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導波路型光デバイスによる世界最高品質のスクイーズド光生成に成功【NTT、東京大学、理化学研究所、OptQC】

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信頼性の高い実用的な光量子コンピュータの実現に大きく前進

 NTT、東京大学、理化学研究所とOptQCは3月5日、導波路型光デバイスによる世界最高品質のスクイーズド光生成に成功したと発表した。

 スクイーズド光は様々な光量子技術の根幹となる光であり、広帯域かつ高いレベルで量子ノイズが圧縮された高品質な光は光量子コンピュータ実現における最重要リソース状態となる。光量子コンピュータは世界各国で実現化競争が激化している量子コンピュータの中でも大規模性・高速性に優れ、光通信技術との親和性の高さから多くの期待が集まっている。本成果は、将来的にIOWN技術を融合した高速な光量子コンピュータの実現を可能にし、ニューラルネットワークへの応用や、誤り耐性型量子コンピュータの実現を大きく前進させるものとなる。
 本成果は、2026年2月25日(米国時間)に米国科学論文誌Optics Expressのオンライン版に掲載された。

図1:(a)スクイーズド光の量子ノイズ (b)導波路型デバイスによるスクイージングレベルの変遷(広帯域性を発揮する導波路型光デバイスでの高スクイージングレベルが近年求められている)

背景
 連続量光量子コンピュータは他方式の量子コンピュータと比べて、装置規模を大きくせずに大規模な計算に対応できることや、比較的低消費電力での動作が見込まれることが期待されている。さらに、光通信技術との親和性の高さから高速光通信技術を活用した高速量子計算ができ、将来のIOWN技術の発展とともに今後も進化する量子コンピュータであると考えることができる。
 連続量光量子コンピュータの最も重要な部品の一つとして量子性の源を生成するスクイーズド光源がある。スクイーズド光は光電磁場の正弦(sin:サイン)成分と余弦(cos:コサイン)成分のうち片方の量子ノイズが圧縮された光であり(図1(a))、この圧縮度(スクイージングレベル)が高いほど、誤差の少ない量子計算が可能になる。さらに広帯域なスクイーズド光は計算の高速化と、量子ビット数の増加に大きく寄与する。これまでNTTは東京大学と共同で周期分極反転ニオブ酸リチウム(PPLN)からなる導波路型の光パラメトリック増幅器を用いて、共振器型に比べて広帯域なスクイーズド光の生成に関する実験を行ってきた(図1(b))。2021年には様々な量子実験が可能になる6dBのスクイーズド光を6THz以上の帯域で生成・検出することに成功した。2024年には理化学研究所にて世界初となる新方式の光量子コンピュータを稼働させた。しかしながら、より精度の高い計算や量子性の高い計算(量子アルゴリズム)を実行するには、さらに高いスクイージングレベルが求められている(図2)。
 例えば、光量子コンピュータではGKP量子ビットと呼ばれる符号化状態を用いた誤り耐性型量子コンピュータの実現が期待されている。この手法では高いスクイージングレベルが求められるが、10dBのスクイージングレベルが実現されると、高次の符号化技術も組み合わせることで誤り訂正率が現実的な値に下がってくる。
 また、光量子コンピュータはアナログ計算機としての利用法も期待されており、特にニューラルネットワークへの応用が現在検討されている。高いスクイージングレベルにより、実用的なニューラルネットワークにおける解の収束が可能になってくるとされている。

図2:光量子コンピュータを構成するスクイーズド光源に本成果が果たす役割。

技術のポイント
【周期分極反転ニオブ酸リチウム(PPLN)導波路】
 NTTでは広帯域なスクイーズド光源として周期的にその分極が反転されたニオブ酸リチウム導波路の高性能化に取り組んできた。2021年には新規作製手法による導波路自身の低損失化に成功したが、導波路から出射されるスクイーズド光の形をコントロールできていなかった。スクイーズド光の測定や量子もつれの生成には、空間的な形がほぼ等しい他の光と干渉させる必要がある。本研究では導波路から出射されるスクイーズド光の空間的な形が扱いやすい真円に近くなるよう、導波路設計および作製プロセスの最適化を実施した。

【量子光位相制御技術】
 高いレベルのスクイーズド光を測定するには、測定時に用いる基準光との相対光位相を厳密に制御する必要がある。スクイーズド光と基準光の位相を同期させるためには、一般にスクイーズド光のもととなる励起光と基準光の光位相を同期させる。従来の光位相同期手法では、非線形媒質内でスクイーズド光生成と光位相同期基準信号の生成を同時に行い、非線形光学媒体から出射される光の一部を分岐して位相同期のための信号を抽出していた。しかしながらこの従来手法では、光分岐の際にスクイーズド光も分岐してしまう。このとき、位相同期の精度を高めるために分岐比を大きくし、抽出する光強度を大きくしようとすると、スクイーズド光の光損失が大きくなってしまい、結果的にスクイーズド光が劣化してしまうことが問題だった。本研究ではこの問題を解決する新しい位相同期手法を考案した。具体的には、励起光と基準光を非線形媒質の前で分岐し、位相同期信号を生成するために他の非線形媒体を用いた(図3)。本技術により、従来に比べて低損失かつ同期精度の高い測定系を構築することに成功した。

図3:新規位相同期手法

実験の概要
 これらの技術を用いて、PPLN導波路からのスクイーズド光評価を実施し、光通信波長帯において、今回10.1dBの量子ノイズ圧縮を観測した(図4)。本成果は広帯域なスクイーズド光が生成可能な導波路型光デバイスにおいて世界で初めて古典的な光の持つ量子ノイズを90%以上圧縮したことを意味する。本成果は光量子コンピュータの性能を向上させる重要な成果となった。

図4:スクイージングレベル測定結果

各機関の役割
【NTT】
・スクイーズド光源の設計・作製およびスクイーズド光測定

【東京大学】
・スクイーズド光測定および実験系全体の設計・構築

【理化学研究所】
・実験・理論に関する議論
【OptQC】
・実験・理論に関する議論

今後の展開
 本技術は光量子コンピュータの計算精度向上およびムーンショット目標6のめざす将来の誤り耐性型量子コンピュータ実現に大きく貢献する。四社は「今後、今回の成果を導入した量子コンピュータを実現し、2027年には1万量子ビットの量子コンピュータの実証をめざす」としている。