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Infleqtion UKが、量子無線周波数方向探知システムの実用化に向けた開発で、Innovate UK から900万ポンドの支援を獲得

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 Infleqtionは10月13日(英 オックスフォード)、英国研究イノベーション機構(UKRI)傘下のInnovate UKから900万ポンド(約1,200万ドル)の助成金を受け、Quantum Missions Primerプログラムの一環として、展開可能な量子無線周波数(QRF)方向探知(DF)システムの開発を継続すると発表した。

 Infleqtionは、Quantum Direction Finding(QuDiFi)プロジェクトの第2フェーズにおいて、既存の技術では限界のある環境下で信号を正確に検出・特定することを目的としたQuantum Spectrum-DF製品を開発している。

 Infleqtionの英国担当マネージングディレクターであるColin Sullivan氏は「量子センシングを研究室レベルから実用化へと進めることで、このプロジェクトは英国を次世代無線周波数センシング技術のリーダーとして確立するのに役立つだろう」とし、「この技術は、スペクトル監視、パッシブレーダ、耐障害性航法といった将来の応用分野の基盤を築き、既存システムでは実現不可能な新たな機能を可能にする」とコメントを出している。

 無線信号は、現代の通信、航法、監視システムに不可欠だ。これらの信号の発信源を特定する能力は、防衛・セキュリティから緊急対応、インフラ保護に至るまで、幅広い用途において極めて重要だ。しかし、現在の方向探知システムは、特に低周波数帯において、大型アンテナアレイに依存することが多く、移動環境やスペース制約のある環境での利用が制限されている。

 本プロジェクトでは、リュードベリ原子を用いた量子センシング手法を採用し、従来のアンテナではなく光学的技術を用いて無線信号を検出する。この手法により、大型アンテナ構造への依存度を低減し、小型で広帯域なパッシブセンシングを実現することが期待される。その結果、本システムは、従来この機能を搭載できなかったプラットフォームにも搭載可能な、より小型で展開しやすいフォームファクタで高性能な方向探知機能を提供することをめざしている。

 Sullivan氏は「英国が情報優位性を得るために高周波方向探知(HF/DF)技術を開発してから約1世紀が経ったが、リュードベリセンシングは、より競争の激しい電磁環境において、その能力を再構築する機会を提供する」とし、「原子センサを用いてHF信号を極めて高い感度と精度で検出、特性評価、位置特定することで、この英国を拠点とするプロジェクトは、スペクトルに関する国家的な認識を強化し、潜在的な脅威を特定・追跡する能力を向上させ、高度化する国家および非国家主体に対する国家のレジリエンスを高めることができる」とコメントを出している。

 Infleqtionはこのプロジェクトにおいて、航空宇宙、防衛、セキュリティ分野における多領域技術を実現するグローバルセキュリティ企業であるLeonardoとも協力している。
 Leonardoの電子戦チーフテクノロジストであるOliver Sims博士は「Infleqtionとの協業は、Leonardoが将来のセンシング能力を変革しうる最先端技術への投資に注力していることを示すものだ。量子技術を用いたRFセンシングの可能性は、その感度と精度だけでなく、方向探知システムの物理的なサイズを劇的に縮小できる点にもある。防衛プラットフォームにとって、運用効率を維持しながらサイズ、重量、消費電力を削減することは大きな利点だ」とし、「リュードベリ原子センシングに基づく技術は、従来のアンテナベースのアプローチでは実用上の制約がある環境において、新たなレベルの性能を実現できる可能性がある。Leonardoのエレクトロニクス製品群全体にわたってこれらの技術革新が幅広く応用できると考えており、量子技術がお客様の将来の能力をどのように向上させることができるかを評価するために、研究開発への投資を継続している」とコメントを出している。

 Infleqtionは、これまでの研究でプロトタイプシステムの設計と試験に成功している。本プロジェクトの第2段階では、堅牢で実用性の高い製品であるQuantum Spectrum-DFを開発する。この製品は、性能、信頼性、使いやすさの向上に重点を置き、現実的な運用環境でシステムの妥当性を検証する。本システムは、防衛市場と民間市場の両方での利用を想定して設計されている。

編集部備考

量子センシングが変える電波受信の設計思想

 無線通信や電波監視のシステムでは、受信する周波数や求められる性能に応じてアンテナを設計する必要がある。特に低い周波数帯では、電波の到来方向を特定するために大型のアンテナ構造が必要になる場合があり、搭載スペースや重量に制約のある移動体などでは、システムを実装するうえでの課題となってきた。
 今回、Infleqtionが開発を進める量子RF方向探知システム「Quantum Spectrum-DF」は、こうした制約に対し、電波を検出する仕組みそのものを変えるアプローチといえる。従来のアンテナを利用する代わりに、リュードベリ原子と呼ばれる「高いエネルギー状態に励起された原子」が電波の影響を受ける性質を利用し、その変化を光学的に読み取る。電波を電気信号として受け取る従来方式とは異なり、原子をセンサとして電波を検出する仕組みだ。

 ニュース本文でも示されている通り、この技術の意義は、アンテナを小型化できる可能性にとどまらない。従来の方式では、アンテナの物理的な寸法や配置がシステムの設計を制約してきた。これに対して、原子を利用したセンシングによって大型のアンテナ構造への依存を減らせれば、従来は搭載が難しかったプラットフォームにも電波の検出機能を組み込める可能性がある。センシング機能をどこに、どのような形で配置するかという設計上の選択肢が広がることになる。
 また、原子を利用した電波センシングは、広い周波数範囲を扱える可能性も特徴となる。複数の周波数帯を対象とする場合、従来は対象ごとにアンテナや受信系統を構成する必要が生じることがある。受信方式の共通化が進めば、機器構成や運用方法を見直す余地も生まれるだろう。

 ただし、受信素子の構造が変わることと、システム全体が必ず小型・軽量・低消費電力になることは同義ではない。光学系や制御系を含む装置全体の構成に加え、感度、測定速度、環境変化への耐性などを評価する必要がある。
 重要なのは、量子技術が従来のアンテナを置き換えるかどうかだけではなく、従来方式では物理的な制約が大きかった用途に、新しい設計の選択肢を提供できるかという点だ。電波を検出する原理の変化が、どのような環境条件をクリアでき、センシングシステムの実装可能な範囲を広げることになるのか、今後の開発と実証が注目される。

通信するための電波から、環境を把握するための電波へ

 無線通信における電波は、一般に情報を伝送するための媒体として捉えられる。一方、電波を検出し、その発信源や到来方向を把握することも、無線技術の重要な役割の一つだ。通信のために利用される電波は、同時に、周囲の環境や無線システムの状態を知るための手掛かりにもなる。

 今回のQuantum Spectrum-DFが対象とするのは、電波の到来方向を特定する方向探知となる。従来の方向探知システムでは、複数のアンテナを配置するなどして電波の到来方向を推定する。これに対して、Infleqtionはリュードベリ原子を利用した広帯域の電波センシングによって、従来のアンテナ方式では実装上の制約が大きかった環境にも方向探知機能を持ち込もうとしている。

 この技術を通信分野から見ると、注目すべきなのは、電波を点と点で送受信する能力だけでなく、電波が存在する空間を把握する能力にも技術革新の余地があることだ。情報を届けるために利用してきた電波を、その到来方向や発信源を捉え、周囲の状況を理解するための情報源としても活用する。そうした方向へと、電波利用の可能性が広がろうとしている。
 例えば、無線通信の品質が低下した場合、周辺の電波環境を調査し、干渉源の方向や位置を把握できれば、原因の特定や対策に役立つ可能性がある。また、様々な無線システムが共存する環境では、電波の利用状況を把握することが、周波数の有効利用や安定した無線運用を考えるうえで重要になる。こうした用途では、電波を受信すること自体よりも、検出した信号から何を把握できるかが価値を左右する。

 ニュース本文では、今後の応用先としてスペクトラム監視やパッシブレーダ、耐障害性の高い航法なども挙げられている。いずれも、電波を送信して相手に情報を届けることだけを目的とするのではなく、周囲の状況や対象の位置を把握するために電波を利用する領域だ。量子センシングは、こうした電波の観測・分析機能を新しい形で実現する可能性を持つ。

 ただし、電波を検出できることと、発信源の位置を正確に特定できることは区別する必要がある。方向探知の精度や複数の信号が存在する環境での識別能力は、センサの配置や信号処理などにも左右される。また、今回の発表は、通信事業者の干渉調査などへの導入が決まったことを意味するものではない。
 それでも、通信インフラの高度化を考える際、伝送速度や容量だけでなく、電波環境をどこまで把握できるかという視点は重要になる。通信するための電波を、環境を理解するための情報源としても活用する。そのためのセンシング技術が進化すれば、無線システムの監視や運用を支える技術の選択肢も広がっていく可能性がある。

量子技術の実用化を左右する、現場への実装力

 量子技術の産業応用を考える際、注目されやすいのは、従来技術を上回る測定性能や新たな機能の実現だ。しかし、研究室で優れた性能を確認できたことと、実際の運用環境で継続的に利用できることの間には、なお多くの課題がある。今回のInfleqtionの取り組みは、量子センシングを実験段階から実用システムへと移行させるうえで、何が問われるのかを考える材料になる。

 同社はこれまでに量子RF方向探知システムの試作機を設計・試験しており、今回のプロジェクトでは、英国政府系の支援機関Innovate UKから900万ポンドの支援を受け、Quantum Spectrum-DFの開発を進める。次の段階では、性能や信頼性、操作性を改善するとともに、現実の運用環境でシステムを検証することをめざしている。つまり、原理の実証だけでなく、現場で使用できる製品として成立させることが課題になる。
 電波センシングの実用化では、測定感度や周波数範囲だけでなく、温度や振動などの環境変化に対する安定性、装置の大きさや重量、消費電力、保守のしやすさなども重要になる。さらに、実際の電波環境では複数の信号が存在し、雑音や干渉も発生する。こうした条件下でも必要な性能を維持し、検出した情報を運用者が活用できる形で提供できるかが問われる。
 この点で、今回のプロジェクトにおいてInfleqtionがLeonardoと協力していることも興味深い。量子技術の開発企業がセンサの原理や性能を追求する一方、防衛・航空宇宙・セキュリティ分野のシステムに関する知見を持つ企業との協力は、実際の搭載環境や運用要件を踏まえて開発を進めるうえで意味を持つ。新しい技術を既存のシステムやプラットフォームに組み込み、利用者が扱える装置に仕上げることも、実用化に欠かせない工程だからだ。

 この構図は、通信分野の新技術にも共通する。伝送性能や処理能力の向上を実証することと、既存ネットワークへの統合、長期的な安定運用、保守体制の構築まで実現することは別の課題だ。新技術の価値は、実験室で得られた性能だけでは決まらず、既存システムとの関係や運用上の制約を含めて評価する必要がある。
 もちろん、今回のプロジェクトも、実運用環境での検証をこれから進める段階であり、商用展開や幅広い用途での有効性が確立したわけではない。今後は、どのような環境で従来方式に対する利点を示せるのか、装置全体としてどの程度の小型化や性能向上を実現できるのかが焦点となる。

 量子技術の競争は、量子現象を利用した新しい測定方式を生み出す段階から、それを信頼性のある製品やシステムへと仕上げる段階に広がりつつある。今回の取り組みは、その移行をめざす事例の一つといえる。技術の新規性だけでなく、現場の制約を乗り越えて実装する能力まで含めて評価することが、量子センシングの産業的な可能性を見極めるうえで重要になるだろう。

(OPTCOM編集部)