NokiaとRohde & Schwarzが、AI搭載6G受信機で提携し、コスト削減と市場投入期間の短縮を実現
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Nokiaは11月3日(エスポー)、AI技術を活用した6G無線受信機を開発し、Rohde & Schwarzと協業して試験に成功したと発表した。
Nokiaは「AI技術によりワイヤレス信号の歪みを特定して補正し、6G アップリンク カバレッジを大幅に改善する。この受信機は、6Gネットワーク展開における最大の課題の一つである、6Gで想定される高周波帯特有のカバレッジ制約を克服する」としている。
この受信機の機械学習機能は、アップリンク距離を大幅に向上させ、将来の6Gネットワークのカバレッジを強化する。これにより、通信事業者は既設の5Gネットワーク上に6Gを展開し、導入コストを削減し、市場投入までの時間を短縮することができる。
Nokia Bell Labsがこの受信機を開発し、Rohde & Schwarzの6G試験装置と手法を用いて検証した。両社は、2025年11月6日に開催されるブルックリン6Gサミットで、概念実証受信機を発表する予定だ。
Nokia Bell Labsのコアリサーチ担当プレジデントであるPeter Vetter氏は「将来の6G展開が直面する主要な課題の一つは、6Gの高周波スペクトルにおける固有のカバレッジ制限だ。通常、この問題を克服するには、より多くのセルサイトを備えた高密度ネットワークを構築する必要がる。しかし、AI技術により6G受信機のカバレッジを拡大することで、既設の5Gインフラ上に6Gインフラを構築するのに役立つ」とコメントを出している。
Nokia Bell LabsとRohde & Schwarzは、この新しいAI受信機を実環境下でテストし、現在の受信機技術と比較してアップリンク距離を10%から25%向上させることに成功した。テストベッドは、アップリンク信号生成とチャネルエミュレーションに使用されるR&S SMW200Aベクトル信号発生器で構成されている。受信側では、Rohde & Schwarzの新製品であるFSWXシグナル・スペクトラム・アナライザが、NokiaのAI受信機のAI推論を実行するために採用されている。このAI技術は、カバレッジの拡大に加えて、スループットと電力効率の向上も実証しており、6G時代にもたらすメリットを倍増させる。
Rohde & Schwarzのスペクトラム&ネットワークアナライザ、EMC&アンテナテスト担当ヴァイスプレジデントであるMichael Fischlein氏は「Rohde & Schwarzは、AIドリブン6G受信機技術のパイオニアであるNokiaと協業できることを大変嬉しく思っている。90年以上にわたる計測・試験分野での経験を活かし、次世代ワイヤレス技術の開発を支援する独自の立場を確立している。標準化前の重要な段階において、AIアルゴリズムの評価と改良を行うことができる。このパートナーシップは、当社の長年にわたるイノベーションの歴史を基盤とし、6Gの未来を形作るという当社のコミットメントを示すものだ」とコメントを出している。
編集部備考
■今回のNokiaとRohde & Schwarzの協業発表は、6G開発における一つの分水嶺を示している。6Gの高周波スペクトル(特にサブテラヘルツ帯)は、広帯域化という利点を持つ一方で、電波の指向性が5Gよりも強くなることから、伝搬条件が厳しい環境では減衰・遮蔽・浸透性といった課題が避けられない。こうした伝搬特性の違いにより、既設の5Gインフラ上に6Gインフラを構築することは難しいとされてきたが、それを解決する技術となるのが今回発表されたAI搭載6G受信機だ。ここでは、その実現の難しさと意義を考察したい。
 これまで無線通信性能の向上は、主に送信出力やアンテナ構成の最適化によって図られてきたが、高周波帯特有のカバレッジ制約を根本から覆すことは難しかった。こうした背景のもと、機械学習やディープラーニングを導入し、復調やチャネル推定を最適化する研究は数多く存在したものの、実環境での性能保証や検証体制の整備が難しく、実機レベルでの適用はほとんど進んでいなかった。AI受信機の課題は、単にアルゴリズムの精度向上にとどまらず、学習データの生成や再現性、処理遅延など、通信システム全体との整合性にも及んでいた。
 NokiaはモバイルインフラにおけるAI活用に積極的であり、例えば5GのベースバンドSoC「ReefShark」にAIアクセラレーションを組み込み、モバイルのトラフィック制御やビームフォーミング最適化などの領域でAI活用を実用化してきた実績が有る。そして今回、実際の無線評価環境で、AIベースの6G受信技術を実証する段階に到達した。Rohde & Schwarzが持つ信号解析・計測インフラとの連携によって、AIモデルの学習・評価を高精度かつ再現性をもって行えるようになったことは、研究室レベルの実験から商用開発プロセスへの橋渡しを可能にする大きな前進といえる。これにより、受信側のAI処理によって「物理的なカバレッジ限界を補償する」方向性が、理論ではなく実装上の選択肢として前進した。
 AIによる信号補償・復調支援は、ノイズ環境やマルチパス、ハードウェア非理想性などの非線形要素を学習的に補正できる点で、従来のモデルベース設計を超えるポテンシャルを持つ。もしこのアプローチが6G受信機に標準的に組み込まれるようになれば、基地局配置やRFフロントエンド設計の制約を緩和し、ネットワーク全体の展開コスト削減にもつながる。
 今回の成果は単なる“AI活用事例”ではなく、6G時代の無線通信設計における「パラダイムの転換点」を意味し、モバイル事業者の6G展開を強力に支える技術の実現可能性を業界に先駆けて示した。こうした先端研究の積み重ねは、6Gサービスや6Gデバイス開発のロードマップに現実味を持たせていく要素として、今後も注目していきたい。








