光通信、映像伝送ビジネスの実務者向け専門情報サイト

光通信ビジネスの実務者向け専門誌 - オプトコム

有料会員様向けコンテンツ

NscaleがMicrosoftと約20万基のNVIDIA GB300 GPUを契約し、欧州および米国全域にNVIDIA AIインフラストラクチャを提供

期間限定無料公開 有料

期間限定無料公開中

 Nscaleは10月15日(ロンドン)、Microsoftとの契約拡として、欧州と米国に約20万基のNVIDIA GB300 GPUを導入するハイパースケールNVIDIA AIインフラストラクチャの契約を発表した。

 Nscaleは「これは過去最大規模のAIインフラストラクチャ契約の一つとなる。この契約はDell Technologiesとの共同作業だ」と説明している。

 ヨーロッパに本社を置き、世界中で事業を展開するNscaleは、垂直統合型AIクラウドプロバイダとして、自社およびコロケーション データセンタ、GPUクラスター、オーケストレーション、AIサービスを提供している。AIの原動力となるGPUに対する企業の需要の高まりに応えることで、Nscaleは高度なAIインフラストラクチャ プラットフォームを構築し、顧客が将来の進歩に必要なテクノロジーを提供している。

 Nscaleの創設者兼CEOであるJosh Payne氏は「Nscaleは、この歴史的なAIインフラストラクチャ契約においてMicrosoftと提携できたことを誇りに思っている」とし、「この契約は、Nscaleが世界有数のテクノロジーリーダーにとって最適なパートナーとしての地位を確固たるものにするものだ。これほどの規模のGPU導入を提供できる企業は限られているが、当社は豊富な経験とグローバルなパイプラインを構築し、それを実現する体制を整えている。当社がこれまでに能力を拡大してきたペースは、効率性、持続可能性、そしてお客様に最先端のテクノロジーを提供することへの当社の準備とコミットメントを示すものだ。これは、Nscaleが次世代のAIインフラストラクチャの提供方法において新たな基準を確立していることを明確に示している」とコメントを出している。

 Microsoftのビジネス開発およびベンチャー担当プレジデントであるJon Tinter氏は「Nscaleと共に、Microsoftはお客様に最先端のAIインフラストラクチャを提供している」とし、「本日発表されたこの契約は、持続可能性と拡張性を念頭に置きながら、当社の製品を世界中で提供できるようにするという当社のコミットメントを示すものだ。大規模なAIインフラストラクチャ サービスの提供において深い専門知識を持つNscaleは、このミッションにとって理想的なパートナーだ」とコメントを出している。 ‍

 Nscaleは、テキサス州にある約240MWのハイパースケールAIキャンパスに約104,000基のNVIDIA GB300 GPUを納入し、2026年第3四半期からMicrosoftへのNVIDIA AIインフラストラクチャサービスの段階的な提供をサポートする。この敷地はIonic Digitalからリースされており、Nscaleは将来的に1.2GWまで拡張する予定だ。Microsoftは2027年後半から開始される700MWの第2フェーズのオプション権を保有している。

 Nscaleは2026年第1四半期から、ポルトガルのシネスにあるStart Campusデータセンタに約12,600基のNVIDIA GB300 GPUを納入する。この複数年契約により、NscaleはMicrosoftにNVIDIA AIインフラストラクチャサービスを提供すると同時に、欧州の顧客にEU域内で独自のAIソリューションを提供する。

 この契約は、NscaleとMicrosoftが9月に発表した、英国最大のNVIDIA AIスーパーコンピュータをNscaleのロートンAIキャンパスに納入するという計画に基づいている。 50MWの施設は90MWまで拡張可能で、2027年第1四半期から約23,000台のNVIDIA GB300 GPUを搭載し、Microsoft Azureサービスに利用される。

 これは、AkerとNscaleの合弁会社が、ノルウェーのナルビクにあるハイパースケールAIキャンパスからMicrosoftに約52,000台のNVIDIA GB300 GPUを供給する複数年契約を締結したという最近の発表に基づくものとなる。

 Nscaleは「本日の発表は、先月の米国大統領の英国公式訪問の際に確立された英国と米国のテクノロジーパートナーシップをさらに強化するものであり、この協力関係をさらに発展させていく今後のマイルストーンとなることを期待している」との考えを示している。

編集部備考

■NscaleとMicrosoftが発表した「約20万個のNVIDIA GB300 GPU契約」は、大規模な調達発表であると同時に、AIインフラの地図そのものを塗り替える規模の出来事として非常に強いインパクトがある。これまでの大規模AIモデルを支えるクラスターは、数千からせいぜい数万GPU規模が主流だった。今回の発表は、その一桁上を行く。AI演算資源の集積としては、世界最大級のプロジェクトと見てよい。
 GB300は、NVIDIAが次世代アーキテクチャ「Blackwell」世代で投入した超高密度GPUであり、AIモデルの訓練や推論をかつてない効率で行うことを目的に設計されている。1ラックあたり72基のGPUを収容できる構成(NVL72)を前提にすると、20万基という数は約2,800ラックに相当する。1ラックあたり150 kW前後の電力を要すると仮定すれば、総電力は400 MWを超える。これは中規模都市の消費電力に匹敵する数字だ。冷却設備や配電網、ネットワーク帯域、床耐荷重まで含めたAIファクトリーとしての総合設計が不可欠になる。
 このスケールであれば、通信業界は、GPUクラスターを効率的に動かすための、数百Tbps級のデータセンタ間接続(DCI)や、極低遅延の光ネットワークを求められるのではないだろうか。つまり、AIインフラの巨大化は、通信インフラの再設計を強く促す。データセンタの近接配置、光ファイバ敷設の最適化、そしてトラフィックを動的に制御するネットワーク自動化技術、これらが一体化した「AI時代における通信基盤の再定義」が現実味を帯びてきた。
 一方、AI業界にとっては、この契約は“演算力の覇権競争”の象徴でもある。GPU供給が逼迫するなかで、20万基を一括確保できる企業はほとんど存在しない。Microsoftがこの規模を押さえたという事実は、OpenAIをはじめとする自社エコシステムの強化と、クラウドAI基盤の安定化をさらに進める布石とも思える。加えて、Nscaleがこの調達を支えることは、新興事業者が巨大クラウドに匹敵するインフラ構築力を有しつつあることを示唆しており、AIインフラ市場のプレイヤー構造が変化しつつある兆しでもある。
 そして、これほどの演算力が実現する未来は、単にAIモデルの高速化にとどまらない。通信ネットワークの最適化、エネルギー需給の制御、都市OSのリアルタイム運用など、「AIがリアルタイムで社会インフラ運用の大部分をサポートする」段階への移行を加速する可能性がある。20万GPUという数字は、単なる数量ではなく、人類が情報処理の新しいスケールに突入したことを告げる節目なのかもしれない。

■次に、本件が欧州発である点に着目して考察したい。これまでAIインフラの主導権は、米国を中心とした北米勢が握ってきた。Google、Amazon、Microsoftといったハイパースケーラーは、米国を軸に巨大データセンタを展開し、AI学習を支えるGPUクラスターを次々と拡張してきた。GPU調達網、電力供給、冷却技術、そしてネットワーク設計に至るまで、AI基盤は北米起点のエコシステムとして成立してきた。そのため、AIインフラ=米国中心という構図は、長らく揺るぎないものに見える。
 しかし、NscaleとMicrosoftが発表した「約20万個のNVIDIA GB300 GPU契約」は、その力学に変化をもたらす兆しを含んでいる。Nscaleは欧州に本社を置き、ポルトガルのStart CampusやノルウェーのStargate Norwayなど、ヨーロッパ各地でAIデータセンタの整備を進めている。今回の契約でも、米テキサス州だけでなく欧州拠点を通じたGPU展開が明示されており、「北米主導型クラウド」とは異なる「欧州主導型AIインフラ」の姿を打ち出す意思を感じる。
 欧州がこの分野で台頭しつつある背景には、再生可能エネルギーの優位性と、データ主権を重視する政策的基盤がある。ノルウェー北部でのAIデータセンタ建設は、再エネ電力を前提としたグリーンAIの象徴とされ、EU全体でもAI学習を域内で完結させる「ソブリンAI(Sovereign AI)」構想が進んでいる。こうした文脈の中でNscaleがMicrosoftと手を組み、20万基という桁外れのGPUを調達したことは、単なる技術提携ではなく、欧州が北米一極から脱却してAIインフラを確立する多極化と協調の布石の一つのようにも思える。
 この動きは、通信業界にも大きなインパクトを与える。前述の通り20万GPU規模のAIクラスターを支えるには、データセンタ間を結ぶ数百Tbps級の光伝送路と、超低遅延ネットワークが欠かせない。欧州内でこうした大規模AI拠点が増えれば、これまで北米市場を想定していた光ファイババックボーンの再設計や、再エネとデータセンタを結ぶエネルギー・通信統合モデルの構築といった需要が拡大し、新技術を導入する必要性がさらに高まる。すなわち、AIインフラの地政学的分散は、通信インフラの構造転換の加速も促すことになる。
 もちろん、先行している北米勢の優位は揺るがないだろう。サプライチェーンや資本力、ソフトウェア エコシステムの蓄積という点で、米国企業は依然として一歩先を走っている。だが、今回の欧州発の大規模契約は「どの地域がAI演算資源をどれだけ自前で持てるか」という競争軸で欧州の存在感を強めつつ、米テキサス州での欧州グリーンAI技術の活用という協調路線のバランスも見られる。また、GPU調達・組立のサプライチェーンを欧州と北米に二重化できることは、一極集中リスクの回避にもなる。AIインフラの主戦場が、米国一極から多極へと移行しつつあるという潮流を象徴する出来事と言えるだろう。

■こうした潮流の中で、日本勢、特にIOWN構想に代表される光電融合技術への注力は、追い風を受けているようにも見える。IOWNが掲げる「光伝送による超低遅延ネットワーク」「電力効率100倍のコンピューティング基盤」は、まさにAIデータセンタの爆発的な電力需要と通信帯域拡大に直結する課題に応えるものだ。欧州が再エネ志向・分散型インフラを進めるなら、日本が進める光電融合技術や、シリコンフォトニクス×異種材料集積技術は、環境性能・省電力性の観点から高く評価される可能性がある。日欧連携の新たな糸口としても注目される領域だ。
 しかし、楽観視はできない。日本の技術が評価されるとしても、地政学的ブロック経済化の中で、技術共有や標準化の枠組みが地域ごとに分断されるリスクもある。もし欧州がエネルギー・AI・通信を包括する統合基盤を自前で持ち、北米勢と対等に協調・競合するようになれば、日本はその狭間で技術供給国としての立ち位置を見直す必要に迫られるだろう。
 つまり、今回の動きは「追い風」であると同時に、「予断を許さない試金石」でもある。光電融合やIOWNのような長期的アプローチが世界のAIインフラ変革と同期できるのか、それとも実用化、量産化が間に合わず地域主権の波に埋没してしまうのか。日本の次世代技術をどう国際連携の中で活かすかが、今後の数年を左右することになるだろう。