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Sivers Semiconductorsが、欧州宇宙機関から次世代衛星通信ビームフォーミングICの契約を受注

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 Sivers Semiconductorsは12月11日(スウェーデン キスタ)、欧州宇宙機関(ESA:European Space Agency)から新たな開発プログラムを受注したことを発表した。契約額は約90万米ドルで、期間は18ヶ月にわたり、次世代衛星通信(SATCOM)ビームフォーミング集積回路(BFIC)の開発を支援する。

 Sivers SemiconductorsのCEOであるVickram Vathulya氏は「SATCOMおよび5G向けミリ波BFICを提供する唯一のEU拠点の商用プロバイダとして、今回の受注は欧州SATCOMエコシステムにおける主要プレイヤーとしての当社の地位を強化するものだ。この契約により、重要なエネルギー効率要件を満たしながらBFICの性能限界を押し広げることができ、Siversは今後発売予定の製品と市場が求める次世代ソリューションの両方を提供できるようになる」とコメントを出している。

 ESAの取り組みは、優れた性能とエネルギー効率の向上をめざした、幅広い市場向けのSATCOM BFICの発展をめざす。これはSivers Semiconductorsの技術ロードマップに基づくもので、同社の現世代SATCOM BFICは2026年第1四半期に広くリリースされる予定だ。

 Sivers Semiconductorsのワイヤレス事業部門マネージングディレクターであるHarish Krishnaswamy氏は「このESAプログラムへの選定は、欧州のSATCOMイノベーション推進に対するSiversのコミットメントを浮き彫りにするものだ」とし、「ESAのミッションに貢献し、欧州連合(EU)の堅牢なSATCOMネットワーク構築に不可欠なIRIS2のような戦略的イニシアチブを支援できることを誇りに思っている」とコメントを出している。

 European Space Agencyの技術・エンジニアリング・品質局であるVáclav Valenta博士は「フェーズドアレイは現代のSATCOMに不可欠な技術となっており、半導体の進歩により、ようやく広く手頃な価格で利用できるようになった。しかし、今日のユーザ端末におけるビームフォーミング ネットワークは依然として複雑で消費電力が大きく、真のスケーラビリティを制限している」とし、「この新たなESAプロジェクトは、アクティブおよびパッシブ ビームフォーミング アーキテクチャとアンテナ給電機構のよりスマートな組み合わせを探求することで、この課題に真正面から取り組み、新世代の極めて効率的なフェーズドアレイを実現するように設計されている。世界的なフェーズドアレイ サプライチェーンで重要な役割を担うSivers Semiconductorsと共に、この戦略的開発を開始できることを大変嬉しく思っている」とコメントを出している。

 Sivers Semiconductorsは「当社は欧州の戦略的SATCOMイニシアチブにおける役割を強化し続け、商用および政府向け衛星通信向けに高性能でエネルギー効率の高いソリューションを提供している。ESAプログラムは、当社を継続的な成長へと導き、進化する世界市場のニーズに対応しながら、次世代SATCOM技術の開発を推進する」とコメントを出している。

編集部備考

 今回のESAとSivers Semiconductorsによる18カ月のBFIC開発プログラムは、一見すると時期尚早なプロジェクトに映るかもしれないが、衛星通信インフラの特性を踏まえると、むしろ妥当かつ戦略的なスケジュールと言える。ビームフォーミングICは従来の地上通信インフラ、例えばモバイル5Gでも最も早期に開発が始まる“ボトム技術”であり、アンテナ設計やRFフロントエンド構成を規定する基盤コンポーネントとして扱われてきた。宇宙インフラにおいては、この基盤性がさらに強まり、衛星本体の熱設計、電力配分、アレイサイズ、回線設計など、ミッション全体のアーキテクチャを左右する中核要素となる。そのため、マルチオービット(多軌道化)を前提とした次世代衛星群の設計を進めるには、最下層のIC技術を先行して確定しておく必要がある。
 特に、LEO・MEO・GEOを組み合わせた将来のマルチオービット構成では、軌道ごとに異なるリンクバジェット、ユーザ端末の可視性、高速化するハンドオーバー頻度に対応するため、電子的ビームステアリングの性能と効率が極めて重要になる。軌道横断のルーティングや衛星間リンクを含む柔軟なネットワーク制御を成立させるには、ビーム切替速度や指向性精度、消費電力密度といったICレベルの能力が、そのままシステム全体の性能上限を決めてしまう。言い換えれば、マルチオービット時代の競争力は、BFICの段階でどれだけ先行し、どれだけ実装余力を確保できるかが大きく影響する。
 今回のESAプロジェクトは、欧州がこの競争を“衛星完成後”ではなく、ICというモジュール層の研究開発段階から主導しようとする意思の表れだ。LEO商用化を軸にしつつ、将来の軌道統合を視野に入れた欧州らしい長期戦略の一部として位置づけられるだろう。
 そして同プロジェクトが示す最大のメッセージは、マルチオービットの将来像を議論するだけでなく、その実現を支えるボトム技術を“いま固め始める”ことの重要性だ。軌道統合は世界各国でまだ研究段階にあるものの、BFICのような基盤コンポーネントが前倒しで進むことで、衛星アーキテクチャの自由度が高まり、システム側の発想も一段と広がる。つまり、基盤技術の成熟は、研究から商用化までの道筋を確かなものにし、分野全体のイノベーション速度を底上げする触媒となる。
 マルチオービットは、国際的に積み上げるべき新しい通信インフラの概念だ。今回の取り組みは、各国の研究者・エンジニアが取り組む先端技術が、将来の軌道融合ネットワークを構成する重要なピースとなり得ることを示している。宇宙・通信・半導体という分野を横断した開発こそが、次世代の衛星通信における創造的競争力を生み出す。ESAとSivers Semiconductorsの事例は、その歩みを加速させる“明確な前例”となるだろう。

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