NokiaとTampnetが提携し、メキシコ湾における5Gオフショア(洋上)接続を拡大
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Nokiaは12月2日(エスポー)、Tampnetと提携し、5G プライベートワイヤレス ソリューションを活用して、メキシコ湾(アメリカ湾)におけるTampnetのデジタル事業の近代化と拡大に取り組んでいると発表した。
NokiaはTampnetの全基地局(稼働中の基地局120基)にNokia 5G技術を展開する。また、350~400のプラットフォーム、リグ、浮体式生産貯蔵積出設備(FPSO)、風力発電所、船舶へのカバレッジ拡大も行う。
Nokiaは「ノルウェー大陸棚(NCS)の洋上生産プラットフォームに世界初の高度自律型(fully autonomous)プライベート5G エッジ ネットワークを2025年に展開するという目標を基盤に、今回のパートナーシップは、そのイノベーションを米国の洋上にも拡大し、世界の洋上エネルギー分野における接続性、安全性、デジタル変革の新たなベンチマークを確立する」と説明している。
Nokiaのモバイルネットワーク部門 北米エンタープライズ責任者であるJeff Pittman氏は「Tampnetとの協業は、Nokiaのプライベートワイヤレス ソリューションが、世界で最も過酷な環境下においてデジタルトランスフォーメーションをどのように実現しているかを実証している。両社は共に、エネルギー生産者とその従業員に長期的な価値をもたらす、オフショア接続の新たな基準を確立していく」とコメントを出している。
メキシコ湾岸地域はTampnetにとって戦略的な地域だ。同社はこの地域でプライベートネットワークとパブリックネットワークの両方を運用し、洋上資産と本土を接続する重要な海底光ファイバを管理している。Tampnetのインフラは、この地域の洋上活動のデジタルバックボーンを形成し、信頼性の高い超低遅延・高可用性接続を提供することで、現場から陸上まで、より安全でスマート、そして持続可能な運用を支えている。
Tampnetのモバイルテクノロジー部門 CTOであるArnt Erling Skavdal氏は「Nokiaの5Gテクノロジーにより、私たちはメキシコ湾岸地域のオフショアネットワークの近代化に向けて大きな一歩を踏み出す。この投資により、洋上産業における進化する接続性と自動化のニーズに対応し、作業員の安全性を向上させ、これまで実現できなかった新たなデジタルアプリケーションを実現することが可能になる。
Nokiaの5G AirScale無線アクセス機器は、洋上産業がリアルタイム遠隔監視、予知保全、スケーラブルな自動化といった高度な機能を活用できるよう支援する。湾岸地域の作業員は、安全性の向上から業務効率化まで、強化されたプライベート無線サービスの恩恵を受けることができる。
編集部備考
今回のNokiaとTampnetの協業は、洋上エネルギー施設に高信頼なプライベート5G網を構築する取り組みであり、「洋上の特殊用途」という印象を受ける。だが、海上・洋上環境に固有の“電波物性の厳しさ”に対し、セルラー方式がどのように適応し得るかという観点を持つと、また違った価値が分かる。
海上環境では、まず水面という巨大な反射面が電波伝搬を大きく左右する。陸上と異なり、建物や地形といった乱反射が少ないため、直達波と海面反射波による「Two-rayモデル」が支配的になる。両者の位相が一致する距離では予想以上に電波が伸びる一方、逆位相となる距離では信号が急減衰し、深いフェージングが生じる。この“谷と山”の落差は陸上より極端で、設備や船舶が数メートル動いただけで受信品質が大きく変動する。また、海上は温度・湿度の垂直分布が急峻で、大気の屈折率が不安定になりやすい。これにより電波が曲がって伝搬する「ダクト現象」が発生し、遠方からの干渉が突発的に飛び込むなど、エリア境界を想定しにくいという課題もある。
こうした“クセの強い”伝搬環境では、スケジューリング制御を備え、ハンドオーバー能力が高く、QoS を担保できるセルラー方式が大きな優位性を持つ。特にプライベート5Gは、ライセンスバンドを利用し、干渉源を排除しやすいうえ、ユーザトラフィックの優先度を細かく制御できるため、フェージング谷であってもミッションクリティカル通信を安定的に通しやすい。さらに、基地局間の協調制御により、作業船や移動体の細かな動きにも追従できる点は、Wi-Fi が最も苦手とする領域だ。
今回の洋上向けプライベート5G構築の取り組みは、海上という極端な無線条件に耐えるためのアーキテクチャと運用知見を蓄積できる。これは、海に関わる様々な産業、例えば洋上風力発電所、港湾の自動化設備、海洋研究施設、漁業・養殖の自動化、海上交通管理(VTS)などのデジタルトランスフォーメーションのテンプレートになりえる価値がある。日本のような海上に関連する産業規模が世界的にも大きい国にとって、非常に実務的な教訓を持つ事例となるだろう。



