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ノキアが取り組む、AIイノベーションと先進ネットワーク【AIと高度なネットワークソリューションでパフォーマンスと利益を促進】

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ノキア
モバイルネットワーク 製品管理部門責任者 RAN 製品ラインマネジメント
ブライアン チョー氏

 ノキアのモバイルネットワーク 製品管理部門責任者 RAN 製品ラインマネジメントであるブライアン チョー氏からは、「AIと高度なネットワークソリューションでパフォーマンスと利益を促進」をテーマに、RAN領域をベースとした「パフォーマンス向上」「自律ネットワークの推進」「利益向上と収益化の推進」について解説された。

パフォーマンス向上

ノキアが実施したアンケートから、オペレータはピークスループットよりも平均スループットを重視している傾向にあることが判る。

 ノキアがオペレータに実施した、ネットワークパフォーマンスの優先度に関するアンケートでは、平均スループットが重視されている傾向にあることが判った。また、それに次いで最低スループットが重視されているので、オペレータはエンドユーザのエクスペンスの低下を最小限に抑えたいと考えていることが読み取れる。その次がハンドオーバーの成功率、呼損率を減らすことであり、ユーザが非常に厳しいチャネル環境にいる場合のパフォーマンスが着目されている。そして、ピークスループットがこれらの項目よりも優先度が低いことも併せて全体の傾向を考えると、ネットワークがいかに早いかということだけではなく、ユーザの体感を安定させることに重きを置いていることが判る。
 チョー氏は「ノキアの機能開発における優先順位は、このアンケートに見られる皆様の答えと非常に一致している」と話す。

高可用性によるユーザ体感の安定
 ユーザ体感の安定を最優先に位置づけると、まずはスループットゼロという最悪のユーザ体感を避けることが重要になる。そのためにはビームフォーミングやハンドオーバーのスキームといった技術も必要だが、ノキアでは更に、ネットワークの可用性を高めるアプローチをしている。チョー氏は「ノキアは、ASIMコントロールカードによる高可用性モードを導入している。これはプライマリカードとセカンダリカードによる冗長構成を実現しており、ユーザが認識する通信障害を70%削減することができる」と説明している。

高可用性モードのイメージ。プライマリとセカンダリの両方がネットワークのマネジメントシステムに繋がっており、一方がダウンしたとしても、もう一方でサービスを継続できる。チョー氏は「ノキアが新たに開発したこの機能により、ユーザが認識する通信障害を70%削減することが出来る」と説明している。

高可用性モードの詳細。ソフトウェアのアップグレードを実施する際の自由度が高いことも、高可用性に繋がっている。

AIによりビームフォーミングやプリコーディングを最適化
 ノキアでは、上記のようなサービスが落ちないための可用性向上(ASIM 冗長化)だけでなく、接続中の品質を最大化する無線最適化のためにAIを高速に動かすベースバンドにも取り組んでいる。この、異なるレイヤのアプローチを組み合わせることで、ユーザ体感を総合的に引き上げている。

RAN性能を向上させる、AirScale基地局のAI搭載。

 ノキアの最新のベースバンド製品を見ると、Massive MIMO向けにAI 処理を高速化するハードウェアが実装されている。
 時々刻々と変動するチャネルに対し、AIによってビームフォーミングやプリコーディングを最適化することで、干渉を抑えつつスループットを最大化でき、その結果、セルエッジを含むユーザ体感の向上につながる。
 ここで重要なのは、Massive MIMOの信号処理はチャネル推定や最適化に極めて大きな計算負荷を伴う点だ。AIを活用する場合、その推論処理をリアルタイムに実行できるハードウェア基盤が性能に直結する。そこでノキアはこの課題に対し、ベースバンドにAI処理を高速化する機能を搭載することで、動的なチャネル変動により迅速に対応し、ユーザ体感品質の改善を実現している。

自律ネットワークの推進

 ノキアは業界に先駆けて自律ネットワークの重要性を主張しており、製品ポートフォリオに取り入れてきた。
 現在の市場で主流であるRAN自動化は、パラメータ調整や最適化タスクをソフトウェア化・自動化することで、運用効率を高める段階にあたる。ノキアは10年連続でTÉRAL ResearchからRAN自動化のリーダーとして認められている。そして、自動化の発展と言える自律ネットワークは、AIによる予測・判断を前提とし、インテントベースの制御や自己最適化により、ネットワークが状況に応じて振る舞いを変える高度自律型の運用となる。
 チョー氏は「RANの複雑性やコストは高まっており、5GはNSAから始まり、SAそしてAdvancedへの進化が見えている。また、スライシングを動的に管理するのは非常に難しく、その他の技術も含めアップグレードする6Gも見据えなくてはいけない」と指摘し、「AIがRANの運用を変えている。AIを活用することで、RANの複雑性を隠してオペレーションの精度を高め、エンドユーザの体感を上げることもできる。また、コストを下げることにもなる」と話す。

RAN運用におけるAI活用。その目標とする項目は複数あるので、自動化から自律ネットワークへの発展も項目別の段階的な実施になる傾向にある。

ノキアのMantaRayポートフォリオはAI for RANの主要コンポーネントであり、インテリジェントで自律的な無線ネットワーク運用を実現する。

 AIによる自律型RAN運用が求められる中、NokiaはMantaRayスイートを通じて監視・最適化・自動意思決定を統合的に提供している。これを構成する「MantaRay NM(Network Management)」「MantaRay SON(Self Organizing Networks)」「MantaRay AutoPilot」は、それぞれ役割が明確に階層化されており、自律化レベルを段階的に高める構造になっている。
 まず MantaRay NM は、RAN全体の状態を把握し、信頼性の高い運用データを集約する統合管理レイヤを担う。物理・仮想を含む基地局装置のインベントリ、アラーム管理、パフォーマンス監視、設定/障害管理など、従来のNMS領域を一括で扱い、ネットワーク全体を可視化する。NMが提供する一貫したデータモデルと豊富な運用メトリクスは、上位の自動化機能が動くためのベースとなる。
 その上位に位置づけられるMantaRay SONは、NMが集めるデータを用いて、パラメータ最適化やセル間干渉管理、自動PCI割り当て、ANRなどの最適化処理を自律的に行う。日々変動するトラフィックに応じてRANの設定を動的に調整し、品質安定化とオペレーション負荷軽減の双方を支える自動最適化レイヤとして機能する。
 最上位のMantaRay AutoPilotは、AI/MLを活用してインテントを解釈し、予兆検知から対策実行までを自律的に進める意思決定レイヤに相当する。SONで実施される最適化を統合的に調整し、トラフィック急変や障害の兆候に先回りして処置を行うことで、ゼロタッチ運用に近い運用モデルを実現する。
 この3層構造により、MantaRayは「監視→自動最適化→自律運用」という段階的な自律化を可能にする。またNM、SON、AIにおけるデータの一貫性には、運用のし易さや自律運用の精度を高めるという大きなメリットがある。

ノキアがオペレータに実施した、RANオートメーションにおける重要な分野に関するアンケートでは、日々のネットワークの運用にかかるコストが最も重視され、ネットワークのパフォーマンスと最適化や、消費電力の削減、予知保全が上位に入っている。こうしたニーズを満たすために、NM、SON、AIといった複数のツールを運用するには煩雑さが課題となるが、MantaRayポートフォリオならばこれらを網羅しているので、統合スイートとして煩雑さを解消できる。

 MantaRayポートフォリオには、RANを含むネットワーク全体の構成管理やインテント配信を司る上位の統合管制レイヤであるMantaRay SMOも用意されている。つまり、NM/SON/AutoPilotといったRANの自律運用エンジンと、SMOによるサービス全体のオーケストレーションという、階層の異なる2つの領域をカバーしている。
 例えば、最初の投資として入りやすいMantaRay SON単体によるRANの自動最適化を実施し、他のツールも追加しつつ自律レベルを段階的に上げていき、やがてMantaRay SMOによるネットワーク全体の統合管理へと拡張することが可能だ。チョー氏は「RANのオートメーション ツールはもちろん重要だが、やはりエンド・ツー・エンドでの自動化を実現することも重要だ。MantaRayならば、SMOをまったくゼロからスタートするのではなく、SONから進化させることができるので、コストを下げ、インテグレーションも簡単だ」と説明している。

ノキアのソリューション アーキテクチャ フレームワークには、TMFリファレンスモデルとの整合性もある。

 MantaRayポートフォリオは、TMFのレベル4が要求する技術的必須要件を備えている点でも注目されている。このレベル4は自律型ネットワークの成熟度モデルにおける高い自律性を指しており、人間が定義したプロセスの自動化から、システムが人間から独立して意思決定を行う自律的な振る舞いへの移行を実現できるレベルとなる。
 チョー氏は「オペレータ様がハイレベルのインテントを入力するだけで実現できる。例えば、ネットワーク アベイラビリティを上げたい、エンドユーザの性能を一定に保ちたいといったインテントを入力することで、AIがオーケストレーションし、そのオペレーションを実現する」と説明している。

MantaRay SMOの今後の展望。チョー氏は「エージェンティックAIにも取り組んでおり、運用のさらなるシンプル化に向けて研究を継続している」と話す。

利益向上と収益化の推進

ノキアが実施したアンケートから、オペレータは料金体系(バンドル施策)と品質差別化(プレミアム接続アプリ) を重視していることが判る。

 ノキアがオペレータに実施した、利益向上と収益化の推進に関するアンケートでは、データプランとコンテンツのバンドルという「料金施策の多様化によるARPU最大化」が最も注目されていた。2番目に注目されているのが、AR/VRなどのプレミアム接続アプリという「ネットワーク品質そのものを差別化要素とした高付加価値サービス」となった。
 チョー氏は「プレミアムサービスのコネクティビティを実現するには、スライシングやQoS差別化といった機能が必要になってくる。また、プレミアムサービスを提供する場合、基本的に他のユーザのサービスが劣化してはいけないので、既存のキャパシティ上にプラスしてプレミアムサービスを提供する必要があり、ネットワークのキャパシティを増加することになる」と説明している。

ノキアの5G-Advanced(Advanced5G)による新たな機会。5G-Advancedは複数の強化項目に分かれているので、一括移行ではなくモジュール化された機能群の選択導入が可能だ。

 ネットワーク品質そのものを差別化要素とする高付加価値サービスは、その実現基盤として柔軟性・制御性・自動化を強化した次世代の5G-Advancedへの移行が鍵となる。移行の主体はクラウドネイティブ化されたRAN/COREのソフトウェア強化であり、事業者は既存設備を活かしつつ、優先する項目から段階的に5G-Advancedへと進化できる。
 チョー氏は「ノキアは今年初めに5G-Advancedを発表し、複数の項目にわたってソフトウェアソリューションを提供している。ユーザエクスペリエンスに関するもの、TCOを節約するもの、そして収益の拡大に繋がるものだ。例えば、RedCapによる新しいIoTサービスの導入加速、正確な位置情報の提供、またクリティカルサービスの機能の提供による公共安全やエンタープライズにおける高い信頼性と可用性の実現などがある。これらはサービスの差別化でも重要になってくる」と説明している。

ノキアが変曲点として示す、進化する5G時代で成功するための要素。

 ノキアでは、進化する5G時代において収益化を実現するための要素として「差別化」「セグメンテーション」「トランスフォーメーション」を掲げている。5G、5G-Advancedといったコネクティビティの「差別化」を、どのように消費者に体感してもらうか。家庭のFWAや企業の5G・5G-Advanced活用といった「セグメンテーション」をどのように発展・拡大していくか。セルラーと衛星を組み合わせる等の「トランスフォーメーション」をどのように開拓していくか。これらに取り組むことで、収益化を段階的に実現することができるという。

進化する5G時代における、段階的な収益化のイメージ。チョー氏は「5Gの収益化には体系的なアップセルの過程が必要となるので、5G-Advancedの展開は、5Gテクノロジーと進化とビジネス変革を組み合わせたものとなる」と説明する。

AI-RANは収益化と効率化の機会を解き放つ

AI-RANの役割。

 今回、チョー氏が解説したRANのパフォーマンス向上、自律ネットワークの推進、利益向上と収益化の推進。最後に、これらを支える基盤であるAI-RANの役割や展望を纏めたい。
 AI on RANは、RANエッジにおけるAI推論やxApps/rAppsの活用を通じて、アプリケーション最適化や新サービス創出を可能にする。RANのプログラマビリティやネットワークエクスポージャと組み合わせることで、産業向けの高信頼サービスや5G-Advanced世代のプレミアム接続サービスなど、新たな収益源の拡張にも寄与する。
 AI for RAN は、AIによる新しい自動化アルゴリズムを適用することで、RANの効率・容量・パフォーマンスを向上させ、ユーザ体感の改善につなげる。干渉抑制、トラフィック予測、スケジューリング最適化などが代表例だ。
 AI and RAN は、vRAN で構築されたクラウド基盤を多目的化し、AI推論や企業向けAIワークロードなど、RAN以外の処理も収容可能とする発想だ。予備GPUの活用やRANクラウドとAIクラウドの統合を通じて、将来的にはAIファクトリーのような新しいコンピュート基盤へと発展していく。
 このようにAI-RANは、5G-Advancedの進化方向と密接に連動しながら、RANの高度化と収益化を支える中核技術になりつつある。今回の講演からは、ノキアが双方の技術で先進的な成果を出し、製品ポートフォリオに導入していることが判る。
 チョー氏は「ノキアは日本で長年パートナーとして信頼していただけるように尽力してきた。今後も日本の産業と一緒にパフォーマンスを向上し、自動化を促進し収益化の実現に向けてお手伝いをしたい」との考えを示している。

レポート目次

TOP

AIコネクティビティのための超高効率ネットワーク

・AIと高度なネットワークソリューションでパフォーマンスと利益を促進

以下、後日更新