EricssonとJazzが、パキスタンにおけるデジタルインクルージョンを含むネットワークインフラ強化のため、戦略的なマイクロ波フレーム契約を締結
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Ericssonは12月11日、パキスタンのデジタル通信事業者Jazz(VEONグループ)と、Jazzのネットワークバックボーンを強化するための戦略的なマイクロ波フレーム契約を締結したと発表した。
Ericssonは「これは、JazzのServiceCoビジョンである、高度なデジタル体験と全国規模の接続性の提供に沿ったものだ」とし、「Ericsson Transportポートフォリオに含まれるEricssonの最先端MINI-LINKソリューションを活用したマイクロウェーブフレーム契約は、Jazzのネットワーク容量拡大、ネットワーク信頼性の向上、そしてユーザーエクスペリエンスの向上を支援し、“Digital Pakistan”政策の目標達成に貢献する」としている。
今回の契約に基づき、Ericssonは今後5年間にわたり、JazzにMINI-LINKソリューションとサービスを提供し、拡張性と効率的なネットワーク近代化を実現する。また、この導入により、Jazzのインフラは将来の4G拡張と5G技術へのシームレスな移行に対応できるようになり、都市部とサービスが行き届いていないルーラルエリアの両方で、数百万人の顧客が高速通信、接続性の向上、そして高度なデジタルソリューションの恩恵を受けることができる。
MINI-LINK 6355をはじめとするEricssonの最新マイクロ波ソリューションは、大容量、マルチバンド機能、そして様々な周波数の組み合わせや構成に対応できるコンパクトな設計を特徴としている。これらのソリューションは、現代のネットワークに柔軟性、パフォーマンス向上、そして拡張性を提供し、高性能バックホールのニーズに応えるとともに、多様な環境への効率的な導入を実現する。
また、この導入により、光ファイバの敷設が困難な遠隔地やルーラルエリアへの接続を拡大することでデジタルインクルージョンを実現し、eラーニング、遠隔医療、フィンテック、eコマースといったデジタルサービスへの信頼性の高いアクセスを確保する。さらに、信頼性の高い通信インフラを提供することで、中小企業、スタートアップ企業、デジタルトレードを支援し、パキスタンの経済成長にも貢献する。
JazzのCTOであるKhalid Shehzad氏は「Ericssonとの今回のマイクロ波フレーム契約は、Jazzのネットワークバックボーンを強化し、ServiceCoビジョンを推進する上で重要な一歩だ。Ericssonの最新マイクロ波ソリューションを統合することで、容量と信頼性を向上させ、パキスタン全土のコミュニティにおけるデジタルアクセスを拡大し、教育、医療、金融、商業など、あらゆる分野でより良い体験とより多くの機会を提供する」とコメントを出している。
Ericsson PakistanのプレジデントであるAamir Ahsan Khan氏は「Jazzとの最新のパートナーシップは、デジタルトランスフォーメーションとイノベーションに注力してきた数十年にわたる関係の上に築かれたものだ。今回のマイクロ波フレーム契約は、パキスタンの社会経済とデジタルの発展に貢献する、拡張性と耐障害性を備え、将来を見据えたネットワークを実現するという、両社の共通のビジョンを反映している。高度な接続ソリューションを通じて、何百万もの人々と企業を支援するというJazzの使命に貢献できることを光栄に思っている」とコメントを出している。
EricssonとJazzは20年以上にわたり強固なパートナーシップを築き上げ、パキスタンの通信分野におけるイノベーションと卓越性への共通のコミットメントを象徴する画期的な協業を数多く実現してきた。両社は共に、パキスタンの通信インフラの強化、デジタル化の推進、そしてEricsson Educate programを通じてデジタルスキルの研鑽に取り組んできた。
編集部備考
■デジタルインクルージョンという概念が内包する課題の重みは、近年大きく変化している。従来は情報取得や娯楽へのアクセス格差として語られることが多かったが、AIの社会実装が進む現在、それは医療、教育、行政、産業活動への参加可否を左右する問題へと質的に転換しつつある。通信インフラの未整備は、単なる利便性の差ではなく、社会的機会の喪失に直結するリスクとなっている。
この視点から見ると、パキスタンのように広大な国土と多様な地形を抱える国において、光ファイバ網を前提としたネットワーク整備が常に最適解となるわけではない。山岳地帯や人口密度の低いルーラルエリアでは、建設コスト、工期、保守性といった物理的・経済的制約が依然として大きい。技術的に敷設可能であることと、長期的に維持可能なインフラであることの間には、現実的な隔たりが存在する。
こうした制約条件を踏まえると、マイクロ波伝送は改めて評価されるべき選択肢だ。帯域や環境条件といった制限はあるものの、迅速な展開性、柔軟な設計、総所有コストの低さという特性は、ルーラルエリアにおいて極めて現実的な解となり得る。光、セルラー、衛星、マイクロ波を単純に優劣で語るのではなく、地理条件と採算性を含めたレイヤ構造の中で最適配置を考えることが重要だ。
EricssonとJazzによる今回のフレーム契約は、そうした現実的なネットワーク構築思想を体現している。また、単発の設備導入ではなく、5年という中期スパンの契約形態を採っている点にも注目したい。これは短期的なROI最大化よりも、段階的なカバレッジ拡大と運用定着を重視した戦略と読み取れる。キャリアにとっては投資リスクの平準化につながり、ベンダにとっては実運用を通じた知見の蓄積という価値をもたらす。
一方で、マイクロ波を巡っては、ベンダ視点とキャリアの運用現場との間に非対称性が存在する。ベンダにとってマイクロ波は数ある標準的な伝送手段の一つであり、差別化の焦点は容量、可用性、運用自動化といった技術的要素にある。しかし、光やセルラー中心のネットワーク運用に慣れたキャリアの現場では、マイクロ波は依然として「補完的」「例外的」な存在として認識されがちだ。そこで本件のように、中長期契約を通じて運用ノウハウの共有を進めていくことは、マイクロ波を効率良く「標準運用」に近づけていくメリットもある。
そして将来を見据えて重要なのは、キャリアにとってデジタルインクルージョンはインフラ整備そのもので完結しないという点だ。接続性が確保された先に、どのようなサービスを地域に展開できるかが次の焦点となる。通信提供にとどまらず、金融、農業、ヘルスケアといった分野へのサービス拡充が視野に入る。一方、ベンダにとっては、実運用の知見を得ることで、マイクロ波のノウハウが更に蓄積されるので、他国・他地域への展開におけるデジタルインクルージョン解決に寄与する精度が高まる。これは当事者だけでなく、それを参考にする事業者、機器ベンダ、部品サプライヤにとっても、事業戦略や開発の方向性を考える上で役立つものだ。
今回のEricssonとJazzの取り組みは、マイクロ波を選択肢として組み込むことが、AI時代における社会基盤への接続を実現するための現実的かつ構造的な最適化に役立つ事例として、今後の展開を含めて注目したい。





