世界最高密度の光ファイバを実用に耐えうる信頼性で実現
テレコム 無料 NTT、フジクラ、北海道大学(北大)は5月16日、6種類の光(モード)を同時に伝搬可能な光の通り道(コア)を19個配置し、1本に114(=6モード×19コア)の情報経路(チャネル)を多重化した世界最高密度の光ファイバを、250µm以下という実用的な細さで実現したと発表した。
今回、ガラス部分の直径を250µm以下と細く制限することで光ファイバの信頼性(折れない・曲げやすい)を維持し、高密度で取り扱いやすい光ファイバの作製に成功した。このような光ファイバを用いることで、将来的にはハイビジョン映画数千本の情報を1秒で転送するようなことも可能となる。この研究で、今後のデータ通信量の増大に伴い必要とされる数ペタ・ビットから、その1000倍となるエクサ・ビットにも対応可能な信頼性の高い光ファイバに、実現の道が拓けたと言える。
今回の成果は3月にアメリカのアナハイムで開催されたOFC2016におけるポストデッドライン論文として報告されたもの。
なお、本研究開発の一部は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の委託研究成果を用いているという。
研究の背景
平成26年版の情報通信白書によると、日本のデータ通信容量は2013年11月時点で毎秒2.5テラ・ビット[2.5 Tbps](テラは1012でペタの1000分の1)を超え、2020年代の後半には100テラ・ビットを上回るデータ通信需要が生じるものと予想されている。そして同時期に、既存の光ファイバ(1種類の光(モード)を伝搬可能な1つの光の通り道(コア)を有する)の伝送容量限界が顕在化すると懸念されている。したがって、2020年代には光ファイバの本数そのものを増やすことが必要になるが、光ケーブルに収納可能な光ファイバの数にも上限があり、光ケーブルを収納する空きスペースが無い場合には、地下や屋内の光配線設備から構築しなおす必要が生じる。
このため、1本の光ファイバでより多くの情報を伝送することを目指し、1本の光ファイバの中に複数のコアを配置したマルチコア光ファイバや、1つのコアの中に複数のモードを導波可能なマルチモード光ファイバを用いるなど、1本の光ファイバ内により多くの情報を伝送できる空間多重伝送により、既存光ファイバの伝送容量限界を打破しようとする研究開発が世界的に推進されている。しかし、実用的に利用可能な光ファイバ直径の上限や、コアの屈折率分布の制御性の問題を考慮すると、コア数を増やすだけ、もしくはモード数を増やすだけでは、光ファイバ1本で50を超える情報経路(チャネル)を実現することは現実的に困難だった。そこで、NTT、フジクラ、北大(情報通信フォトニクス研究室)は、コア多重(マルチコア)とモード多重(マルチモード)のベストミックスにより、実用的に利用可能な光ファイバ1本で100以上のチャネルを多重可能にする光ファイバの研究開発を進めてきた。
今回の研究概要とその成果
今回の研究では、「100以上のチャネルを有する光ファイバの設計指針の明確化」「設計指針を踏まえ、大容量伝送に適した特性を持つ光ファイバの作製・評価」「最新の光伝送技術を用いた大容量伝送への適用性の検証」を行い、以下の2点を成し遂げたという。
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・陸上光伝送路に適用可能な250µm未満の光ファイバ直径で、114チャネル(=6モード×19コア)を多重することが可能となり、ペタからエクサ・ビットの超大容量伝送に対応可能な光ファイバ技術をより実用に近いレベルに高めることができた。
・114全てのチャネルで優れた低損失性と均一性(光の通り道によって伝送特性が大きく変化しないこと)を実現し、最新の大容量伝送技術を用い、作製した光ファイバがペタ・ビット級の光伝送へも適用可能であることを明らかにした。
以上の結果により、将来の実用性を有する世界最高密度の光ファイバを実現することができたという。
研究の詳細
光ファイバの設計指針
NTTではこれまでに、光ファイバの直径を250µm以下とすることにより、既存の陸上光伝送路と同等の半径15~30mmの曲がりを付与しても、20年以上に渡り使用可能な光ファイバが実現できるという知見を得ていたが、それを今回改めて実験し確認した。そして、NTTと北大は、250µm以下の光ファイバ直径で100以上のチャネルを多重するため、3および6種類の光(モード)を伝搬可能な光の通り道(コア)の屈折率分布を最適化し、その最適化されたコア構造を用い、コア間の光信号の干渉を十分に抑圧可能な様々なコア配置について検討を行った。その結果、6モードを導波可能なコアを蜂の巣状に19個配列することで、250µm未満の光ファイバ直径に、世界最大の114チャネル(=6モード×19コア)を多重できることを明らかにした。これは、従来の光ファイバ(1種類の光(モード)を伝搬可能な1つの光の通り道(コア)を有する)の60倍以上に相当する世界最高の密度となる。
光ファイバの作製と評価
上述の設計指針に基づき、長さ8.85kmの光ファイバをフジクラが作製し、NTTがその特性を評価した。全114チャネルの波長1550nmにおける伝送損失は0.24dB/km未満であり、これまでに報告されている6モードを用いたマルチコア光ファイバの中でも最小の伝送損失を実現した。また、各チャネル間における伝送損失の偏差は0.03dB/km以下であり、極めて均一性の高い高密度光ファイバを実現することができた。更に、複数のモードを同時に用いた光伝送で重要になるモード間伝搬速度差は0.33ns/km未満であり、これまでに報告されている6モードを用いたマルチコア光ファイバの中でも最小の速度差を実現することができた。これは、19個のコアの屈折率分布が高精度に制御されていることを表すものとなる。
大容量伝送への適用性検証
NTTは、作製した114チャネルを有する光ファイバが、実際の超大容量伝送への適用性を有するか否かを確認するため、最新のQAMデジタルコヒーレント伝送技術と、入射端で114のチャネルに異なる光信号を合波し、出射端で114のチャネルからの光を分波する光ファイバ型のFan-In・Fan-Outデバイスを用い、各チャネルの伝送品質を評価した。その結果、114全てのチャネルについて伝送限界を上回る良好な大容量伝送が行えることを確認したという。
今後の展望
今回の研究成果は、光ファイバ内の空間(モードとコア)を有効に活用することにより、1本で現在の100倍の伝送容量を有し、数十年の単位で安心して利用できる光ファイバの実現性を示したもので、限られた空間における伝送容量を飛躍的に増大することを可能にする。
今後も、本光ファイバの2020年代における実用化を目指すとともに、増大し続けるデータ通信需要に持続的に対応可能な光伝送基盤の実現に貢献していくという。