光通信、映像伝送ビジネスの実務者向け専門情報サイト

光通信ビジネスの実務者向け専門誌 - オプトコム

有料会員様向けコンテンツ

ESpanixが、スペインのインターネットトラフィックをDDoS攻撃から保護するためNokia Deepfield Defenderを導入

期間限定無料公開 有料

期間限定無料公開中

 Nokiaは9月14日、スペイン最大のインターネットエクスチェンジ(IXP)であるESpanixが、DDoS攻撃からエクスチェンジプラットフォームと接続ネットワークを保護するためにNokia Deepfield Defenderを採用し、導入したことを発表した。

 この導入により、ESpanixは、ESpanixノードでトラフィックを交換する200以上の国内外のネットワークに対し、DDoS保護を新たなオプションの付加価値サービスとして提供できるようになる。これらのネットワークは、スペインのインターネットエンドユーザの大多数にサービスを提供している。

 Nokiaは「DDoS攻撃は、規模、頻度、巧妙さの面で拡大を続けており、侵害されたIoTデバイスや悪用された住宅用プロキシによる大規模なボットネットが、ネットワーク、サービス、エンドユーザに対する超大容量攻撃やアプリケーション層攻撃を仕掛けている。スペインのインターネットの中枢拠点であるESpanixノードは、戦略的に重要な位置を占めている。攻撃トラフィックをエクスチェンジで遮断することで、攻撃がポートの背後にあるネットワーク、そして企業、公共サービス、消費者に到達するのを未然に防ぐことができる」と説明している。

 ESpanixのCTOであるJavier Achirica氏は「DDoS攻撃は、接続されたネットワークにとって依然として日々の大きな脅威だ。プロアクティブな検知・軽減ソリューションをインフラストラクチャに統合することは、ESpanixがサービスポートフォリオ全体でセキュリティを最大限に高めるという継続的な取り組みにおける重要な一歩となる。Nokia Deepfieldの卓越した検知精度を活用することで、不要なトラフィックのみを隔離・除去し、DDoS攻撃の影響を大幅に軽減できる。重要なのは、この保護機能がスペイン国内のネットワーク内で完全に提供されることだ。マドリードとバルセロナにある6つのデータセンタを通じて、メンバーと接続している。これにより、ローカルトラフィックはローカルに留まり、サードパーティのスクラビング インフラストラクチャを経由する必要がなくなり、厳格なデータ主権が保証される。これらの機能を統合することで、DDoS攻撃対策の実装と運用が格段に簡素化され、エンドユーザは特別な技術知識を必要とせずに、堅牢でシームレスな防御を享受できるようになった。この新しいサービスは、ESpanixノードへの接続価値を高め、メンバーに提供するサービスに新たな次元をもたらす」とコメントを出している。

 Nokia DeepfieldのSVP 兼 ゼネラルマネージャーであるJeff Smith氏は「インターネットエクスチェンジは重要なインフラであり、スペインにとってESpanixは国内インターネットが集約される場所であるため、DDoS攻撃を阻止する上で最適な場所と言える。Deepfield Defenderにより、ESpanixはネットワーク内、そして国内において、攻撃トラフィックを数秒で検知・排除する。今回の導入は、ヨーロッパのインターネットエクスチェンジが、セキュリティをメンバーのレジリエンス強化と新たな価値創造の源泉へと転換できることを示している」とコメントを出している。

 Nokia Deepfield Defenderは、AIを活用したネットワークテレメトリのビッグデータ分析と、Nokia独自のクラウドベースデータフィードであるDeepfield Secure Genomeを組み合わせたソリューションだ。Deepfield Secure Genomeは、インターネットのセキュリティ状況を追跡する。ディフェンダーはあらゆる種類のDDoS攻撃を数秒で検知し、非常に高い粒度でネットワークベースの自動緩和を実行する。これにより、正当なパケットの流れを維持しながら、不要なトラフィックのみをピンポイントで除去する。ネットワーク自体で検知と緩和を統合することで、ESpanixはメンバーのトラフィックを外部のスクラビングセンターにルーティングする必要がなくなる。攻撃はトラフィックが流れる場所で特定・除去されるため、スペインのインターネットトラフィックとそのセキュリティ責任はスペイン国内に留まる。

 Nokiaは「今回の導入は、2025年にESpanixがNokiaの光伝送上で動作するNokiaのインターコネクトとサービスルータを基盤とした400G接続を顧客に提供するスペイン初のIXPとなるというパートナーシップをさらに発展させるものだ。 Deepfield Defenderの導入により、ESpanixは、Nokia Deepfieldを活用してメンバーを保護し、相互接続プラットフォーム上に新たなセキュリティサービスを構築する、欧州有数のインターネットエクスチェンジの仲間入りを果たした。エクスチェンジにとって、この導入モデルは相乗効果をもたらす。エクスチェンジに一度導入するだけで、そこを介して接続するすべてのネットワークに保護が拡大されるからだ」と説明している。

 この新しいDDoS攻撃対策サービスは、今後開催されるイベントでESpanixコミュニティおよび業界全体に紹介される予定だ。

編集部備考

IXPは「接続する場所」から「インターネットを守る場所」へ

 インターネットエクスチェンジ(IXP)の役割は、異なるネットワーク同士がトラフィックを効率的に交換できるようにすることだった。通信事業者やコンテンツ事業者など、多様なネットワークが集まることで、経路の効率化や遅延の低減、相互接続性の向上といった価値を生み出してきた。今回、スペイン最大のIXPであるESpanixがNokiaの「Deepfield Defender」を導入したことは、こうしたIXPの役割が新たな段階へ進みつつあることを示している。

 スペインのESpanixは200以上の国内外のネットワークが接続する拠点であり、そこにDDoS対策を組み込むことで、接続ネットワークに対して新たな付加価値サービスを提供できるようになる。特に重要なのは、攻撃を受けたネットワークごとに個別の対策を講じるのではなく、多数のネットワークが集まる「接続点」そのものに防御機能を持たせている点だ。攻撃トラフィックをネットワークの奥まで流入させる前に、交差点ともいえるIXPで検知・緩和できれば、背後にある企業や公共サービス、利用者への影響を抑えやすくなる。

 これは、IXPが「トラフィック交換所」から、インターネットの安全性を支える共通基盤へと役割を広げる可能性を示している。もちろん、今回の事例だけでIXP全体の役割が変わったと断定することはできない。しかし、ネットワークが大規模化し、接続されるサービスや機器が増えるほど、個々のネットワークだけでなく、その接続点で異常を検知・制御する価値は高まるだろう。

 通信インフラの価値は、どれだけ多くのトラフィックを運べるかだけではない。そのトラフィックを安全かつ安定して交換できること自体が、インフラの重要な機能になりつつある。今回の取り組みは、その変化を示す一例と見ることができる。

セキュリティも「ネットワークの外側」から「ネットワークの中」へ

 今回の取り組みでもう一つ注目したいのは、DDoS対策をどこで実施するかという問題だ。ESpanixでは、Deepfield Defenderによる検知・緩和を自らのインフラ内で実施する。Nokiaはこれにより、スペインのインターネットトラフィックとそのセキュリティ処理を国内にとどめ、外部のスクラビングセンターを経由せずに対策できる点を訴求している。

 ここから見えてくるのは、ネットワークセキュリティにおいて「何を守るか」だけでなく、「どこで守るか」も重要になっているという変化だ。
 従来、DDoS対策では攻撃トラフィックを専門的な防御設備へ転送し、そこで不要なトラフィックを除去して正常な通信を戻すという方法も広く利用されてきた。しかし、トラフィック量が増え、リアルタイム性やデータ主権、規制対応などが重視されるようになると、すべての通信をネットワークの外側へ移動させて処理することが必ずしも最適とは限らない。
 特にAI時代には、データセンタや企業、公共サービスなどを結ぶ通信量が増加し、ネットワークそのものが大量のデータを扱う基盤となる。そこで、セキュリティ機能をネットワークの近く、あるいはネットワークそのものに組み込むことで、「通信を運ぶ」と「通信を守る」を一体化する考え方が重要になってくる。

 もちろん、すべてのセキュリティ処理をネットワーク内で行うべきという話ではない。用途や規模によって、外部サービスを利用する方式にも合理性がある。重要なのは、ネットワークの構成やトラフィックの特性に応じて、適切な場所でセキュリティ処理を行える選択肢を持つことだろう。
 通信インフラはこれまで「データを運ぶための基盤」として発展してきた。しかし今後は、データをどこへ運ぶかだけでなく、どのデータを通し、どの通信を止めるかまでネットワークが担うようになる。その意味で、セキュリティ機能のネットワークへの組み込みは、AI時代のインフラ設計を考えるうえでも重要なテーマになりそうだ。

AIによる「セキュリティ高度化」の先にある自律的なネットワーク

 今回のDeepfield Defenderで興味深いのは、DDoS対策設備をIXPに追加したという点だけではない。Nokiaは、AIとビッグデータ分析を活用し、DDoS攻撃を数秒以内に検知・緩和すると説明している。また、不要なトラフィックだけを識別して除去することで、正常な通信への影響を抑えることも訴求している。

 ここには、AI時代のネットワークセキュリティが向かう方向が見える。攻撃の規模や手法が高度化すれば、発生した事象を人間が確認し、判断してから対処するだけでは対応に時間がかかる。そのため、AIや分析技術によって膨大な通信データから異常を見つけ出し、必要な対処まで自動化することが重要になる。

 ただし、ここで「AIがセキュリティ運用をすべて代替する」と考える必要はない。むしろ重要なのは、人間が判断すべき領域と、機械が高速に処理すべき領域をネットワークの中でどう分担するかという問題だろう。
 DDoS対策では、攻撃と正常な通信を識別し、不要なトラフィックだけを除去する必要がある。つまり、自動化が進むほど「何を異常と判断するのか」「どこまで自動的に通信を遮断するのか」といった運用上の知見が重要になる。AIの精度だけではなく、それを安全にネットワークへ組み込む仕組みや、人間が介入できる運用設計も欠かせない。

 そして、この方向性はDDoS対策だけに限定されない。異常検知、障害対応、トラフィック制御、品質最適化など、ネットワーク上で発生する様々な判断をAIが支援・自動化することで、ネットワークは「設定された通りに動くインフラ」から、状況を把握し、必要な対応を自ら実行するインフラへ近づいていく可能性がある。

 今回の事例は、その大きな変化の完成形を示したものではない。しかし、IXPというインターネットの重要な接続点にAIを活用したセキュリティ機能を組み込んだことは、ネットワークそのものが通信の安全性を判断し、維持する方向への一歩として捉えることができるだろう。

DDoS対策における多層防御の意義

 今回の取り組みを考える上で注目したいのは、通信事業者網やエンタープライズネットワークにおける従来のDDoS対策にIXPという新たなレイヤが加わることで、防御をより多層化できることだ。

 DDoS攻撃への対応では、それぞれの防御ポイントに異なる役割がある。IXPは多数のネットワークが接続するため、広域から集まるトラフィックを上流で捉え、大規模な攻撃を個々のネットワークへ流入させる前に緩和することができる。一方、通信事業者網では自社ネットワークを流れるトラフィックや設備への影響を把握しながら防御でき、企業側では自社のサーバやサービスに対する攻撃を、よりユーザやアプリケーションに近い場所で検知・対処できる。それぞれが異なる場所で異なる情報を持つからこそ、複数の防御レイヤを組み合わせる意味がある。
 この観点から見ると、インターネットの接続点に新たな防衛ラインを加えたことで、大きな脅威を減らすことができれば、上流を守るだけでなく、その下流にある通信事業者や企業の防御設備への負荷を抑えることにもつながるだろう。

 そしてAI対AIの攻防となる「ポストMythos」の時代には、この上流防御の価値はさらに高まる可能性がある。ネットワークを流れる膨大なトラフィックをAIなどでリアルタイムに分析し、異常を検知して自動的に対処できるようになれば、攻撃を受けてから防御するだけでなく、より早い段階で脅威を食い止めるという考え方が現実味を増すからだ。また、攻撃者が用いるAIも高度化していくことを考えると、上流で大規模な攻撃を防いでおくことの重要性は高まっていくのではないだろうか。

 DDoS対策は、一つの防御ポイントですべての攻撃を防げるわけではない。攻撃の種類や規模、サービスへの影響によって必要な対策は異なり、通信事業者網や企業側の防御も引き続き重要になる。だからこそ、IXP、通信事業者、企業それぞれが得意な領域で防御し、相互に補完する多層防御が重要になる。

(OPTCOM編集部)