Ericssonとサウジアラビア鉄道公社が、5Gを活用した鉄道運営で協業
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Ericssonは10月26日、サウジアラビア鉄道公社(SAR:Saudi Railway Company)と5G技術を活用した鉄道業務の高度化に向けた協業に関する覚書(MoU)を締結したと発表した。
Ericssonは「この協業は、Saudi Vision 2030の国家運輸・物流戦略に沿って、鉄道通信システムの近代化、乗客体験の向上、そして運輸部門におけるデジタル化の推進をめざすものだ。最先端の5Gインフラを鉄道網に導入することで、サウジアラビア王国の鉄道システムの信頼性と接続性を向上する」としている。
Ericssonは、高度な鉄道通信と運用能力を実現するために必要なソリューション、インフラ、そして技術サポートを提供することで、5Gと将来型鉄道モバイル通信システム(FRMCS)技術に関する専門知識を提供する。
このMoUに基づき、EricssonとSARは、信頼性とセキュリティの高い鉄道通信と鉄道サービスの向上を実現するために、ミッションクリティカルな5G機能を展開していく。また、FRMCSベースのユースケースや、乗客向け高速ブロードバンドソリューション“Gigabit train”の開発・試験も行う。
この協業には、鉄道分野における5Gアプリケーションの検証のためのテストラボまたはイノベーションセンターの設立、SARのチームをFRMCS/5G鉄道技術のスキルアップさせるためのトレーニングプログラムの作成、そしてSARの既存鉄道路線の一つにEricssonのソリューションを試験的に導入し、実際の環境下での統合と性能を評価することも含まれる。さらに、列車制御、スタッフ通信、リアルタイムビデオストリーミング、車内IoT接続といったユースケースも実現する。
Ericssonは「SARとの協業は、5G技術が鉄道業界にもたらす変革の可能性を浮き彫りにするものであり、サウジアラビアの鉄道通信システムの近代化に向けた重要な一歩となる。両社は協力して、王国の国家デジタルトランスフォーメーション目標を支える、コネクテッドで効率的な鉄道ネットワークの構築に向けた道筋を切り拓いていく」と説明している。
編集部備考
■5G時代の鉄道通信を象徴するキーワードの一つが「FRMCS(Future Railway Mobile Communication System)」だ。欧州では既にGSM-Rの後継として標準化が進み、UIC(国際鉄道連合)が中心となって自動運転(ATO)、高密度運行、運行監視のリアルタイム化を視野に入れた実証が始まっている。こうした動きが先行する中で、今回Ericssonとサウジアラビア鉄道公社(SAR)が合意した「FRMCSベースのユースケース開発・試験」は、中東地域が欧州のFRMCS圏と連続する鉄道通信市場として浮上しつつあることを示すものと言える。
サウジアラビアは「Vision 2030」に掲げる国家戦略のもとで、鉄道を軸とした物流・観光・都市間輸送の高度化を推進している。その中心に据えられているのが、港湾・空港・陸路を一体運用する「National Transport and Logistics Strategy」であり、鉄道網の拡充とデジタル化が物流拠点化の基盤とされている。こうした国家戦略の枠組みの中で、鉄道通信を5G/FRMCSレベルに引き上げることは、単なる運行通信の更新ではなく、デジタル経済の動脈を整える取り組みにも感じられる。これらは、高速・低遅延通信が列車制御、貨物トラッキング、旅客サービスを統合し、交通・物流の統合制御も可能にするからだ。
さらに地政学的観点からも、この取り組みは戦略的意義を持つ。サウジアラビアを中心とする湾岸地域は、欧州とアジアを結ぶ国際鉄道網「陸上版シルクロード」の中核に位置しており、今後FRMCSが欧州発の標準として広がる中で、中東地域における相互接続性や運用互換性を確保することは不可欠になる。今回の実証は、欧州FRMCS圏と中東鉄道網を結ぶ通信インターフェースの検証としても意味を持つだろう。
通信業界にとっては、鉄道というミッションクリティカル領域で5G技術を産業基盤として定着させる重要な試金石であり、鉄道業界にとっては、運行安全とデータ利活用を両立する新たな通信アーキテクチャの実証機会となる。サウジアラビアのように国家インフラの刷新を国家戦略に位置づける市場は、標準技術を社会実装に移す最適な実験場と言えるだろう。今回の協業は、FRMCSが欧州発の鉄道通信標準から、グローバルなモビリティ基盤へと拡張していく今後を占う上でも、重要な事例の一つとなる。
また中東のモバイル5Gインフラ市場では、中国系と北欧系のベンダが並立する構図が見られる。現状は中国勢が優勢だが、鉄道・防災・エネルギーといった社会インフラ分野に5Gが浸透するにつれ、北欧勢がグリーン技術やFRMCSの安全性といった強みを発揮する局面が増えるだろう。欧州発の5G産業応用の象徴であるFRMCSがサウジアラビアで実証されることは、中東における5G勢力図のバランス変化を読み解く上でも注目していきたい。





