J:COMがR&Dセンターを開設。最初の取り組みは、ユーザ体験向上をめざすWi-Fi 8の実証実験【1】
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J:COMが今年4月に開設したR&Dセンターでは、「暮らしのうれしい」と「地域のゆたかさ」を技術革新によって支えていくことビジョンとして掲げている。5月に開催された説明会において、同R&Dセンター長である吉兼 昇氏は「これまでJ:COMは放送や通信といったサービスを地域の皆様に提供してきた。その経験を活かして、さらに新しい技術等を織り交ぜて、お客様、地域社会に貢献できるような研究開発を進めていきたい」と話している。
R&Dセンターおける最初に取り組む研究テーマは、より高品質で安定した通信環境の提供をめざした、次世代無線規格Wi-Fi 8の実証実験となる。本記事では、R&Dセンター設立の背景や、検討されている他の研究テーマ、そしてWi-Fi 8の実証実験の詳細についてレポートを纏めた。
(OPTCOM編集部 柿沼毅郎)
R&Dセンターの設立背景

JCOM
技術企画本部
R&Dセンター長
吉兼 昇氏
これまでJ:COMの研究開発は、ビジネスに直結する形で取り組まれていた。そのため、少し先を見た研究開発や、サービスに直結しない自由な研究開発は難しい状況だった。そこで、新設されたR&Dセンターでは、将来的な技術や、ビジネスに特化しすぎない研究開発を志向し、次の三つのグループにて推進していく。
「技術開発グループ」は中期的な視点を持ち、事業化を見据えた課題解決、既存事業への貢献を領域としている。「研究開発グループ」は中長期的な取り組みとして、技術起点によるシーズ展開を実施する。「調査研究」は将来の成長戦略における新事業領域検討の判断軸に資する調査を進める。
吉兼氏は「既存の技術や製品をそのまま使うだけは、新しいサービスの創出、もしくはサービスの差別化が難しい状況になっている。今後、先の技術を見た機関が必要だ」と話している。
R&Dセンターでは、内部環境、外部環境の点からアプローチする。
内部環境では、
・時期通信端末、次世代STB(J:COM LINK)の開発と市場投入に取り組む「FTTH化の推進(ネットワークインフラの高速化)」
・既存製品・標準技術の導入だけでは、中長期の差別化が困難であるという「事業環境の変化への対応」
・将来を見据えた技術・知見を自ら蓄積する体制構築となる「経営基盤としての技術強化」
が掲げられている。
外部環境では、
・従来技術の延長では対応が難しい新技術が次々と登場しているという「技術革新の急速な進展への対応」
・視聴の多様化、通信の安定性・宅内品質向上への期待といった「顧客ニーズの高度化への対応」
・通信・メディア事業における競争領域の拡大といった「競争環境の激化への対応」
が掲げられている。吉兼氏は「一つフォーカスすると、お客様のニーズの変化が挙げられる。これまでは、通信速度が競争軸であったが、近年は安定性や低遅延性といった通信品質がお客様から要望されるようなってきているので、こういった点もケアできるように専門の部隊が必要という背景もあり、本R&Dセンターの設立に至った」と説明している。
2030年以降に実現をめざす取り組み

J:COMにおける5つの事業領域。

5つの事業領域における研究開発テーマ。
R&Dセンターでは、コミュニケーションの環境や、安心・安全な暮らしの支援といったサービスに直結する領域の研究開発を進めることで、顧客の体験価値向上を実現する。これらのサービスを支える、インフラ運用の高度化や、労働スタイルの革新も進めていく。
吉兼氏は「我々まだ発足したばかりの組織なので、足りない部分を補う、そして研究開発を推進するために外部との連携も狙っていく」と話している。

2026年度のR&D取り組み案件。
R&Dセンターでは、2026年度のR&Dとして4つの案件に取り組む。
「Dark NOC」のR&Dでは、現在24時間体制で運用されているNOC (Network Operation Center)において、ネットワーク運用高度化を実現することで人手を省き、部屋を消灯(Dark)してもシステムが自律的に回り続ける次世代の運用モデルを研究する。
「ロボティクス」のR&Dでは、基本的には人手によるネットワークインフラの運用をロボットで置き換えることで、運用の簡易化、そしてサービス品質を一定に保つ取り組みを予定している。
「Wi-Fi8」のR&Dは、宅内同軸配線の無線化として次世代Wi-Fiを検証する取り組みとなる。(検証の詳細は後述)
「ミリ波」のR&Dは、ミリ波の無線を使ったセンシングを予定している。吉兼氏は「物体の存在や、その状況を把握する技術であり、ヘルスケア等への適用の可能性も視野に入れている。まずはフィージビリティを明らかにして行く」と説明している。
編集部備考
■Wi-Fi 8検証の詳細に移る前に、この次世代技術の特徴であり、R&Dセンターが重視している項目でもある、「通信の安定性」「低遅延」に対する市場動向について纏めておきたい。グローバルにおいてコンシューマ向け通信サービスは、「ピーク速度主義」から「体感品質(Quality of Experience:QoE)重視」へ軸足が移りつつある。これは、ユーザが速度を気にしなくなったのではなく、現行のアプリケーションにとって「十分な速度」が整備された結果、差が見えやすい品質要素(安定性・遅延・応答性)が評価対象になったという構造変化であり、高速化によって生まれたアンバランスを是正する段階に入ったと捉えるべきだろう。
また、利用されるアプリケーションの性質も変わった。従来はダウンロードが中心だったが、現在はリモート会議、AIチャット、クラウドストレージ同期、クラウドゲーム、リアルタイム翻訳などの「通信が切れないこと」が価値となるアプリケーションも頻繁に利用されている。そのため、最近のQoE研究において、速度だけでは体感品質を説明することは難しく、低遅延、遅延の安定といった概念の重要性が増してきている。
例えば、ユーザが「10Gbps契約なのに遅い」という不満を持った場合、「速度の不足」ではなく「速度は十分あるのに体感が悪い」という状況であるケースが多いだろう。その原因は輻輳、バッファリング、Wi-Fi品質、遅延、ジッタ等なので、ユーザ体験の向上のためには「速さだけでなく安定も必要」となる。この潮流は固定網サービスだけでなく、モバイル網サービスでも同様だ。(本サイト内参考記事:エリクソンが、日本のモバイル通信品質に関する消費者意識調査の結果を発表)
この流れは今後、AIサービスが普及するにつれて重要性が高まっていく。生成AIを例に見ても、コンシューマ向けでは大量ダウンロードはそれほど多くないが、応答時間、継続的なストリーミング、双方向通信が重要になる。
かつては「宅内Wi-Fiの電波状況はユーザの自己責任」とされる傾向が強かったものの、現在ではFTTH等の高速化に伴い、通信速度のボトルネックが「回線そのもの」から「宅内Wi-Fiの電波干渉や死角」へと移行したため、欧州や北米の有線ブロードバンドサービスにおいて、加入者宅内のWi-Fiまで通信事業者が一元管理する「マネージドWi-Fi(Managed Wi-Fi)」プラットフォームの導入は拡大している。後述するJ:COMの宅内端末診断TAPは、このグローバルな潮流と合致したものであり、そうしたノウハウを持った同社が、将来を見据えたWi-Fi 8検証に取り組むことは、AI時代における自社の強みを活かすアプローチと言える。
レポート目次
1:R&Dセンターの設立背景



