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製造設備の故障予兆を検知するIoTサービスを4社協業で展開【THK、ドコモ、シスコ、CTC】(1)

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 THK、NTTドコモ(以下、ドコモ)、シスコシステムズ (以下、シスコ)、伊藤忠テクノソリューションズ(以下、CTC)は12月10日に記者会見を開き、2018年10月に発表した製造業向けIoTサービスOMNIedge(オムニエッジ)の正式受注を2019年12月18日、出荷を2020年1月末から開始すると発表した。
 OMNIedgeは、ユーザの製造設備で使われている機械要素部品にセンサを装着し、収集したデータを数値化、状態を可視化、故障の予兆を検知するシステムであり、IoT環境も含めて提供されるパッケージ型サービスだ。50社のユーザ企業が参加した事前トライアルにおいて、予兆検知が設備機械の停止を抑制することや、メンテナンス回数の最適化に繋がると高い評価を得たことから、今回の商用化に至ったという。
 機械要素部品メーカーであるTHKが確立したアルゴリズムによるセンサシステム、シスコのエッジコンピューティングルータ、NTTドコモのLTE通信、CTCのIoTシステムの構築・運用ノウハウを掛け合わせて構成されている。クラウドを使用することで、インフラ構築のコストおよび保守維持費用の低減が可能であり、月額8,000円のスモールスタートも選択できる。
 今回のレポートでは、OMNIedgeの特長やトライアルの成果、4社協業の意義、今後の展望について、ネットワークに対するTHKの考え方も交えて紹介する。

IoTにより、製造現場の持続的な生産性向上に貢献

THK 取締役専務 執行役員
寺町崇史氏

 THKは機械要素部品メーカーとしての観点から、在庫品検索、短納期品の入手、選定・CADデータ・見積書取得とあらゆる工程をサポートするコミュニケーションプラットフォーム、OmniTHKを今年9月に発表しており、デジタルを活用した取り組みを進めている。製造業が抱えている課題について、THK 取締役専務 執行役員の寺町崇史氏は「開発期間の短縮、需要変動へのフレキシブルな対応、労働人口減少による様々な自動化対応と生産性向上を厳しく求められる状況にある。そのような中で世界では、DX、Industrie4.0の流れから、ユーザとサプライヤにおける相互連携やサイバーフィジカルの環境構築が求められている。自動的なだけではなく、自律的なシステムを目指してデータ活用が重要なファクターになってきている。だが、高い壁が有るのが現状であり、その難しさになっている要因には、相互間ネットワークの構築、データセット統一といったものが存在している」と指摘する。THKはそうした課題をデジタルで解決する方法を模索し、ユーザの声をヒアリングした結果、メンテナンスに着目した製造業向けIoTサービスとなるOMNIedgeの提供に至ったという。

 OMNIedgeは、予兆を検知するIoT環境を提供するパッケージ型サービス。初期投資費用を抑えられるようサブスクリプション型の料金体系であり、かつセンサ、アンプ、ルータ、SIMカードをワンストップで提供し、導入が簡単にできるように設計されている。ポイントは次の3点。

簡単:既に製造現場で稼働している設備にも装着できるよう、後付けが簡単にできる設計。
安全:センサで収集したデータを堅牢かつ安全なネットワークを利用して運用する。
初期コスト0:必要なものは全てTHKが用意。

 OMNIedgeでは、センサからネットワーク環境までを全てTHKが用意するので、ユーザはすぐにIoT環境を利用できる。寺町氏は「お客様がこうした環境を構築しようとすると時間と費用がそれなりに必要になってくるが、弊社を含めた4社で協業することにより、スピーディに、かつ信頼性の高いシステムの構築が実現可能になった」と話す。THKは、機械要素部品にセンサを装着し、収集したデータを数値化、状態を可視化できるセンシングシステムを提供。そのセンサで収集したデータをシスコの堅牢なネットワークVPNで通信させ、その際にNTTドコモの信頼性高いSIMカードを使用し、CTCのインフラ技術を活用することで大切なデータをクラウド上で解析する仕組みだ。同氏は「弊社としても今回のような協業を通じて、単なる補完に留まらないシナジーが出せることを期待している」と話す。

OMNIedgeのイメージ。IoTで機械要素部品の状態を数値化することで予兆を検知する。これにより、従来は使用期間を目安にしていたメンテナンスを、状態を判断して実施することにより最適なタイミングで実施することができる。また、万が一に備えた予備在庫の削減や、担当者の経験やスキルを問わない保全の効率化を図ることができる。

THKではOMNIedgeを「メカの総合医“設備ドクター”」と位置付けている。寺町氏は「現在はStep1の段階であり、弊社の主力製品かつ流通量の多いLMガイドの見える化を実現した。また、今月18日より、ボールねじに関する無償トライアルの募集を開始する。Step2では他部品から取得できるデータとの関係性を比較することで一歩進んだ判断をできるようにしたい。そして最終的(Step3)には、そのデータを機械学習やAIと掛け合わせることで、健康状態の判断だけでなく、予測できる領域まで持っていきたいと考えている」と展望を語っている。

協業各社の強みと役割。各分野のリーディングカンパニーが協業することで、信頼性の高いIoT環境を迅速に構築することができる。

独自のアルゴリズムにより、センサの振動データから破損状態と潤滑状態を数値化

 OMNIedgeのセンサシステムTHK SENSING SYSTEM(TSS)は、機械要素部品にセンサを装着し、収集したデータを数値化、状態を可視化できる。これにより、LMガイドの破損や潤滑状態、ボールねじの予圧、ガタの状態を検知する環境を構築できる。

TSSはセンサから取得した振動データから破損状態と潤滑状態を数値化する。THKはLMガイドのトップシェアメーカーとして蓄積してきた膨大なデータベースを活用したアルゴリズムを確立しており、TSSはそれを使うことで信頼性の高い数値化を実現している。

LMガイドのセンサ装置は、アタッチメントを使うだけで簡単に装着できる。


ダッシュボードでは、過去からの傾向をモニタして比較をすることもできる。また、閾値を設定し、担当者にアラートメールを発行する機能も備わっている。

無償トライアルの成果

様々な業界の企業がトライアルに参加。

 OMNIedgeの第一弾であるLMガイドへの対応は、今回の商用化に先立ち、無償トライアルの募集を2018年10月に開始している。このトライアルでは100社を超える企業から申し込みがあり、様々な業界の企業51社の協力により、実際の装置環境下でデータ収集、解析が行われた。このトライアルを通じて、多くの企業から好評だったことから「OMNIedge」の商用化に至ったという。
 寺町氏は「このトライアルにご協力いただいた企業の中で、すでに37社と有償化・本格運用について打ち合わせが進んでいる。例えば、可動間仕切などを手掛ける小松ウォール工業様からは、再現性のあるアルゴリズムに信頼性が有るということで、いつもと違う変化点が出たら、まずはブロックのみを交換することで、レール交換のような大掛かりな作業を避ける効率的なフローが構築できるのではないかというフィードバックを頂いている。また、自動車用シート機能部品メーカー様からは、トライアルを実施したLMガイドで交換目安や給油目安にできそうな差がでたことから、ガイドの状態が分かることで装置の停止時間を減らすことができるのではないかというフィードバックを頂いている」と説明している。

小松ウォール工業からのフィードバック。


自動車部品メーカーA社からのフィードバック。


寺町氏は「トライアルを実施する中でブラッシュアップできた内容もあったので、それをより広範囲のお客様の装置に対応できるように努めてきた。加えて、その中から新たな課題やリクエストを頂いているので、先ほどお見せしたStep3をめざすために、他部品を含めた機能拡張を強化していく必要性を感じている」と話す。

月額8,000円のスモールスタートも可能

 トライアルの中で多く出た要望の1つに、開始時のコストをできるだけ抑えたいという声が有ったことから、ユーザが使用する機能に応じてプランを分けたサブスクリプション型料金体系で提供するという。また、所有の時代から利用の時代へという世の中の流れから、SaaSを採用している。寺町氏は「今回はStandardプランでサービス開始するが、来年には予測の領域にも踏み込むProfessionalプランもリリースする予定だ」と話している。

OMNIedgeのプランと料金。

今後の展望

 寺町氏は今後の展望について「接続できるデバイスの増加や、データ取得後のエッジ処理層との連携強化、さらにはIT層のプラットフォームへの接続性や解析アプリケーションの開発も強化していく。こうした取組みにより、お客様の利便性の向上など、OMNIedgeの付加価値を高められるよう、自社に拘らず他社とも連携していく。まずは、接続デバイス増加の取り組みとして、ボールねじの無償トライアルの募集を12月18日から開始する。前回同様に50社を募集し、より多くのお客様とOMNIedgeが接触する機会を創出したい」と話している。

今後の強化点。


OMNIedgeのロードマップ。


今後の4社協業について寺町氏は「OMNIedgeを今後さらに成長させるためには、5Gの高速通信、Wi-Fi6などの無線技術の発達、日々堅牢性のアップデートが必要なネットワークセキュリティ、最新動向が逐次変化するAIなど考えるべき要素が多く存在し、対応にはスピードも要するので、今後も協力を強めながら進めていく考えだ」と話している。

Report目次

OMNIedgeにより、製造現場の持続的な生産性向上に貢献
OMNIedgeにおけるドコモ、シスコ、CTCの役割

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