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Coherentが、スケールアクロス・ネットワークの効率向上を実現する700mW非冷却マイクロポンプレーザを発表

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 Coherentは3月9日(ペンシルベニア州サクソンバーグ)、、コンパクトな3ピンモジュールパッケージで、ファイバあたり最大700mWの出力を実現する、シングルチップおよびデュアルチップの非冷却980nmマイクロポンプレーザを発表した。

 次世代コヒーレント伝送システムをサポートし、超高密度マルチレール光増幅器を実現するために設計されたこれらの新デバイスは、スペースが限られた環境において、より高い出力、優れた効率、そして優れた設計柔軟性を実現する。同社は「これらは、効率的なスケールアクロス・ネットワークの実現に不可欠な要素だ」としている。

 AI、クラウドインフラ、大容量トランスポートの需要拡大に伴い光ネットワークが拡張されるにつれ、増幅器アーキテクチャは設置面積や消費電力を増やすことなく、より高い出力を提供する必要がある。Coherentの最新の非冷却シングルモード マイクロポンプレーザは、ファイバ1本あたり3W未満の消費電力で最大700mWの出力を実現し、-20℃から85℃の広い温度範囲で信頼性の高い動作を実現する。Coherentは「高性能と熱安定性を維持しながらアクティブ冷却の必要性を排除することで、これらの新しいマイクロポンプは、お客様がより高密度でエネルギー効率の高い増幅器ソリューションを設計することを可能にする。これは、スケールアラウンド光システムの基盤となる構成要素となる」としている。

 CoherentのSVP 兼 テレコムトランスポート事業部ゼネラルマネージャーであるMadhu Krishnaswamy氏は「Coherentは、2004年に最初の非冷却ポンプレーザを、2017年には超小型マイクロポンプ プラットフォームを発表して以来、20年以上にわたり非冷却ポンプレーザ市場をリードしてきた」とし、「当社の最新の高出力非冷却マイクロポンプレーザは、これまでのイノベーションの伝統をさらに発展させ、要求の厳しいDCIアプリケーション向けの小型アンプ設計ではこれまで達成できなかった高密度・高性能レベルをお客様が実現できる」とコメントを出している。

 新デバイスのサンプルは現在入手可能で、量産は2026年第2四半期に開始される予定だ。OFC 2026(技術カンファレンス:3月15~19日。展示会:3月17~19日。ロサンゼルス) のCoherentブースでは、これらの高出力非冷却ポンプレーザと同社の包括的な光学コンポーネントポートフォリオが紹介される

編集部備考

■マイクロポンプレーザは、光通信システムを構成する数多くの部品の一つだ。これを、AIインフラが直面している課題を解決する方向で進化させたのが、このニュースの本質となる。

 今回のモジュールがターゲットとするスケールアクロス・ネットワークは、地理的に分散した複数のデータセンタを接続し、単一の巨大なAI計算基盤として運用するためのネットワークアーキテクチャとなる。こうした環境では、数千から数万本規模の光リンクが張り巡らされる。結果として、このレーザを採用した光アンプといった個々の光モジュールの性能は、単体のスペック以上に、システム全体で「積算」される形で効いてくる。
 例えば、1つのマイクロポンプレーザで削減できる電力は数ワット程度に過ぎないかもしれない。しかし、それが数万リンク規模で展開されれば、削減される電力はメガワット級に達する可能性がある。AIデータセンタではすでに電力供給能力が拡張の最大の制約になりつつあり、個々の光モジュールの消費電力を抑えることは、結果としてインフラの拡張余地を広げる直接的な手段となる。
 さらに、非冷却(TECレス)の設計は、単に電力を削減するだけでなく、システム全体の熱設計にも影響を与える。発熱が少ない部品は周囲の電子部品への熱ストレスを低減し、長期運用時の故障率(FIT)の改善につながる。数万本のリンクが常時稼働するネットワークでは、わずかな信頼性の向上でも、保守作業の頻度や停止リスクを大きく左右する。AIの長時間学習を止めない「止まらないインフラ」を実現するうえでも、このような基礎部品の信頼性は重要な意味を持つ。
 加えて、部品の小型化・低消費電力化は、装置全体の実装密度にも波及する。冷却ファンやヒートシンクのサイズを抑えられれば、同じラックスペースにより多くの光ポートを収容できるようになる。こうした省スペース化は従来から重視されてきたが、AI時代においてデータセンタ間の通信容量を物理的に引き上げることは、AI産業の深刻な課題であるインフラ制約を緩和することになる。

 こうした特性は、AIの分散学習の効率にも間接的に影響する。大規模モデルの学習では、GPU間で頻繁にパラメータの同期が行われるため、ネットワークの遅延やジッタが学習速度に直接影響する。高出力で安定したレーザにより信号劣化を抑えられれば、中継段数を減らしたダイレクトな光接続を構成しやすくなり、通信遅延の低減につながる。結果としてGPUの通信待ち時間が減り、学習完了までの時間(Time-to-Train)の短縮が期待できる。

 さらに重要なのは、こうした効率化がAIインフラの経済性にも影響する点だ。数万本のリンクを運用する環境では、通信機器の消費電力と冷却コストが運用コストの大きな割合を占める。非冷却マイクロポンプの採用により、電力消費だけでなく空調負荷も低減できれば、ネットワーク運用の総コストは大きく下がる。これは単なるコスト削減ではなく、インフラ投資の配分を変える可能性を持つ。すなわち、ネットワークの運用コストを抑えられれば、その分の予算をGPUなどの演算リソースの拡張に回すことができる。

 AIインフラはしばしばGPUや大規模計算基盤といった「巨大な要素」に注目が集まりがちだ。しかし実際には、それを支える無数の光デバイス、光モジュールが存在する。そして、その一つ一つの効率改善が積み重なることで、データセンタの電力、スペース、通信容量といった物理的限界が少しずつ押し上げられていく。
 言い換えれば、今回のような光デバイスの進化はコンポーネントの性能向上だけではない。それは、AIモデルの巨大化とデータセンタの物理的制約との間にあるギャップを埋める、インフラ側からの実利的なアプローチとなる。
 AIインフラは、レーザ、光増幅器、トランシーバといった無数の部品の効率改善が積み重なることで、初めて巨大なAI計算基盤が成立する。今回の発表は、その「ミクロな改良」がAI時代のインフラ競争を支えていることを改めて示すものと言える。

■今回のマイクロポンプレーザの発表は、AIインフラの拡張という文脈だけでなく、近年の光ネットワークアーキテクチャの変化とも密接に関係している。その代表例が、コヒーレント プラガブルモジュールの普及と、それに伴うIPoDWDM(IP over DWDM)アーキテクチャの拡大だ。

 従来、長距離光伝送システムはトランスポンダやマルチプレクサなどを備えた専用の光伝送装置によって構成されていた。これらの装置の内部にはEDFアンプやポンプレーザなどが組み込まれ、光ラインシステム全体が大型のシャーシとして設計されるのが一般的だった。そのため、ポンプレーザのサイズや消費電力は、装置全体の中では比較的吸収しやすい要素だった。
 しかし近年、400ZRや400ZR+に代表されるコヒーレント プラガブルモジュールの普及によって、ネットワーク構成は大きく変化しつつある。ルータやスイッチのポートに直接挿入する形で光伝送機能を実装するIPoDWDMのアーキテクチャでは、従来トランスポート装置が担っていた機能の一部がIP装置側へと移行する。その結果、光ラインシステムも専用装置中心の構成から、よりシンプルで柔軟な構成へと移行しつつある。
 こうした構造変化の中で、光アンプにも小型化と高密度化の要求が強まっている。IPoDWDM環境では、ネットワークノードのスペースや電力はルータやスイッチと共有されることが多く、従来のような大型の光増幅装置を前提とした設計は必ずしも適さない。結果として、よりコンパクトでモジュール化されたラインアンプの需要が高まっている。
 ここで重要になるのが、EDFアンプの励起光源であるポンプレーザの小型化だ。ポンプレーザは光アンプの性能と効率を左右する中核部品であり、そのサイズや消費電力はアンプ装置全体の設計に直接影響する。マイクロポンプレーザのような小型・高効率のデバイスは、スモールフォームファクタのラインアンプや高密度実装を可能にする重要な要素となる。

 さらに、Coherentが得意とする、TEC(熱電冷却素子)を用いない非冷却型のポンプレーザは、電力効率の面でもメリットが大きい。光アンプは長距離伝送路に多数配置されるため、1台あたりの消費電力の削減はネットワーク全体で大きな差となる。また、冷却機構をシンプル化できることは装置の小型化や信頼性の向上にも寄与する。

 このように、コヒーレント プラガブルの普及によって光伝送機能が装置レベルからモジュールレベルへと縮小する中で、光アンプやその内部部品にも同様の小型化・高効率化の圧力がかかっている。今回のマイクロポンプレーザは、こうした光ネットワークのモジュール化トレンドに対応する好例と言えるだろう。

(OPTCOM編集部)