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世界最高伝送密度の光送受信技術と高速省電力の光変調伝送技術を開発

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サーバーの処理速度の大幅な改善に大きく貢献

図1:開発したシリコンフォトニクス光送受信器

 NEDOプロジェクトにおいて、技術研究組合光電子融合基盤技術研究所(PETRA)と富士通は、小型で大容量化する光送受信技術により、従来の約2倍となる世界最高伝送密度約400Gbps/cm2でデータ伝送するシリコンフォトニクス光送受信器を開発した。また同時に、4値パルス制御で高速光信号を発生する光変調伝送技術も開発し、従来よりも40%少ない消費電力で1チャンネル56Gbpsという高速データ伝送を可能とした。
 これら開発成果は、今後サーバの処理速度の大幅な改善に大きく貢献することが期待される。
 この技術の詳細は、ECOC 2017で発表された。

 

概要

 AIやIoTなど技術革新に伴う将来のサーバシステムの高性能・高効率化に向け、プロセッサを多数接続するシステムの大規模化が進められており、サーバシステム内のデータ伝送容量の拡大が重要な課題になっている。しかし、従来の電気配線を用いたデータ伝送のみでは限界があるため、データ伝送を光で行う手法が期待されており、具体的には光素子とそれを駆動する電子回路を複数並べて全体として大容量化を図る方法が検討されている(図2)。このような背景のもと、NEDOプロジェクトの「超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発」において、技術研究組合光電子融合基盤技術研究所(PETRA)、富士通、富士通研究所の共同研究体制で、データ伝送容量の拡大に向けた高密度・小型光送受信器技術、高速・省電力送信器技術の開発を進めてきた。
 今回、プロセッサのパッケージ上に搭載可能な約1cm角のチップサイズで、25Gbpsで16チャンネルの400Gbpsで動作する世界最高伝送密度のシリコンフォトニクス光送受信器を開発した(図1)。また、開発した光送受信器をさらに高速化するための技術として、1Gbpsあたり1.6mWの消費電力(従来の40%減)で1チャンネル56Gbpsの高速光信号を発生するPAM4光送信器技術も同時に開発した。
 今回開発された技術により、高密度の光送受信器をプロセッサ近傍に複数配置して、従来の伝送帯域の2倍となる、約2Tbpsの光伝送が実現できるようになり、サーバの処理速度改善に大きく寄与することが期待される

 

図2:プロセッサ間光送受信器の構成

今回の成果

 従来の光送受信器では、光回路に搭載できるレーザ素子のサイズ、駆動電子回路のチャンネル数が構造上制限されるため、光回路のサイズ・容量が制限されていた。また、光送受信器を高密度化すると、送信器と受信器間の距離が近くなり、信号の電気的な干渉が発生するため、この影響を抑えて送信器、受信器を高密度に集積することが課題だった。今回、これらの課題を克服した技術的なポイントは次の通り。

小型・大容量シリコンフォトニクス光送受信技術

小型・大容量光回路技術

図3:開発したシリコンフォトニクス光回路

 8mm×9mmで400Gbps動作が可能な小型シリコンフォトニクス光回路を開発した(図3)。この光回路は16個の光変調器を配列した光送信部と、16個の受光器を配列した光受信部で構成されている。PETRAではこれまで、シリコンフォトニクス上に光回路の光源であるレーザ素子を複数搭載する技術を開発しており、今回、それを初めて光送受信器に適用した。
 光回路の光源としてレーザ素子を搭載する必要があるが、その端子構造と、駆動電子回路を搭載する端子構造が異なるため、これまで単純に一つの回路として形成することは困難だった。今回、レーザ素子搭載端子をリフトオフと呼ぶ方法で形成することにより、この2種類の端子をシリコンフォトニクス上に形成する技術を確立し、光送受信器用の新しい光回路端子構造を実現した。また、実装時にレーザ素子、駆動電子回路、および光信号の入出力を行う光ファイバが互いに干渉しないよう、光回路の構成を工夫し、チップサイズを最小限にしながら、大容量を実現した。

高密度電気インターフェース技術

図4:光送受信器実装・配線構造

 光送受信器を高密度に形成するには、多数の電気信号の入出力とその電源配線を、互いに干渉することなく接続することが必要となる。PETRAではこれまで、2次元アレイ状の高密度な端子を、高速かつ高密度に電気信号を通すことができるガラスセラミックインターポーザを介して駆動電子回路に接続し、駆動電子回路でガラスセラミックインターポーザとシリコンフォトニクス光回路をブリッジ状に接続する実装構造を開発している(図4)。今回、これを光送受信器に初めて適用し、電気信号・電源を高密度かつ高品質に供給することが可能となった。光回路の送信部と受信部間の電気的な干渉による受信性能の劣化については、送信部と受信部間にシールド構造を導入して電気的干渉を抑制し、さらにブリッジ実装構造の特長である高密度配線を活かしてガラスセラミックインターポーザ内の配線を工夫することでノイズを除去して電源の品質を向上した。
 なお、この開発技術は、富士通研究所の回路・光ファイバ実装技術をベースに、PETRAが全体設計、および実装技術開発を行ったという。

高速省電力化技術

 また、上記の光送受信器をさらに高速化するための技術として、4つの電圧値のパルス振幅で制御する方式を用いて、1Gbpsあたり1.6mW(従来比40%減)の消費電力で56Gbpsの高速光信号を発生するPAM4光送信器技術も同時に開発した(図5)。PETRAではこれまで、電力を消費しない受動素子で構成した帯域補償回路による光送信器を開発しており、この光送信器とそれを駆動する電子回路とをはんだバンプにより直接電気的に接続することで、回路の負荷を低インピーダンスにし、高速かつ省電力動作を実現した(図6、図7)。

図5:高速・省電力光送信器構造

図6:光送信器の動作速度比較     図7:56Gbps-PAM4高速光信号波形

今後の予定

 今後、開発した光送受信器技術を光モジュールに適用し2019年度の実用化を目指すという。また、NEDOプロジェクトにおいては、開発した技術を高密度の光送受信器に適用することにより、光送受信器のさらなる高密度化・省電力化の実現を目指すとしている。

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