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Nscaleが、AIインフラ導入をグローバルに加速させる資金調達。企業価値を146億ドルに引き上げ

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 Nscaleは3月9日(ロンドン)、Aker ASAと8090 Industriesが主導するシリーズCラウンドで20億ドルの資金調達を発表した。

 これによりNscaleの企業価値は146億ドルに達した。この資金調達ラウンドには、Astra Capital Management、Citadel、Dell、Jane Street、Lenovo、Linden Advisors、Nokia、NVIDIA、Point72が参加した。
 Nscaleは「今回の新たな資金調達により、当社は、GPUコンピューティング、ネットワーク、データサービス、オーケストレーションソフトウェアに至るまで、垂直統合型AIインフラのグローバル展開を欧州、北米、アジアでさらに加速させるだろう」としている。

 AIは産業、経済、そして国家戦略を変革しており、加速型コンピューティングプラットフォーム(Accelerated Computing Platform)はそれを推進する原動力となっている。市場拡大の制約となるのは需要ではなく、キャパシティを展開し、それを本番環境で確実に稼働させる能力だ。NscaleはAI導入を加速するために構築されている。今回の資金調達により、Nscaleのインフラストラクチャ基盤が拡充され、エンジニアリングチームと運用チームが拡大し、プラットフォームが強化される。これにより、Nscaleは今後も大規模な実稼働グレードのAI導入を継続的に提供できるようになる。

 NscaleのCEO 兼 創設者であるJosh Payne氏は「これは第4次産業革命だ。世界は急速に変化している。今後5年間で、人工知能はあらゆる産業、あらゆる製品、あらゆる仕事に統合されるだろう。創薬の加速、寿命の延長、移動やロボットの自動化、生産性の向上、そして飛躍的な成長の促進につながる。これは人類史上最大規模のインフラ構築につながるだろう」とし、「Nscaleはこの構築を主導している。私たちは、市場を支える基盤、つまりスーパーインテリジェンスのエンジンを構築している」とコメントを出している。

Nscaleの取締役会強化
 Nscaleは同日、新たに3名の取締役を迎え入れた。既に世界トップクラスのビジネスリーダーを擁するNscaleに、テクノロジー、ポリシー、オペレーション、ガバナンスの分野におけるグローバルな知見が加わることになる。

Sheryl Sandberg氏:Sandberg Bernthal Venture Partnersの共同創業者。同社は、コンシューマ、エンタープライズ、気候変動、ヘルスケアテクノロジー分野におけるイノベーションへの投資にプライベートキャピタルを活用している。同氏はMetaの元COO、そしてGoogleの初期幹部として、世界で最も影響力のあるテクノロジー企業の成長における貴重な経験に加え、オペレーション、成長戦略、そしてグローバル組織の構築に関する深い専門知識を有している。

‍Susan Decker氏:大学向けコミュニティエクスペリエンスプラットフォームであるRaftrのCEO 兼 共同創業者。同氏はYahoo, Inc.の元プレジデントであり、現在はCostco Wholesale Corporation、Berkshire Hathaway、Vail Resorts、Chime、Vox Media、Automatticの取締役を務めている。数十年にわたり世界のメディアおよびテクノロジー企業の最前線で培ってきた鋭い財務感覚、ガバナンスの専門知識、そして戦略的リーダーシップを活かしている。

Nick Clegg氏:Hiro Capitalのゼネラルパートナーを務め、欧州における主要な空間コンピューティング技術の成長促進に注力している。同氏は元英国副首相であり、Metaのグローバルアフェアーズ担当プレジデントも務めている。2005年に英国議会議員に選出される前は、欧州議会で5年間務めた。テクノロジー、政策、そして国際情勢の交差点において深い専門知識を有し、最近ではAIの未来を形作る最も重要な規制およびガバナンスに関する議論の中心に立ってきた。

ノルウェーにおける業務執行の効率化
 今回のシリーズC資金調達と新取締役の就任に加え、NscaleはAkerと、2025年7月に発表されたAker Nscale合弁事業をNscaleに完全統合することで合意した。Akerは今後もNscaleの主要株主であり、CEOのEriksen氏は引き続きNscaleの取締役会に加わる。

‍ この決定により、デリバリーとガバナンスが一つの組織に統合され、合弁事業に基づく既存のプロジェクトはすべてNscaleの一部として継続され、完全に稼働し続けることが保証される。この継続的なパートナーシップはNscaleの成長の基盤であり、事業を展開する地域社会において長期的に前向きな役割を果たすというNscaleの継続的なコミットメントを示している。 Nscaleの廃熱再利用、地域スキルの育成、地域インフラへの投資に対する確固たる誓約は変わらない。

 Aker ASAのプレジデント 兼CEOであるØyvind Eriksen氏は「今回の措置により、デリバリーとガバナンスを一元化することで実行力が強化されるとともに、既に進行中の人材とプロジェクトの継続性も維持される。Nscaleがノルウェーにおいて長期にわたり責任あるデリバリーを実現できる能力に全幅の信頼を置いており、これにより、プロジェクトの迅速な進捗と永続的な価値創造に向けた基盤が築かれると確信している」とコメントを出している。‍

 8090 Industriesの共同創業者 兼 ゼネラルパートナーであるRayyan Islam氏は「私たちはAIによって定義される新しい時代を生きており、その制約要因はインフラだ。コンピューティング、エネルギー、そして産業規模の導入能力が、次世代の技術と経済の進歩をリードする国や企業を決定づけるだろう」とし、「Nscaleは、エネルギーやデータセンタからコンピューティングやオーケストレーションに至るまで、AIインフラの重要なレイヤを垂直統合することで、この課題を解決できる独自のプラットフォームを構築した。8090 Industriesは、業界全体のスケールアップを可能にするシステムに投資しており、Josh氏とNscaleチームと共に、グローバルAI経済の基盤となるバックボーンを構築できることを誇りに思っている」とコメントを出している。

 プレシリーズCのSAFEを含む今回の資金調達において、Goldman SachsとJ.P. MorganはNscaleの共同募集代理人を務めた。

編集部備考

■今回の資金調達が示唆する重要な点は、AI産業の競争軸がアルゴリズム開発からインフラ構築へと移行しつつあることだ。生成AIの急速な普及により、AIモデルの開発・運用に必要な計算資源は爆発的に増大している。しかし、そのボトルネックはもはやモデル技術ではなく、大規模GPUクラスターや電力、冷却、ネットワークを含む計算インフラの整備能力にある。
 Nscaleが掲げる「垂直統合型AIインフラ」という戦略は、こうした状況への対応と見ることができる。GPUコンピュート、データセンタ、ネットワーク、そしてAIサービスまでを一体的に設計することで、大規模AI計算に最適化された基盤を構築するという構想だ。このアプローチは、近年NVIDIAが提唱する「AIファクトリー」にも通じる考え方であり、AIを産業的に生産するための基盤整備という意味合いを持つ。
 通信インフラの観点から見れば、この動きは興味深い。従来のクラウドデータセンタは汎用計算を前提として設計されてきたが、AIワークロードではGPU間の超高速通信や大規模並列処理が要求される。その結果、AI計算基盤は、計算・ネットワーク・電力を一体で設計する「統合型インフラ」へと進化しつつある。
 また今回の発表では、経営陣の強化も同時に打ち出された。テクノロジー企業の経営経験者に加え、政策分野に関わる人物が取締役に加わっている点は象徴的だ。AIインフラは電力消費やデータ主権、国家競争力といった政策領域と密接に関わるため、企業戦略もまた技術だけでなく政策環境を見据えたものになりつつある。
 AIが社会の基盤技術となるにつれ、その競争はソフトウェア企業同士の競争から、大規模インフラを構築できる企業の競争へと広がっている。Nscaleの急速な資金調達は、AIインフラが新たな基盤産業として形成されつつあることを示す動きと言えるだろう。

■垂直統合型AIインフラの動きは、データセンタ事業の拡大というだけではなく、クラウド産業の構造そのものに変化が生じつつある可能性を示している。従来、巨大なデータセンタ基盤とグローバルネットワークを背景にクラウド市場を主導してきたのは、Amazon Web Services、Microsoft Azure、Google Cloudといったクラウドハイパースケーラーだ。これらのクラウド基盤は汎用計算を前提として設計され、幅広いアプリケーションを支える共通基盤として発展してきた。
 しかし生成AIの普及により、計算基盤に求められる要件は大きく変わりつつある。AIワークロードではGPUクラスターを中心とした高密度計算環境に加え、GPU間を結ぶ超高速ネットワーク、膨大な電力供給、そして大規模冷却設備が不可欠となる。さらにAIモデルの学習や推論を継続的に運用するためのソフトウェア環境まで含めた統合設計が求められるため、従来の汎用クラウドとは異なる思想で構築された計算基盤が必要になりつつある。
 こうした背景のもとで、GPUクラウドやAI特化型データセンタを中核とするNscaleのような「AIインフラ企業」が新たなハイパースケーラーとして存在感を高めている。これらの企業は汎用クラウドサービスを広く提供するのではなく、大規模AI計算を前提としたインフラを構築・運用する点に特徴がある。

 また、この潮流を通信インフラの観点から見れば、AIクラスターではGPU間通信の性能が計算効率を大きく左右するため、ネットワーク設計そのものが計算基盤の性能を決定する要素となる。こうした傾向は、通信技術にも影響を及ぼし始めている。例えばモバイル分野では、AI処理をネットワーク側で分散実行する「AI-RAN」や、自律型ネットワークの研究が進められている。さらに光ネットワークの分野でも、光接続をCPUキャッシュのように扱う「Optical Cache」や「Photonic Interconnect」といった設計思想が提案されており、計算基盤とネットワークの統合設計という流れが広がりつつある。

 AIの普及が進むにつれ、クラウド基盤もまた汎用計算中心の設計からAI計算中心の設計へと重心を移しつつある可能性がある。興味深いのは、AIインフラの進化が二つの異なる起点から同じ方向に進んでいることだ。
 クラウド市場を主導してきた従来からのハイパースケーラーは、自社のデータセンタ、広域通信網、さらにはAI専用チップを含む垂直統合を進めることで、AI時代においては課題とされているインフラ制約そのものを競争優位性に変えようとしている。DCI規模で構成されるGPUクラスターは、その象徴的な取り組みと言える。
 一方で、NscaleのようなAIインフラ ハイパースケーラーは、GPUクラスターを起点にAI計算基盤を拡張している。その期待値はNscaleの急峻な資金成長曲線にも表れており、取締役の強化や、ニュース本文でPayne氏が「これは第4次産業革命だ」と述べていることからも、欧州において気運が高まっていることを感じさせる。
 ビジネス領域の出自は異なるものの、両者の取り組みは最終的に「大規模AI計算基盤を中核とする新たなハイパースケール型AIインフラ」へと収束していく可能性がある。

 今回のニュースからは、AI領域の競争がソフトウェア企業のレイヤにとどまらず、大規模計算基盤を構築できる企業の存在を不可欠にしていることが感じられる。AIソフトウェアを基盤に様々なアプリケーションが登場している中、それらを支える計算基盤インフラと、それを結ぶ伝送インフラの高度化がなければ、AI全体の高度化は成しえない。AIインフラの動向は、今後の産業構造を占う重要な指標となりそうだ。