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CiscoとKAUSTが、サウジアラビアにおけるAI研究、開発、人材育成を促進する画期的なAI研究所を設立

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 Ciscoとアブドラ国王科学技術大学(KAUST)は10月29日、最先端AI研究所の設立により、戦略的提携を大幅に拡大することを発表した。

 この発表には、サウジアラビアのエネルギー大臣でありKAUST理事会会長でもあるAbdulaziz bin Salman bin Abdulaziz王子も臨席した。
 Ciscoは「この取り組みは、Ciscoのネットワーク、サイバーセキュリティ、クラウド規模の人工知能インフラにおける世界的なリーダーシップと、KAUSTの世界クラスの学術研究、最先端の施設、そして教育における重要な役割を融合させるものだ。王子殿下のご臨席は、サウジアラビアの研究、イノベーション、そして人材育成における展望を支援するという、この取り組みの国家的意義を強調するものだ」としている。

 サウジアラビアのKAUSTキャンパスに設置されるこの研究所は、AIの研究、開発、教育を推進することに専念し、サウジアラビアにおけるイノベーションの促進と高度なスキルを持つAI人材の育成における重要なマイルストーンとなる。
 Ciscoは「当社とサウジアラビアの20年以上にわたる協力関係、そしてデジタルトランスフォーメーションに向けた共通のビジョンに基づき、KAUSTに新たに設立されるAI研究所は、Vision 2030に沿って、サウジアラビアにおけるAIイノベーションの礎となることをめざしている」と説明している。

 KAUSTの学長であるEdward Byrne卿は「Ciscoとの長年にわたるパートナーシップは、KAUSTのビジョン実現に大きく貢献した。設立以来、私たちはデジタルファーストのアプローチを先駆的に推進し、先進技術を活用して、キャンパスコミュニティの繋がり、協力、そして研究のあり方を変革してきた。新しいAI研究所は、サウジアラビアのVision 2030と直接的に連携し、将来の仕事に必要な重要なスキルを学生に身につけさせる上で極めて重要であり、科学技術教育と研究における私たちのリーダーシップを強化するものだ」とコメントを出している。

 Ciscoの会長 兼 CEOであるChuck Robbins氏は「AIの可能性を最大限に引き出すには、急速なイノベーションのペースに対応できるよう、従業員のスキルアップが不可欠だ」とし、「AIは経済成長の画期的な機会を創出し、サウジアラビアのVision 2030を加速させる力を持っている。KAUSTに設立されたCisco AI研究所は、サウジアラビア王国との25年にわたるパートナーシップを基盤とし、サウジアラビアにおいて誰もがAIの無限の可能性を活用できるようにするという共通のビジョンを掲げている」とコメントを出している。

 研究所の活動は、AIネイティブ通信システム、Industry 5.0(インテリジェントファクトリーを含む)、自律移動システム、インテリジェント交通システムなどの応用研究に重点を置く。また、水、エネルギー、食料、医療といった重要な公共利益分野に対応するAIドリブンのユースケースにも重点的に取り組んでいく。Ciscoは、同研究所への貢献として、Cisco AI PODを含む最新技術の寄贈を行う。これは、モジュール式の事前検証済みAI インフラストラクチャ ソリューションであり、すぐに使えるAI「ファクトリー」として、複雑なAIワークロードを実行するデータセンタの構築プロセスを効率化し、イノベーションをより迅速かつ安全に、大規模に実現することを可能にする。

 この取り組みは、Ciscoが最近発表したCisco Networking Academyを通じて、サウジアラビアで5年間にわたり50万人の学習者にAI、サイバーセキュリティ、データサイエンス、プログラミングを専門とする無料のデジタルスキルアップを提供するというコミットメントに基づき、現地のAI人材の育成もめざしている。これは、サウジアラビアで48万人以上の学習者を育成し、そのうち36%が女性であるというアカデミーの確固たる実績に基づくものだ。

 AI・インスティテュートは、Ciscoのカントリー デジタル アクセラレーション(CDA)プログラムの一環であり、2016年からサウジアラビアのデジタルトランスフォーメーションを牽引し、医療、教育、スマートシティ、政府サービスなどの重要な分野で23のインパクトのあるプロジェクトを実施してきた。同研究所は、KAUSTとCiscoの代表者で構成される共同理事会によって監督され、戦略的な方向性と共同監督を提供する。

編集部備考

 近年のAI研究は、モデル性能の競争から「データアクセスと処理効率の最適化」へと重心を移しつつある。巨大な学習モデルを支える計算リソースは、もはやデータセンタ内部だけでは完結せず、通信インフラそのものがAI処理の一部として再設計される段階に入った。サウジアラビアでCiscoとKAUSTが立ち上げたAI・インスティテュート(産官学連携によるAIインフラ研究拠点)からは、同国がその潮流を国家戦略として重視している姿勢がうかがえる。
 Ciscoはこれまでも、SDNやIntent-Based Networkingなど、通信の自動化と最適化を支える基盤技術を牽引してきた。その延長線上で現在は、ネットワークをAIで自律制御する「AI-native Network」構想を推進している。トラフィックの変動をリアルタイムに解析し、AIが最適経路を判断して負荷分散を行う。この設計思想は、AI研究で不可欠な分散学習やエッジ推論の効率を飛躍的に高めるものであり、ネットワークが“学習基盤の一部”として進化する未来を示している。
 サウジアラビアは「Vision 2030」のもと、AIを石油に次ぐ国家資産と位置づけ、研究・倫理・データ主権の三本柱を整備している。KAUSTを中心とする研究ネットワークは、海外技術の導入だけではなく、自国データを自国内で処理する体制を志向している点が特徴だ。これは欧米のクラウド中心型とも、中国の国家集中型AI戦略とも異なる、中東独自の“分散型・協調型モデル”となる。Ciscoの参画は、こうした地域的価値観に即したAI基盤の共創を意味しており、技術供与だけではなく、文化・政策を踏まえたインフラ共設と捉えることができる。
 AIを動かすのは演算能力だけではなく、データを流通させるネットワークも含まれる。CiscoとKAUSTの連携は、AI研究の重心が「演算」から「通信」へと広がる兆候であり、同時に中東が自らの価値観と主権のもとにAI基盤を築く試みを象徴する。サウジアラビア発のAIエコシステムが成熟すれば、米・中・欧とは異なる“極”として、持続可能で倫理的なAI研究の新モデルを提示する可能性がある。AIが都市運営・産業制御を横断的に結びつける時代、AI×ネットワーク融合は、その未来を支える技術的要となりつつある。本提携は、その技術的到達点国家スケールで実証する場として注目していきたい。