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MasOrangeが、AIドリブンの自動化プラットフォームとrAppsによる自律ネットワークの推進で、Ericssonを選択

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 Ericssonは12月10日、MasOrangeがサービス管理およびオーケストレーション(SMO)とAIを活用したrAppsのオープンエコシステムを含むEricsson Intelligent Automation Platform(EIAP)を導入し、RANの自動最適化とエネルギー効率の向上を実現したと発表した。

 Ericssonは「これにより、MasOrangeのユーザーエクスペリエンスが向上した」としている。

 同プロジェクトでは、既存のEricsson Network Management System(ENM)を介してEIAPがMasOrangeの商用ネットワークに統合され、以下のrAppsが導入された。

Ericsson Cell Anomaly Detector:サービスプロバイダがネットワークパフォーマンスの問題をプロアクティブかつ自動的に検出できるようにすることで、ますます複雑化するネットワークの管理に必要な時間と専門知識を大幅に削減する。

Future Connections Nix RAN Energy Saver:RANの省エネ機能を動的に構成、監視、最適化することで、ネットワークのエネルギー効率と持続可能性を最大化するための取り組みをさらに進め、サービスパフォーマンスへの影響を回避する。

 Ericssonのコグニティブ・ネットワーク・ソリューション責任者であるJean-Christophe Laneri氏は「rAppはネットワーク管理の未来であり、インテリジェントな自動化により、サービスプロバイダはより迅速かつ正確に優れたサービス品質を提供できるようになる。MasOrangeとの緊密な連携により、当社のソリューションを実際の環境に合わせてカスタマイズし、業界全体における自律型ネットワークの普及を促進する貴重な知見を得ることができる」とコメントを出している。

 この取り組みにより、MasOrangeは最新のAIモデルとネットワーク最適化の専門知識を、Ericssonの先進的なEIAPおよびrApp機能と組み合わせることができる。この共同の取り組みは、自律型インテリジェントネットワークの実現を加速させ、通信事業者がAIを活用した自動化を活用してパフォーマンス、信頼性、効率性を向上させる方法を実証する。

 SMOプラットフォームは、マルチベンダ相互運用性をサポートする標準化されたアーキテクチャとインターフェースを提供することで、Open RANエコシステムにおけるオープン性の実現に重要な役割を果たす。SMOフレームワークを通じて、様々なネットワーク機能をシームレスに統合できるため、通信事業者は複数ベンダの多様なrAppを導入できる。これらのrAppsは、高度な自動化および最適化機能を実現する。

 SMOとrAppsアプローチによって促進されるオープン性は、イノベーションと柔軟性を促進するだけでなく、事業者がヘテロジニアス ネットワーク環境を効率的に管理し、現代のモバイルネットワークの進化するニーズに対応しながら、アジャイル性とコスト効率を向上させるのに役立つ。

 EricssonとMasOrangeは、長年にわたるパートナーシップに基づく長期的な関係を築いており、スペインにおけるMasOrangeのネットワーク進化を推進してきた。このパートナーシップは、同国における初期の5G展開から、ヨーロッパ最大級の規模を誇るOpen RAN対応5G SAネットワークの構築まで、その発展を牽引してきた。
 Ericssonは「このプロジェクトは、2024年に発表された高度にプログラマブルなネットワークに向けた共同作業をさらに前進させ、SMOレイヤを強化することで、自動化、オープン性、そしてサービスのアジャイル性を向上させる。これは、MasOrangeの次世代アーキテクチャの基盤を強化し、両パートナーが大規模かつ完全にプログラマブルな機能を提供することに一歩近づくものだ」と説明している。

編集部備考

■今回のMasOrangeによるEricssonのSMOとrAppsの同時導入は、ネットワーク自律化に向かう欧州事業者のアーキテクチャ戦略を象徴する動きとして注目される。従来、欧州では投資回収圧力の強さから、RAN自動化(rApps)といった効果が見えやすい局所導入が先行し、ネットワーク全体の構成管理を司る SMO の刷新は後回しになりがちだった。しかし、両者を「セット」で導入する今回の判断は、RAN最適化からサービスオーケストレーションまで一気通貫で自動化を進める“全域型アプローチ”の採用を意味し、OPEX 削減や省電力化の効果を最大化するには両輪を揃える必要があるという認識が定着してきたことを示している。これは、商用ネットワーク運用において“分散知能と集中制御をどのように共存させるか”という、今後の自律ネットワーク設計に不可欠なテーマへの先進的なチャレンジと言える。
 それを支えるEricssonは、SMOとrAppsという異なる階層をフルスタックで提供できる数少ないベンダだ。SMOが担うのは、RANを含むコグニティブ ネットワーク全体の構成管理・オーケストレーションを司る「上位の統合制御レイヤ」であり、一方の rApp は、セル単位の最適化やエネルギー効率向上などを実現する「ローカルなインテリジェンス・レイヤ」だ。両者が階層の異なる領域をカバーしつつ、連携して最適化ループを形成する点にこそ本質的な価値がある。さらにEricssonのSMOとrAppsはともにオープンインターフェースを備え、業界で取り組みが進められているマルチベンダ環境への拡張性も確保している。
 もう一つ重要なのは、AN (Autonomous Network) Level 4が前提とする「多層インテリジェンスの連携」と「閉ループ自動化の基盤」を商用ネットワークに実装した点だ。AN Level 4がめざす世界では、ネットワークが膨大な運用データからリアルタイムに学習し、エネルギー制御やパフォーマンス最適化を自律的に遂行する。その前段階として不可欠なのが、今回のニュースのようなSMOによる統合制御とrAppによる局所最適化が同一アーキテクチャ上で連動する構造であり、MasOrangeがAN Level 4に向けた基盤形成を確実に押し進めたことがわかる。
 欧州キャリアの間で自律化への関心が高まる中、今回の発表は“完全自律化への布石”であると同時に、“業界のオープン化の成熟を見据えたアーキテクチャ再設計”として位置づけられる。既存ネットワークが複雑化するほど、管理・最適化の自動化は運用効率と品質向上の両面で不可欠となる。MasOrangeの今回の決断は、商用運用に耐える実装レイヤから自律化を積み上げていくという、極めて実践的かつ将来指向の一手となるだろう。