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Nokiaが、FRMCSをサポートする次世代デジタル鉄道運用向けの商用5Gソリューションを発表

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 Nokiaは8月27日(エスポー)、世界中の鉄道事業者に大容量、高性能、かつ耐障害性に優れたリアルタイム通信を提供するよう設計された新たな5G無線ソリューションを発表した。

 Nokiaは「このソリューションは、未来の鉄道モバイル通信システム(FRMCS)の基盤となる。よりスマートで安全、そして効率的な鉄道ネットワークの礎となるこのソリューションは、デジタル化と自動化を推進し、乗客、企業、そして環境へのメリットをもたらす。今回の発表では、業界初となる1900MHz(n101)帯域に対応した商用5G無線と、鉄道業界のデジタルトランスフォーメーションを加速するために特別に設計されたNokiaの鉄道向けコア エンタープライズソリューションが搭載される」と説明している。

 今後10年間で、FRMCSは現行の2Gグローバル鉄道モバイル通信システム(GSM-R)をアップグレードし、すべての鉄道向けに設計された次世代グローバルスタンダードとなることが見込まれてる。セキュリティと高い信頼性を備えた5Gベースの後継システムは、自動化の強化、新しいデジタルアプリケーションの実現、乗客サービスの向上、そして国境を越えた通信における安全性を実現する。

 Nokiaは「当社は鉄道通信のグローバルリーダーであり、20カ国以上でGSM-Rの導入実績を数十年にわたって有している。FRMCS開発の最前線に立ち、鉄道事業者、政府、業界団体、標準化団体と連携し、標準規格の策定とグローバル展開を支援してきた」としている。

 Nokiaのモバイルネットワーク担当プレジデントであるTommi Uitto氏は「デジタル化の推進には、従来のシステムでは到底実現できない高速接続とデータ通信能力が求められており、世界中の鉄道事業者は近代化を急務としている。Nokiaの商用5Gソリューションは、鉄道業界で長年培ってきた専門知識に支えられており、次世代の鉄道事業の基盤を築くという当社のコミットメントを反映している。Nokiaは、FRMCSへのスムーズな移行をサポートするとともに、運用効率、安全性、そして乗客体験全体を向上させる、将来を見据えた柔軟なテクノロジー プラットフォームを提供する」とコメントを出している。

 Nokiaの新しい5G無線システムは、ミッションクリティカルな通信向けに構築され、戦略的な共存をサポートする。これにより、鉄道会社はGSM-Rなどの従来のシステムと並行して、中断なく5Gに移行できる。さらに、完全に最適化されたクラウドネイティブの5G SAコアは、トランスポート層向けのFRMCS機能をすべてサポートする。
 Nokiaは「モジュール式で柔軟性と拡張性に優れたこのソリューションは、地域レベルと全国レベルの両方での導入が可能だ。また、欧州全体の鉄道業務のデジタル化を推進するための、これまでのFRMCSイニシアチブを基盤とする、EUが資金提供するFP2-MORANE-2プロジェクトでもテストされる」としている。

 5Gソリューションへの移行により、特に国境通過時における現代の鉄道の運用ニーズに完全に合致する強力な機能が導入される。鉄道事業者と乗客にとっての主なメリットは次のとおり。

自動列車運行:列車のリアルタイム制御と監視を可能にし、安全性と効率性を向上させ、エネルギー消費と排出量を削減する。

旅客情報システム:乗客にリアルタイムの最新情報と情報を提供し、より良い旅行体験を提供する。

ミッションクリティカルな音声通信:音声、ビデオ、データサービスを単一の標準化されたプラットフォームに統合し、運用とインフラ管理を強化する。

スマート鉄道保守:予知保全とリアルタイム監視を活用し、ダウンタイムと保守コストを削減する。

 Nokiaは、先進的で将来を見据えた技術を通じて、鉄道業界のデジタルトランスフォーメーションを推進することに尽力している。同社は「この新しいソリューションには、先進的なAirScaleポートフォリオの1900MHz帯向け商用5G無線と、鉄道向けに最適化されたCore Enterprise Solutionが含まれている。さらに、Nokiaの幅広いミッションクリティカルなIP、光、データセンタ ネットワーク製品ポートフォリオも補完している。Nokiaのソリューションは、最高水準の基準に準拠し、クラス最高のサイバーセキュリティフレームワークを備えている」と説明している。

編集部備考

・鉄道通信の次世代基盤として注目される「FRMCS(Future Railway Mobile Communication System)」の導入が、欧州を中心に進みつつある。FRMCS(5Gベース)は、従来のGSM-R(2Gベース)に代わる国際標準として位置づけられ、安全かつ高信頼の運行を支える基盤となる。そして、これを実現する技術的裏付けとして、5Gのネットワーク機能やミッションクリティカル通信の仕組みが重要な役割を果たしている。現在は「FRMCS標準の技術」と「FRMCSを支える5G技術」という二つの技術の流れが同時進行しており、両者の組み合わせが今後の市場拡大を方向づけている。
 まず欧州高速鉄道が、規制的にも技術的にもFRMCS導入の先行事例となる。国境をまたぐ運行において相互運用性を担保する必要があるため、FRMCSは必須であり、導入は避けられない。これによりベンダは、FRMCS対応の5Gソリューションを実運用環境に投入し、その安定性や信頼性を示すことになる。この成功体験は、欧州以外の地域や他の鉄道事業者にとっても導入検討の重要な材料となり、FRMCS市場の波及を後押しするだろう。
 一方で、FRMCSの適用範囲に含まれない鉄道分野も、FRMCS対応の5Gソリューションに注目すべきだ。都市鉄道や地下鉄、貨物鉄道、さらには駅や車両基地の通信基盤などは、必ずしもFRMCSを導入する必要はない。しかし、FRMCSを支える5G技術はこれらの分野にも十分適用可能であり、標準準拠のPrivate 5Gネットワークとして活用が期待できる。つまり、市場は「FRMCS必須の領域」だけでなく、「FRMCS非必須だが5Gで置き換え可能な潜在領域」にまで広がる可能性がある。
 ただし、課題も存在する。鉄道通信インフラは一度導入すると15〜20年という長期にわたり運用されるため、ベンダ独自機能に依存すると容易に切り替えができず、ある程度のベンダロックインのリスクは発生しそうだ。鉄道事業者にとって、FRMCS標準を守る一方で、独自の高度化オプションとなる5G技術の差別化要素をどこまで許容するかは、難しい判断であり、信頼できるベンダやエコスシステムの選択が重要となるだろう。
 このように、鉄道向け5G市場は「標準と独自技術」「必須領域と潜在領域」の両面で発展していくことになりそうだ。FRMCSの先行導入によって確立される実績が、非FRMCS鉄道への応用を後押しし、市場は欧州から世界へ広がっていく。その過程でロックイン リスクをいかにマネージするか。このバランスをどう取るかが、鉄道通信の次の20年を左右すると言える。

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