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中華電信が、EricssonのトライバンドFDD Massive MIMO技術を初導入し、数万人規模のイベントで安定通信を実現

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 Ericssonは2月9日、中華電信が台北101で大晦日に開催された年越しカウントダウンイベントでEricsson AIR 3284トライバンドFDD Massive MIMO無線機器を展開したと発表した。

 この導入により、ネットワーク容量は3倍に増加し、イベント中のデータトラフィックの急増にうまく対応し、数万人の中華電信ユーザにスムーズで安定したネットワーク体験を提供した。
 Ericssonは「これは、台湾の通信事業者として初めてトライバンドFDD Massive MIMOを実装した事例であり、北東アジアの商用ネットワークにおける初の実証でもある」と説明している。

 約20万人が来場した同イベントでは、通信トラフィックの急増が大きな課題となったが、中華電信はEricssonの最新AIR 3284無線機器を導入することで、ネットワーク輻輳を効果的に緩和した。Ericssonは「極めて動的かつ高負荷な環境下でも安定した通信接続を維持し、リアルタイムでの共有、ライブストリーミング、SNS利用などを円滑に実現した」と説明している。

 中華電信のネットワーク部門ゼネラルマネージャーである賈仲雍氏は「大晦日のような高トラフィックイベントにおいて、中華電信の最重要課題は、ユーザに安定した高品質のモバイルネットワーク体験を提供することだ。Ericssonとの協力により、先進的なプレ6G FDD Massive MIMO技術を導入することで、台北の大晦日イベントにおける高負荷の課題を解決し、観客に安定した高速ネットワークサービスを提供できた。これは、将来のネットワーク展開とサービスアップグレードにとって重要なリファレンスモデルとなる」とコメントを出している。

 Ericsson AIR 3284無線デバイスは、大容量シナリオ向けに設計されており、モバイルネットワークにおける高いアップリンク性能要件を持つアプリケーションに対応できる。5Gネットワークにおいては、インテリジェント ビームフォーミングをサポートし、信号品質や基地局エッジのパフォーマンスを向上させる。テスト結果では、インテリジェント ビームフォーミングが信号品質を効果的に改善することが示されている。さらに、アップリンクとダウンリンクの双方でマルチユーザMIMO(MU-MIMO)機能をサポートし、より多くのユーザからのネットワークトラフィックを同時に処理できる。

 Ericsson Taiwanのゼネラルマネージャーである周大企氏は「大規模イベントにおけるネットワーク課題の解決において中華電信を支援できたことを大変嬉しく思っている。当社の革新的な技術は、通信事業者に新たなソリューションを提供し続けるだけでなく、増大するデータトラフィック需要への対応、既存の周波数資源内でのネットワーク容量と性能の向上、ネットワーク近代化の加速、運用の複雑さの軽減に貢献する。3つの主要FDDバンドを統合するMassive MIMOにより、通信事業者はネットワークをより柔軟に展開・最適化し、投資収益のバランスを取りながらユーザエクスペリエンスを向上させ、ネットワーク近代化を通じて長期的な競争力強化を図ることができる」とコメントを出している。

 FDD Massive MIMO技術は拡張性に優れ、主要な大規模会場への展開や、イベント開催中のリアルタイムネットワークをサポートするソリューションとしてモバイル基地局との統合も可能であり、大規模イベントや高トラフィック環境下におけるネットワーク全体の品質向上に貢献する。中華電信とEricssonは、6Gネットワークの主要技術として、FDD Massive MIMOの導入を今後拡大し、より安定したユーザエクスペリエンスを継続的に提供し、将来の6G開発の基盤を築く計画だ。

 Ericssonは「この協業の一環として、FDD Massive MIMO無線機器ポートフォリオをMWC2026(3月2日~5日:バルセロナ)で展示する。これは、大容量アプリケーションにおけるFDD Massive MIMOの可能性を示すものであり、モバイルネットワークの近代化を大きく加速させ、多様なニーズに対応する、よりスマートでスケーラブルな未来へと向かうことを意味する」と説明している。

編集部備考

■トライバンドFDD Massive MIMOは、NSA時代のFDDネットワークをSA時代に適応させる無線方式の進化であると同時に、SAからAdvancedへの容量進化を支える物理レイヤの中核技術でもある。さらに6G時代のFDD Massive MIMOアーキテクチャから逆算すれば、本技術はその“プレ商用版”と位置付けることもできるので、NSA→SA→Advancedの進化を促し、さらに6Gへと橋渡しをする存在とも言える。ここでは、通信事業者にとってトライバンドFDD Massive MIMOを導入する意義は何なのかを改めて纏めてみたい。
 今回のニュースリリースのように、ユーザエクスペリエンスを向上させるような使い方は、通信事業者にとって今現在のメリットと言える。そして、近い将来のメリットとしては、AIドリブンな5G SAで新たなマネタイズをする段階となった時、その容量を支える物理レイヤの役割を担う。その先のセルラーのロードマップとしては、FDD Massive MIMOアーキテクチャを前提とした6G時代が控えているので、TDDではなくFDDによる運用のノウハウを蓄積しておくと、その知見は中長期的な財産になる。

 では、なぜトライバンドFDD Massive MIMOは「SA時代」に効果的なのか。最大の理由は、SAによってネットワーク制御がコアから無線アクセス網(RAN)まで一体化し、トラフィックの性質に応じて無線リソースを動的に最適化できる環境が整った点にある。AIドリブンなトラフィック予測、スライシング単位でのQoS制御、エッジアプリケーションとの連携といった機能は、コア側の高度化だけでは成立せず、それを受け止める無線側の容量余力と柔軟性が不可欠となる。
 トライバンドFDD Massive MIMOは、既存FDD帯を束ねた大規模アンテナアレイによって、セル内の空間リソースを動的に制御できるため、SAネットワークにおけるAI制御やスライシングの効果を、実際のユーザ体験へと変換する「物理的な受け皿」として機能する。言い換えれば、SA時代におけるネットワークのインテリジェンス化は、FDD Massive MIMOによって初めて無線レイヤまで実装可能になるとも言える。

 次に、「トライバンド」を導入するメリットを見てみたい。モバイルネットワークのFDD帯域は、歴史的経緯から断片化して割り当てられており、単一バンドあたりの帯域幅には構造的な限界がある。これまではキャリアアグリゲーションによって論理的に帯域を束ねる手法が主流だったが、物理レイヤでのビーム形成や空間多重という観点では、バンド単位での分断が性能の上限を決めてしまう側面があった。
 トライバンドFDD Massive MIMOは、複数のFDDバンドをアンテナアレイとRFフロントエンドの段階で統合し、空間領域でのMIMO処理を横断的に適用できる点に特徴がある。これにより、単一バンドでは実現が難しかったビームの精細制御や、アップリンク・ダウンリンク双方におけるMU-MIMOの同時多ユーザ処理が可能となり、断片化された周波数資産を「物理的に再統合」する効果を持つ。
 この点は、容量拡張にとどまらず、ネットワーク運用の在り方にも影響を与える。トライバンド化によって、どのバンドにトラフィックを載せるかという従来の周波数設計・最適化の負荷が軽減され、AI制御や自動化システムがより抽象度の高いリソース単位で無線制御を行えるようになる。結果として、SAネットワークの本質である「サービス単位でネットワークを設計・運用する」という思想が、無線レイヤまで一貫して実装可能になる。

 さらに6G時代を見据えれば、Sub-6GHz帯のFDD帯域は引き続き広域カバレッジと安定通信の中核を担うと想定されており、トライバンドFDD Massive MIMOは、そのアーキテクチャを商用ネットワークで先行実装する試みでもある。本ニュースリリース内で賈仲雍氏が「先進的なプレ6G FDD Massive MIMO技術」とコメントしていることからも、中華電信がそれを重視していることが窺える。通信事業者にとってFDDは、将来の6G時代に向けた無線設計思想と運用ノウハウを先取りして蓄積する機会であり、どのタイミングで導入するかの判断は長期的な事業戦略を支える要素となるだろう。