光経路に生じる違いから、光ファイバの曲がり具合や位置を推定する。この技術は、細い器具やロボットアームなど、形状の把握が重要な分野で有用なため、特に医療応用やロボティクスなどで活用されている。しかしながら、従来技術では、使用する測定器の制限などにより、検出できる長さは数m程度、検出可能な曲率半径も数cm以下に限られており、空間的な形状変化が非常に緩やかな大型構造物への適用は困難だった。一方、社会インフラや大型設備では、大型プラントのパイプラインや電力・通信・下水などの地下配管といった、直接観測が困難な構造物が多く存在する。これらの可視化には、カメラ搭載ロボットやレーダーなどが用いられているが、測定精度は環境条件の影響を受けやすく、構造物の長さ方向に沿った継続的な監視には課題があった。さらに、大型構造物では、時間の経過とともに生じるわずかな形状変化の蓄積が故障につながる可能性があるため、継続的な監視が重要だ。しかし、従来の技術では、構造物の全長にわたってこうした変化を常時モニタリングすることは困難だった。
そこでNTTと東京大学の村山英晶教授は、NTTが通信設備向けに培った光ファイバケーブルの設計・評価技術を活用したセンシング用光ファイバケーブル技術と、村山教授が開発した光ファイバ中で生じる歪みの分布から光ファイバの敷設形状を推定する形状推定技術とをかけ合わせ、曲率半径が数m以上の非常に緩やかな形状変化を数kmに渡って検出できる、新たな光ファイバ形状センシング技術を検討してきた。

図1:大規模設備の形状を検出するセンシング用光ファイバケーブルと形状センシング技術。
技術のポイント
【歪み分布の逐次解析による光ファイバケーブルの形状推定】
光ファイバ中の長手方向の歪みを分布的に測定できるB-OTDR(Brillouin-Optical Time Domain Reflectometry)を用いて、複数の光経路における歪みの違いから高精度な形状を推定する解析技術を開発した。複数の光経路で生じた歪みとそれらの位置関係から地点ごとの曲げ方向と曲がり量を推定し、それを長手方向に沿って逐次的に計算することで、光ファイバケーブル全体の形状を推定することができる。さらに、既知の曲げ形状あるいは直線状態における歪み分布を参照することで、形状推定精度の向上に成功した。また、従来の形状センシングで用いるOFDR(Optical Frequency Domain Reflectometry)方式は、測定距離が数m以下に制限されるが、B-OTDRを用いた計測手法では、数kmにわたる長距離の形状測定が可能になる。
【形状センシングに適した多心光ファイバケーブル構造】
光ファイバ形状センシングでは、複数の光経路で生じる異なる情報を解析することで光ファイバの敷設形状を推定し、検出できる曲率半径の大きさは光経路間の距離に応じて大きくなる。従来の光ファイバ形状センシングでは、マルチコア光ファイバと呼ばれる1心の光ファイバに複数の光経路を有する構造が用いられてきたが、光経路の間隔は光ファイバの細さで制限され数十μm程度と小さく、検出可能な曲率半径は数cm~数十cm程度だった。今回、屋内通信用光ファイバケーブルとして用いられる、0.25mm間隔で整列・固定された8心の光ファイバを実装した多心光ファイバケーブル構造を用いることで、数m以上の曲率半径の検出を可能とした。この光ファイバケーブルは長方形の形状を有することから、意図しない捻じれによる解析誤差の低減も期待できる。

図2:本技術のターゲットと既存技術との関係。
実験の概要

図3:実験の様子。
本実験ではNTT筑波研究開発センタ内に設置した曲率半径3~10mの3種類の模擬管路を用意し、光ファイバケーブルを管路に沿って固定して測定・解析を行った(図3)。光ファイバケーブル内に実装された複数の光ファイバに加わっている歪み分布をB-OTDRにより取得し、東京大学の村山英晶教授が開発した形状分布の逐次解析法を用いて、光ファイバケーブルの形状を推定した。
最も曲率半径が大きく、検出が最も難しい曲率半径10mの模擬管路における実験では、実際の管路形状と、光ファイバケーブルの歪み分布から推定された形状との誤差は1%以下となり、高い精度で一致した。(図4:破線は実際の管路形状、実線は歪み分布から推定された形状)。曲率半径3m、7mの模擬管路でも同様に高い精度で曲げ形状を検出できることを確認した。これにより、従来の光ファイバ形状センシングでは検出が不可能だった曲率半径数mの非常に緩やかな形状変化を検出できることを、世界で初めて実証した。
NTTと東京大学は「なお、今回の実験では平面上に湾曲した最大10mの曲げ形状を用いて本技術の原理確認実験を行った。今後は、曲率半径10m以上のより緩やかな形状を含む、より長い距離における3次元状の形状変化の検出についても取り組む予定だ」としている。

図4:実験結果(最も検出が難しい半径10m)。
本技術の応用例
本技術は、センシング用光ファイバケーブルを通線または固定することができる大型設備や社会インフラの形状の可視化や異常予測などへの応用が期待でき、例えば以下のようなユースケースが考えられる。
【航空機、船舶、電波塔などの大型構造物や洋上風力発電設備などの海洋設備】
大型構造物や海洋設備は面的あるいは局所的な意図しないわずかな歪みにより、構造物自体や設備に接続されるケーブル等の故障や破損につながる恐れがある。本技術で、形状の変化をセンシング用光ファイバケーブルの長さ方向にモニタリングすることで、被測定対象の寿命や故障予測がデジタルツイン上の解析で実現できると期待される。
【油田、化学プラントのパイプラインや通信、電力、ガス等の地下管路設備】
直接的に観測できない社会インフラは正確な形状やルートを把握することが難しいが、本技術によりその3次元形状のマッピングとデジタルツイン上での管理が実現できると期待される。
なお、センシング用光ファイバケーブル自身に生じる捻じれや温度変化が解析結果に影響を及ぼすため、ユースケースに応じてそれらを補償するシステムが必要になる場合がある。
各者の役割
【NTT】
形状センシングに適した光ファイバケーブルの設計および実験系の構築
【東京大学】
光ファイバケーブルに生じる歪み分布から形状を推定するための測定と解析技術の開発
今後の展開
本実証では、光ファイバケーブルに沿った「空間的な形状変化」を連続的に可視化できる。航空機や船舶、大型プラントなどの構造物に沿って埋め込む、あるいは通信・電力設備などの社会インフラにセンシング用光ファイバケーブルを敷設・挿入することで、構造物全体の形状や変形を遠隔から検出することが可能となる。これにより、海底や地下などの目に見えない設備形状を地図上に可視化することや、設備上の歪みや変形による故障予測に活用でき、大規模インフラの予防保全や防災対策の高度化への貢献が期待される。
今後、敷設性と検出精度を両立するセンシング用光ファイバケーブル構造の最適化や模擬設備を用いたより長距離での3次元形状の検出検証を行い、センシング用光ファイバケーブルを用いた大規模インフラのデジタルツイン化とレジリエンス向上に貢献する。
【発表者・研究者等情報】
東京大学 大学院新領域創成科学研究科
中本 真太郎氏:修士課程
東京大学 大学院工学系研究科
小林 真輝人氏:特任研究員
村山 英晶氏:教授
NTT アクセスサービスシステム研究所
半澤 信智氏:グループリーダ
松井 隆氏:グループリーダ/特別研究員
中島 和秀氏:フェロー




