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Nscaleが、グローバルなデータセンタの提供を加速させるためにFuture-techを買収

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 Nscaleは12月15日(ロンドン)、欧州のデータセンタ エンジニアリング コンサルティング企業であるFuture-techの買収を発表した。

 Nscaleは「これにより、欧州および北米におけるAI対応インフラの提供拡大が継続される」と説明している。

‍ Future-techは豊富な経験と、設計者、エンジニア、コンサルタント、プロジェクトマネージャー、技術スペシャリスト、オペレーターなど、約60名からなる優秀なチームをNscaleにもたらす。ヨーロッパに拠点を置き、専門的なデータセンタ設計、構築、管理サービスで知られるFuture-techは、複雑なインフラ要件を、回復力に優れ、安全で高性能な施設へと変革することで高い評価を得ている。

 Future-techのスキルセットをNscaleに取り込むことで、AIインフラの需要があらゆる地域で高まっている今、Nscaleはコンセプト設計から導入まで、グローバルな実行をさらに迅速に進めることができる。

‍  NscaleのCEOであるJosh Payne氏は「Future-techは数十年にわたりデータセンタの設計・構築に携わり、お客様の真のエンジニアリング課題を解決してきた」とし、「彼らのチームは、高品質なサービスを迅速かつ大規模に提供する能力に感銘を受けている。その専門知識をNscaleに取り込むことで、世界中のお客様のために、より迅速に対応できるようになる」とコメントを出している。

‍ 今回の買収は、Nscaleが今年達成した数々の大きな取り組みに続くものだ。AIインフラストラクチャ担当プレジデントにNidhi Chappell氏を迎え入れ、経営陣を拡大したほか、Verne社との提携によりアイスランドへの欧州進出を発表し、さらに欧州全域で約20万台のNVIDIA GB300 GPUを展開する計画を通じてMicrosoftとの関係を深めた。また、Nscaleは欧州史上最大となる11億ドルのシリーズB資金調達ラウンドを完了した。

Future-techのCEOであるJames Wilman氏は「Nscaleへの参加は、Future-techにとって自然な流れだ。AIがデータセンタの要件をいかに急速に変化させているかを私たちは目の当たりにしており、Nscaleはその波の先を行く企業の一つだ。AIインフラにおいて世界的な大きな変化を遂げている企業の一員になれるのは、非常にエキサイティングなことだ。当社の専門的なエンジニアリングとデリバリー能力と、Nscaleの規模と野心を融合させることで、今後数年間、両社の共通のお客様にさらに多くのサービスを提供できるだろう」とコメントを出している。

‍ Future-techは今後数ヶ月以内にNscaleへの統合を開始し、既存の顧客への継続性を維持しながら、設計、プロジェクトデリバリー、運用の各チームを統合することに注力する。

編集部備考

■NscaleによるFuture-techの買収は、事業拡大や人材獲得として捉えるだけでなく、AIインフラ市場における競争軸の変化を示す動きとして読むべきだろう。今回の買収が示唆しているのは、AIデータセンタ事業において「計算資源を保有すること」だけでなく、「設計と実装をどこまで自社で最適化できるか」も重要になりつつあるという点だ。
 AI需要の拡大に伴い、GPU、電力、冷却、立地といった要素は複雑に絡み合い、しかも状況は短期間で変化する。従来であれば、論理設計(計算リソース構成)と物理設計(建屋・電力インフラ)はある程度分業が可能だった。しかし現在では、GPU世代の進化や消費電力の増大、冷却方式の多様化によって、設計変更は例外ではなく常態となっている。このような環境下では、外部に依存した建設コンサルティング体制は、意思決定の遅延や設計の硬直性というリスクを抱えやすい。
 Future-techの知見を取り込むことにより、Nscaleは「速く作る」だけでなく、「速く作り直せる」体制も内製化したと見ることができる。構想段階から建設・実装までを一気通貫で最適化できることは、AIインフラにおける不確実性を前提とした事業戦略において大きな意味を持つ。これは、設計変更に伴う摩擦コストを内部で吸収することで効率化する戦略とも言える。
 また、両社が扱う領域の文化の違いにも注目したい。Nscaleが持つスケール志向やスピード感と、建設コンサルティング企業が培ってきた安全性重視・長期視点の文化は、一見すると対照的だ。しかしAIインフラという分野では、この文化的差異こそが融合の価値を生む。短期的な需要変動と、数十年単位で使われる物理インフラを同時に扱うためには、両者の視点を内包する組織が必要だからだ。こうしたシナジー効果は、数十年にわたりデータセンタの設計・構築に携わってきたFuture-techなら、より洗練された形で表れるだろう。
 競合各社もGPU確保やエコシステム強化を進めており、競争環境は一層厳しさを増している。その中で建設や電力といった物理層が新たなボトルネックになりつつある点を踏まえると、今回の買収はその制約を先回りして解消しようとする一手とも読める。
 今後、AIインフラ構築の知見がNscale内部に集約されていけば、設計テンプレートの再利用や拡張・移設ノウハウの蓄積といった形で、競争力はさらに強化されるだろう。この動きは、AIインフラ領域におけるM&Aにとどまらず、より広くはエコシステムの在り方においても、「資産獲得」に「設計思想との連携強化」が加わりつつあることを示唆している。