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単一光子から単一電子スピンへ情報の変換に成功【大阪大学、東京大学、理化学研究所、科学技術振興機構、ルール大学】

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長距離量子暗号通信や量子インターネットの基本技術の一つを検証

 大阪大学産業科学研究所の藤田高史助教と大岩顕教授、理化学研究所創発物性科学研究センターの樽茶清悟副センター長(研究当時 東京大学大学院工学系研究科 教授)、ルール大学ボーフムのAndreas D. Wieck(アンドレアス ヴィック)教授らの研究グループは7月17日、開発を続けてきたゲート制御型の半導体量子ドット構造を改良して、単一粒子レベルで角運動量が光子から電子へと移されることを実証し、光の単位である光子から作られた単一電子スピンを捉えて、その情報を読み取ることに成功したと発表した。これまで光から生成された電子スピンを半導体中で検出するには、多数の粒子が必要とされており、単一光子から単一電子スピンへと形態を変換したときに、そのスピンの情報が正しく写されて、さらに利用できるかどうかについては解明できていなかった。

円偏光照射から生成された単一電子スピンが、隣接する場所で検出される様子を表したイメージ図。黄色い微細電極は数 10nm の太さで加工しており、作り出す電場が適切な位置での電子スピンの捕捉と移動を可能にする。

 今回、藤田助教らの研究グループは、従来は一つの量子ドットを使って、光で励起した電子を捉えることとスピンの読み取りの両方を実現しようとしていたところ、トンネル効果によって隣接する電子スピンを新たに配置することにより光の影響を受けにくい安定したスピンの読み取りを可能にした。これにより、最も基本的な光-スピン間の変換原理が検証されるとともに、今後はこの技術を量子情報の単一光スピン検出器として利用し、重ね合わせ状態やもつれ状態にある円偏光などの光源を使い、より高度な量子力学的な情報を活用できる見込みがある。半導体量子ドットは量子計算機の構成要素(量子ビット)を収めるデバイスとしても研究開発されているので、この成果により小規模な量子計算機を結合することやその暗号通信の長距離化(量子中継)、将来的には量子インターネットへの貢献が期待される。
 同研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」(オンライン)に、7月16日午後6時(日本時間)に公開された。

研究の背景

 これまで、半導体量子ドットはその微細構造の中で単一電子スピンを状態制御することに特化しており、そこから外界との通信を可能にするような、とりわけ光を媒介とする手法の考案が続いていた。しかし、室温から照射される光の情報を、希釈冷凍機の極低温で初めて動作する電子スピンに対応させる試みには、光照射によって精密な電圧制御が崩れるという課題があった。
 藤田助教らの研究グループでは、二重量子ドットに参照用の単一電子スピンを配置する方法により、生成した単一スピンに対して光照射の影響が打ち消されることを見いだした。このとき用いられた二つのスピンの比較によるスピン読み取り方法は、基礎物理の側面でも活用され、半導体中のトンネル効果、スピン軌道相互作用、核スピンとの超微細相互作用などの働きの解明に利用された。
 今回はこの計測技術を用いて、円偏光照射実験で右円偏光から左円偏光へと光子の状態を変えるにつれ変換後の単一電子スピンが反転する様子を観測し、単一量子間での正しく情報が転写されていることが実証された。

研究成果が社会に与える影響(研究成果の意義)

 この研究成果により、角運動量転写の基本原理を基に光子から電子スピンへ完全な形態変換や、もつれ光子対からの変換といった、物理学的にも重要でかつ応用に不可欠な量子状態変換の原理検証が見込まれ、傍受不可能な暗号通信に関する通信距離の延長、将来的には複合的に量子計算機を接続する量子インターネットの構築が期待される。