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Ericsson、Saab、Calianが、カナダの通信イノベーション強化で提携

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 Ericssonは11月18日(オタワ)、Ericsson CanadaとSaabとCalianが、高度で安全かつレジリエントな通信システムにおける協業の機会を模索するための覚書(MOU)を締結したと発表した。

 Ericssonは「オタワで締結されたこの合意は、デュアルユース ソリューションを通じてカナダの防衛近代化と世界市場における技術競争力を支援するという共通のコミットメントを強調するものだ」としている。

 世界がますます複雑化し、新興技術が防衛体制を変革する中で、カナダのレジリエンス(回復力)と即応性を強化する、安全で統合されたシステムの必要性が高まっている。

 このパートナーシップを通じて、Ericsson、Saab、Calianは、高度なデータドリブン型技術を用いて指揮統制通信(C3)システムを近代化し、あらゆる作戦領域において意思決定者に適切な情報を適切なタイミングで提供する方法を探る。これは公共の安全にとって極めて重要であり、自然災害などの事態に対処するには、緊急対応機関間の連携が不可欠だ。

 両社は、既存および新興の通信ネットワークを連携させ、安全で相互運用性が高く、回復力に優れた“system of systems”の構築をめざしている。Ericssonのグローバル ネットワークインフラに関する専門知識、Saabの高度な防衛・監視技術、そしてCalianの統合能力を組み合わせることで、陸、海、空、そしてサイバー環境における情報の安全な移動方法を再構築する。

 Calian Groupの防衛・宇宙部門社長であるChris Pogue氏は「現代の防衛作戦は、領域をまたいで安全かつシームレスに通信できる能力に大きく依存している」とし、「Calianは、システム統合、高度な通信、そして訓練におけるカナダの専門知識を、EricssonおよびSaabとの今回の協業に活かせることを誇りに思っている。両社と協力することで、カナダの主権能力を強化し、自国の軍隊と同盟国を支援し、次世代の安全で相互運用性のある指揮統制システムの基盤を築くことができる」とコメントを出している。

 Saab CanadaのプレジデントであるSimon Carroll氏は「この協業は、スウェーデンとカナダのイノベーションの真髄を体現している」とし、「両社の強みを組み合わせることで、安全で相互運用性が高く、将来を見据えた高度な通信システムの基盤を築き、防衛と民生の両方の用途に対応する」とコメントを出している。

 Ericsson CanadaのプレジデントであるNishant Grover氏は「カナダのイノベーション・エコシステムは協働の上に成り立っており、今回のパートナーシップは、両社の総合的な強みをこの国の最重要課題の一つに活かす絶好の機会となる」とし、「SaabおよびCalianと協力することで、安全で相互運用性のある通信を推進し、カナダの防衛力を強化するとともに、カナダの産業と社会に長期的な価値をもたらすことができる」とコメントを出している。

 この覚書は、共同研究開発プロジェクトを検討するための枠組みを提供するものであり、イノベーションの促進、カナダの防衛産業における高付加価値雇用の創出、そしてカナダの防衛調達および産業支援政策への貢献につながる可能性がある。

 Ericssonは「この協働は、高度で安全かつレジリエントな技術を通じて、カナダの防衛と公共の安全を強化するという、より広範な目標の達成にも貢献するものだ」としている。

編集部備考

■防衛・公共安全の領域は、多くの国で「自国産業を中心に構築する」という政治的・文化的前提を持つ。そうした中、今回のEricsson、Saab、Calianの協業からは、その前提を変化させる潮流を感じる。背景にあるのは、Chris Pogue氏が述べた「現代の防衛作戦は、領域をまたいで安全かつシームレスに通信できる能力に依存する」という状況認識だ。防衛通信は陸海空の枠を超え、サイバー、宇宙、電磁波といった多様な領域を統合するマルチドメイン化が進んでいる。結果として、国家単独の技術体系で全体を最適化することが難しくなるケースも出てくる。
 この文脈で見ると、Ericssonの参加は「外資の特例」ではなく、グローバル通信インフラを支えてきた技術基盤への合理的なアクセスと捉えられる。Ericssonは 5G/6G、さらにミッションクリティカル通信の国際標準化に深く関与し、キャリアグレードのネットワーク構築経験を持つ。防衛用途のプライベート5GやセキュアRANに関するグローバルな知見は、民生分野での実績を基盤としたものであり、自国企業のみでは獲得しづらい領域だ。カナダ側のSaabやCalianの防衛産業としての強みと、Ericssonの通信インフラ技術を組み合わせる構図は、デュアルユース化が進む現在の防衛市場に自然に対応したものといえる。
 さらに、カナダ特有の地政学的条件も重要だ。同国はNORADを通じて米国と防空体制を共有し、NATOの一員として欧州とも連携している。防衛通信の相互運用性は「国内で完結していれば良い」という性質のものではなく、北米・欧州を跨いだ共通基盤との整合性が求められる。Ericssonの採用は、この国際的運用環境に適合させるための選択と見ることができる。
 今回の協業は、防衛・公共安全領域における「自国主導」という従来の原則と、マルチドメイン化がもたらす「国際的技術基盤の重要性」という現実の折り合いを象徴している。これは、いずれか一方に寄せるべきだという議論ではなく、通信技術の重要性が高まったことで、各国が直面する作戦要件や地政学に応じて最適解を探るアプローチが、以前にも増して柔軟になっていることを示す事例だといえる。