ProRailが、オランダの鉄道GSM-Railwayコアネットワークの近代化にNokiaを採用
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Nokiaは8月5日(エスポー)、オランダの国鉄ネットワークインフラを担うProRailと協力し、鉄道業界として世界初となるGSM-R(鉄道向けグローバルモバイル通信システム)へのクラウドネイティブなコアネットワークの導入を進めると発表した。
Nokiaは「GSM-Rコアネットワークの移行により、ProRailは数百万人の乗客の安全性とサービスの信頼性を向上させるとともに、将来的な次世代の鉄道モバイル通信システム(FRMCS)ネットワークへの道を切り拓く」としている。
このアップグレードは、ProRailの既設の2Gインフラの寿命を延ばすもので、クラウドネイティブ技術に関する貴重な知見を提供する4年間の近代化プロジェクトの一環となる。これにより、ProRailは鉄道サービスの向上、ダウンタイムの削減、新技術の導入に伴う統合、長期的な総所有コストの削減、シームレスな意思決定、そしてリアルタイムデータ交換による運用効率の向上を実現できる。
ProRailのモバイルコミュニケーションズ マネージャーであるGeert Laureijssen氏は「パートナーであるNokiaがGSM-Rの開発に引き続き多大な投資を行っていることは喜ばしいことだ。クラウドネイティブ コアネットワークへの移行により、今後10年間のGSM-R運用の基盤を築き、FRMCSへの準備を整える」とコメントを出している。
このライフサイクル管理プロジェクトの一環として、NokiaはNokia Cloud Platformの提供、導入、保守を行う。これは、Nokia Assurance Center、Packet Core(Cloud Mobility Manager、Cloud Mobility Gateway)、レジスタ、インテリジェント ネットワーク、データセンタ ファブリックを含む、完全にクラウドネイティブなコア インフラストラクチャだ。また、このプロジェクトには、すべての無線およびモバイル コア テクノロジーに対応するNokiaの単一ネットワーク管理システムであるMantaRay NM、ネットワーク要素の自動バックアップとリストアを実現するArchive Cloud、IP、光、マイクロ波ネットワークを自動化するNokia Network Services Platformのアップグレードも含まれており、ProRailの鉄道通信のアジャイル性と効率性を高める。
Nokiaのグローバル鉄道事業責任者であるEmanuele Di Liberto氏は「鉄道は、環境に優しく効率的なモビリティの礎だ。 ProRailは、クラウドネイティブ アーキテクチャへの移行を開始することで、通信システムの安全性、信頼性、そして将来のイノベーションへの対応力を確保している。私たちは、ミッションクリティカルなインフラを支えるクラウドネイティブ ソリューションの成熟度を示すこの変革において、ProRailを支援できることを誇りに思っている」とコメントを出している。
NokiaとProRailの導入は、欧州の鉄道事業者が、進行中の業界デジタルトランスフォーメーションの一環として、将来を見据えた通信基盤を構築する方法を示している。鉄道インフラ事業者がGSM-Rのライフサイクル延長に備え、欧州およびそれ以外の地域でFRMCSへの移行を計画する中で、この移行のタイムラインは極めて重要となる。
Nokia は「GSM-Rは、列車の制御と運行に不可欠な音声とデータをサポートする、安全で信頼性の高い鉄道通信の現在の標準だ。FRMCSは、より高速なデータ通信、統合の向上、そして安全性の向上を実現する次世代システムだ。クラウドネイティブの GSM-R コアに移行することで、ProRail などの通信事業者は、アプリケーション間の相乗効果をより効果的に探求し、統合を容易にし、FRMCSへの移行を加速できるようになる」としている。
編集部備考
・FRMCSは、5Gベースの鉄道通信システムの国際規格であり、スマート鉄道や自動運転、リアルタイム運行管理といった新たなアプリケーションを支える基盤として非常に有望視されている。
EU全体の目安として、FRMCSの本格展開は2030年とされている。この展開と並行して、現行のシステムである2GベースのGSM-R(Global System for Mobile Communications-Railway)は段階的に廃止されていくことになるが、今回のニュースには「今後10年間のGSM-R運用の基盤を築き、FRMCSへの準備を整える」というコメントがあるように、FRMCSへの移行のタイミングは国によって様々という実情も示している。
やはり、鉄道という安全性・可用性が求められる領域では、従来通りGSM-Rを使い続けたいというニーズは残るだろう。その一方で、国を横断する鉄道もあるEUにおいてFRMCS移行という共通目標があることから、それを見据えたGSM-Rの延命ということで、ProRailはクラウドネイティブの GSM-Rコアへの移行を選んだ。これは、物理装置ではなくサービス設計とオペレーションの柔軟性を主眼にした刷新であり、「安全性と変化の両立」が要求される産業における現実的DX戦略の好例となりそうだ。
鉄道という、通信とは異なる産業に対し、移行期に必要なサポート技術やプラットフォーム変換技術を提供するには、業界横断の連携体制や顧客理解が必要であり、今回のニュースからは、Nokiaは鉄道分野でもそれが可能なベンダであることが読み取れる。また、レガシーシステムに対してクラウドネイティブとAIを組み合わせた運行基盤の再構築は、様々な産業で有効なアプローチだろう。今回の事例は単なる通信インフラの提供ではなく、異業種の運用基盤を理解し、レガシー延命と新技術移行を両立させるベンダの役割を明示した好例でもある。