Nokia、ST Engineering、First One Systemsが、バンコクにおけるBEMの鉄道通信ネットワーク構築で提携し、安全性とサービス向上を実現
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Nokiaは10月22日(バンコク)、ST EngineeringおよびFirst One Systemsと提携し、Bangkok Expressway and Metro(以下、BEM)のMRT(Mass Rapid Transit:地下鉄や高架鉄道を使う都市の公共輸送システム)であるオレンジライン(編集部注:バンコクの地下鉄路線)に、IP/MPLSベースのミッションクリティカルなバックボーン伝送ネットワークを導入すると発表した。
オレンジラインは先行開業区間と次期延伸区間に分けてプロジェクトを進めており、2030年の完了を予定している。
Nokiaは「当社のIP/MPLSソリューションを導入することで、BEMは大容量、低遅延、信頼性とセキュリティに優れた伝送バックボーンを構築し、CCTV監視、構内放送、旅客情報表示、無線通信、監視制御・データ収集(SCADA)などを含む、鉄道におけるミッションクリティカルな安全制御系アプリケーションと一般サービス系アプリケーションの双方を、包括的にサポートできる」と説明している。
First One SystemsのCEOであるTerdsak Kijjatikankun氏は「NokiaやST Engineeringと共に、この画期的なプロジェクトに参加できることを光栄に思っている。バンコクにおけるより安全でスマートな鉄道輸送というBEMのビジョンを支えるため、当社の地域における専門知識と強力な統合能力を提供する。当社の地域情勢に対する深い理解、Nokiaの実績ある技術、そしてST Engineeringの優れたシステム統合能力を組み合わせることで、このミッションクリティカルな通信システムが最高の国際基準を満たすことを確信している」とコメントを出している。
オレンジラインは全区間が完成することで全長約35.9kmとなる予定であり、バンコクの東西を結び、地下鉄と高架交通システムの両方を備える。Nokiaは「世界中の鉄道システムは、運用効率、信頼性、安全性の向上をめざしてデジタルトランスフォーメーションを進めている」と説明している。
Nokiaのアジア太平洋地域 ネットワークインフラストラクチャ エンタープライズセールス担当ヴァイスプレジデントであるStuart Hendry氏は「複雑で大規模な鉄道プロジェクトには、深い技術的専門知識だけでなく、パートナーとのシームレスな連携が不可欠だ。ST EngineeringおよびFirst One Systemsとの協業において、Nokiaは卓越したエンジニアリング力とソリューション リーダーシップを発揮した。これにより、BEMが当社のソリューションを導入して重要な本プロジェクトを推進する判断に至った。当社は、世界中で同様の鉄道プロジェクトを遂行してきた豊富な実績と知見を活かし、課題を予測し、世界クラスのソリューションを提供することができる」とコメントを出している。
本プロジェクトの一環として、Nokiaは10Gと40Gの2つのBTNを開発する。それぞれが駅とオペレーション・コントロール・センター(OCC)間の音声、データ、ビデオ伝送に対応するネットワーク速度をサポートする。
Nokiaのソリューションには、Nokia 7250インターコネクトルータ、Nokia 7210サービスアクセスシステム、Nokiaのネットワークサービス プラットフォームおよびプロフェッショナル サービスが含まれる。このソリューションは、BEMの運用・保守のシンプル化を支援するとともに、ネットワークパフォーマンスのリアルタイム可視化を実現する。
編集部備考
■バンコク都市圏の交通を支えるBEMが、Nokia、ST Engineering、First One Systemsと共に通信ネットワークを刷新する背景には、鉄道運行の「安全」「効率」「サービス品質」を同時に高めるという明確な経営課題がある。信号、列車制御、監視カメラ、旅客案内など、これまで個別に構築されてきた通信システムを共通基盤に統合することは、単なる技術刷新ではなく、運行体制そのものの再構築を意味する。特に、ミッションクリティカルな安全制御系から一般サービス系アプリケーションまでを一体的にサポートできるネットワークは、鉄道事業の安定運用を支える中核要素となる。
その目的は、事故を防ぐための安全冗長性を確保しつつ、障害発生時に運行を止めず迅速に復旧できる仕組みを備えることにある。近年、鉄道運行は輸送需要の増大と共に、設備老朽化やオペレーションの複雑化に直面しており、通信断や遅延が安全運行に支障をきたすため、本件で実施されたようなIP/MPLSを基盤とした冗長化設計や、高可用性を確保するネットワーク制御技術が期待されている。今回の導入にあたり、2030年の完成に向けNokiaのMPLSベースのミッションクリティカル通信ソリューションが採用され、信号・監視・列車制御・旅客案内などの多様なアプリケーションが共通基盤上で安定的に動作する構成が採られている。この一元化によって、設備更新や運用監視の効率化、さらには障害時の迅速な切り替えも可能となる。
鉄道運行という閉じた領域であっても、今後は都市デジタル基盤の一部として再定義されつつある。そこで次世代通信ネットワークの知見や設計ノウハウを活用していくためには、鉄道分野と通信分野の産業横断的なパートナーシップがますます重要になっていくだろう。特に5G、Wi-Fi 6、さらには将来的なTSN(Time-Sensitive Networking)やIOWN技術は鉄道分野との親和性が高いことから、日本を含む世界各地で様々なトライアルが進んでいる。
今回のニュースは、通信技術が鉄道にもたらすのはデータの高速化だけではなく、“社会の安全を支える信頼の設計”であることを改めて示した事例といえる。これは鉄道通信の刷新にとどまらず、「安全・快適・効率」を統合する社会インフラの将来像を先取りするものであり、鉄道の役割を再定義する意義を示している。鉄道事業者や通信事業者・ベンダにとって、こうした産業横断的なパートナーシップの成功事例が増えることは、将来を見据えた事業判断の参考となるだろう。





