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NokiaとNestAIが戦略的パートナーシップを発表。NestAIはフィジカルAIイノベーションの加速に向け1億ユーロを調達

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 NokiaとNestAIは11月20日(エスポー)、AIを活用した防衛ソリューションの推進に向けた戦略的提携を発表した。

 この提携に伴い、NokiaとTesiはNestAIに合計1億ユーロの投資を行う。
 Nokiaは「ヨーロッパで最も急速に成長しているフィジカルAIラボの一つであるNestAIは、物流、検査、監視、セキュリティ、防衛分野における無人車両、自律運用、指揮統制(C2)プラットフォーム向けの次世代AIを開発している」と説明している。

 コネクティビティは防衛における戦略的資産であり、AIドリブンによる迅速かつ情報に基づいた意思決定を可能にする。防衛軍によるAIネイティブのデュアルユース技術の導入が進む中、Nokiaは米国、フィンランド、その他のNATO加盟国およびファイブアイズ諸国のパートナーとの共同イノベーションを加速するため、専用の防衛インキュベーション事業部門を設立した。

 Nokiaのプレジデント 兼 CEOであるJustin Hotard氏は「Nokiaは、防衛と重要インフラの未来は、安全なAIネイティブ ソリューションによって定義されると考えている。 NestAIとの戦略的パートナーシップは、パートナーとのイノベーションへのコミットメントを証明するものだ。Nokiaのセキュアで高度な接続性に関する専門知識とNestAIの先駆的なプラットフォームを組み合わせることで、防衛と国家安全保障のための次世代機能の開発を加速させる。この投資は、AIドリブン型ソリューションの未来を形作るという共通の目標を反映している。

 NestAIおよびPostScriptumの会長であるPeter Sarlin氏は「戦略的パートナーシップは、ヨーロッパの安全保障とレジリエンス(回復力)を強化するために不可欠だ。PostScriptumの使命に基づき、NestAIはミッションクリティカルなフィジカルAI機能を大規模に提供し、ヨーロッパの主権を守るために設立された。世界をリードするテクノロジーとイノベーションの礎石としてのNokiaの役割は、NestAIがヨーロッパの防衛にもたらす影響を加速させ、運用上の優位性を強化することを可能にする。フィンランドの政府系ファンドTesiは、組織的な安定性と長期的な視点をもたらし、強靭な技術的リーダーシップを構築する。このパートナーシップは、ヨーロッパが技術優位性を維持し、NestAIが大規模なサービス提供を可能にする未来の基盤を築くものだ」とコメントを出している。

 NokiaとNestAIは、この戦略的パートナーシップを通じて、NokiaのセキュアなAIネイティブ接続、センシング、マルチメディアに関する専門知識と、NestAIの無人システム、C2システム、次世代AIプラットフォームを組み合わせることで、防衛に特化したAIネイティブソリューションを共同で開発する。両社は、前方展開エンジニアリング(FDE)と研究開発における強力な能力を活用し、無人システム、データ中心のC2、そして最新の情報・知識管理におけるAI機能の開発を加速することをめざす。これにより、欧州の防衛軍やその他のパートナーとの連携がさらに加速し、深化する。

 TesiのVC&成長投資責任者であるJuha Lehtola氏は「NestAIは、ヨーロッパ全域のミッションクリティカルな防衛・セキュリティ環境における基盤的な技術パートナーとして台頭していくと考えている。今回の投資は、ますます複雑化し、進化する業務ニーズに直面している組織にとって、NestAIが既に実証している価値を反映している。これは、戦略的に重要なセクターにおいて卓越した可能性を秘めたフィンランド企業を支援するという、Tesiの新たな戦略とも合致している。NestAIは、高度な技術力と、焦点を絞った目的志向のアプローチを兼ね備えている。同社のソリューションの確かな進歩と方向性、そしてNokiaの安全で高度な接続性における世界的なリーダーシップが相まって、NestAIの長期的な意義と、当社の投資に対するリターンの可能性に確信を抱かせている」とコメントを出している。

編集部備考

 今回の“AIを活用した防衛ソリューションの推進”が示しているのは、ICTの高度化が防衛産業の構造そのものを変えつつあるという事実だ。従来、防衛領域は“自国産業による独自体系”を基本とし、その上に国家間協力が付随するという順序で想定されてきた。しかし、AI・クラウド・先進通信といった基盤技術が急速に商用で発展した結果、防衛システムの中核に据えられる技術の大部分が、もはや一国のみでは開発・維持するのが難しい規模へと膨らんでいる。特に、自律運用やマルチドメイン融合など、リアルタイム性が求められる領域では、通信とAIの進化スピードが防衛のアーキテクチャを牽引する構図すら見え始めている。
 リリース内でLehtola氏が「NestAIは、ヨーロッパ全域のミッションクリティカルな防衛・セキュリティ環境における基盤的な技術パートナーとして台頭していく」と述べているように、“従来のような国ごとに最適化された閉じた防衛システムとは、別の基盤”というアプローチが着実に進んでいる。防衛におけるフィジカルAI、無人システム、自律的なC2などは、広域での相互運用性が重要となる。欧州全体で共通の防衛技術基盤を形成していくという方向性は、ICTが要となった現在の防衛技術の特性から見れば、自然な流れと言える。
 さらに今回、NestAIが1億ユーロの資金を調達したことは、このアプローチが“理念的な将来像”ではなく、既に投資が流れ込むフェーズに入ったことを明確に示している。AIと通信を中心に据えた防衛インフラは、もはや構想段階ではなく、欧州においては現実の産業として見られている。従来型の軍需産業とは異なり、商用ICTのイノベーション速度とエコシステム形成力が、今後の防衛力整備を決定づけるという見方が市場側に共有され始めている点は注目に値する。
 この構造変化は、通信・ICTの視点から防衛を捉える上で重要な示唆を含んでいる。通信インフラが“防衛力の基盤”として扱われる時代においては、国家間連携と自国で確保すべき領域のバランスを、技術体系そのものから再定義する必要が出てくるだろう。
 NokiaとNestAI のアライアンスは、“防衛は自国産業中心”という従来の前提と、“国際的な技術基盤を共有する必要性”という現実との折り合いを象徴している。1億ユーロの資金が示すのは、“ICTが防衛の要となり、その構造をも変える時代”の幕が、確実に上がり始めたということだ。