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高速電子デバイスと信号処理で高速信号を生成し毎秒250ギガビットの短距離光伝送に成功

データセンタ/LAN 無料

データセンタ等で使われる1テラビット級光伝送につながる技術として期待

 NTTは、高速電子デバイスと信号処理を組み合わせた高速信号を生成する新技術を用いて、イーサネット等で使われている光強度変調方式で毎秒250ギガビットの短距離光伝送に成功した。この技術はECOC2016のPost Deadline Paperとして現地時間の9月22日(木)に発表された。

 イーサネット等のデータセンタ等で使われる短距離光伝送では光部品の構成が簡単な強度変調方式が用いられる。送信する情報を変換して光を変調するための信号パターンに変換するデジタル信号処理チップの出力部分のCMOS電子回路の速さには限界があり、それより高速な強度変調信号となる毎秒250ギガビットの信号を作り出すことは困難だった。
 NTTは、デジタル信号処理チップからの出力信号の速さを倍にする独自技術(帯域ダブラ技術)により、この課題を解決し、強度変調信号で毎秒250ギガビットの信号生成に成功するとともに、それを用いた光伝送実験を行い毎秒250ギガビット10kmの伝送に成功した。この成果では1つの波長で毎秒250ギガビットの短距離光伝送を実現しており、将来的に4つの波長を使って並列化することで、現在標準化されている100Gイーサネットの10倍の伝送速度となる毎秒1テラビット伝送も可能となるなど、データセンタ等で使われる将来の短距離大容量通信を実現する光伝送技術として期待される。

研究の背景

 イーサネット等の短距離通信はデータセンタ等に用いられ、低コスト・小型・低消費電力の送受信器が求められる。いままで短距離光通信では、光信号の強度のみを変化させ、1つのレーザ光源と1つの光受信素子を使用する単純な変調方式(強度変調)が用いられてきた。近年の光伝送では、効率よく情報を送るために複雑な波形が用いられるため、デジタル信号処理チップにより信号を生成して送信する方法がとられる。デジタル信号処理チップの出力をアナログ信号に変換するため出力部分に設けられたDACと呼ばれるCMOS電子回路は周波数帯域30GHz程度であるため、より広い周波数帯域(60GHz以上)を必要とする250ギガビット級の伝送に必要となる高速な信号の出力が困難だった。

研究の成果

 今回NTTが開発した「帯域ダブラ技術」は、DACの限界速度の影響を受けないようにチップ内の信号処理(図1 前置信号処理)により、入力信号をDAC出力限界速度以下の低速な信号に変換した2系統の信号として出力する。その後、デジタル信号処理チップの外部に接続したCMOS回路よりも高速動作が可能な化合物半導体の電子回路(AMUX)を用いて1つに合成することで、高速な信号の出力を実現し、上記のボトルネックを解消している。さらに、AMUXで生成が予想される余分な信号について、AMUXで合成されるときに打ち消しあうように逆算して前置信号処理で2系統の信号を設定する手法で、正確な高速信号の生成を可能にしている。今回、帯域ダブラ技術により、周波数帯域60GHzを実現し、これにADSL等で用いられる光の強度の複雑なパターンを用いて一度に多くの情報を送る方法(DMT変調)を用いることで毎秒250ギガビット 10kmの光伝送を世界で初めて実現した(図2、図3)。

図1:帯域ダブラ技術と従来技術の比較 デジタル信号処理チップはDSPとDACからなり、図中の周波数は周波数帯域を表している。毎秒300Gbpsを実現するためには約60GHzの周波数帯域程度が必要だが、従来技術ではDAC部分に約30GHz程度の周波数帯域の制限があるため、そのままでは300Gbpsの伝送を行うことは不可能だった。帯域ダブラを用いれば30GHzの帯域の2系統の信号を並列に生成して、AMUXで合成することで、全体として60GHzの周波数帯域を実現しており、300Gbpsの伝送が可能となる。

図1:帯域ダブラ技術と従来技術の比較
デジタル信号処理チップはDSPとDACからなり、図中の周波数は周波数帯域を表している。毎秒300Gbpsを実現するためには約60GHzの周波数帯域程度が必要だが、従来技術ではDAC部分に約30GHz程度の周波数帯域の制限があるため、そのままでは300Gbpsの伝送を行うことは不可能だった。帯域ダブラを用いれば30GHzの帯域の2系統の信号を並列に生成して、AMUXで合成することで、全体として60GHzの周波数帯域を実現しており、300Gbpsの伝送が可能となる。

図2:伝送実験の構成 今回の伝送実験ではデジタル信号処理チップを模擬するためパーソナルコンピュータで送信データを作成し、任意波形発生装置で信号を生成している。その信号をNTTで開発したAMUXと組み合わせた帯域ダブラで合成し、その出力信号で広帯域なレーザモジュール(EADFBレーザモジュール)を変調して伝送実験を行なった。

図2:伝送実験の構成
今回の伝送実験ではデジタル信号処理チップを模擬するためパーソナルコンピュータで送信データを作成し、任意波形発生装置で信号を生成している。その信号をNTTで開発したAMUXと組み合わせた帯域ダブラで合成し、その出力信号で広帯域なレーザモジュール(EADFBレーザモジュール)を変調して伝送実験を行なった。


図3:伝送速度に対するビット誤り率の測定結果 誤り訂正符号による訂正可能なビット誤り率の上限との交点から伝送速度の上限がくる。この場合、約300Gbpsであり、誤り訂正符号の分を差し引いた正味の伝送速度として250Gbpsが得られている。

図3:伝送速度に対するビット誤り率の測定結果
誤り訂正符号による訂正可能なビット誤り率の上限との交点から伝送速度の上限がくる。この場合、約300Gbpsであり、誤り訂正符号の分を差し引いた正味の伝送速度として250Gbpsが得られている。

今後の展開

 今回の実験の成功により、4波長を多重化することで1テラビット級の短距離光伝送をはじめとした大容量光通信など高速変調信号が必要とされる様々な分野への展開が期待される。

技術のポイント

 帯域ダブラ技術は、デジタル信号処理チップからの出力信号の速さを倍にするNTTの独自技術だ。デジタル信号処理チップ内で入力信号を並列化するとともに、入力信号を周波数領域のデータに変換して、高周波領域の信号をシフトおよび反転等の操作により低周波領域に押し込んでデジタル信号処理チップの出力部分であるDACの速度限界以下に信号帯域を低減して、デジタル信号処理チップからの出力時の信号劣化を抑制する。次にデジタル信号処理チップから並列化されて出力された信号をAMUXにより高速に切り替えて足し合わせる。AMUXでの操作を、周波数領域での信号の畳み込みとみなすと、切り替え周波数の両側にAMUXへの入力信号の像が現れ高速信号が生成される。その際、余分な信号も発生することから、その余分な信号を打ち消すように逆算してデジタル信号処理(前置信号処理)で並列化された信号を生成することで、所望の信号のみを得ることが可能となる。この技術はデジタル信号処理チップで生成できる信号の約2倍の速さの信号を作り出せることから帯域ダブラと呼ばれている。