NokiaとDeutsche Telekomが、AIネイティブおよびオープンRANイノベーション推進に向けた戦略的協業を拡大
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NokiaとDeutsche Telekomは3月2日(エスポー)、クラウドベース、分散型、AIネイティブの無線アクセスネットワーク(RAN)技術の開発を加速するため、長年にわたる協業関係を拡大することを発表した。
両社は「強化された‘Innovation Cooperation Program’は、高性能でマルチベンダ対応のモバイルネットワークを実現することをめざし、クラウドRAN、オープンインターフェース、次世代AIネイティブRANソリューションにおける共同研究を深める。我々は、オープンで柔軟なアーキテクチャの推進に注力してきた長年の共創の歴史を有している。今回の取り組み拡大は、ネットワーク効率、プログラマビリティ、そしてサービスプロバイダの長期的な運用価値の向上に向けた共通のコミットメントを強調するものだ」と説明している。
Deutsche TelekomのオープンRAN戦略を支援
NokiaとDeutsche Telekomは、ドイツにおいてNokiaのベースバンドユニットとサードパーティのO-RAN準拠無線ユニットを連携させたこれまでの成功を基に、オープンフロントホール(OFH)統合における協力を強化している。OFHとクラウドRANのマルチベンダ統合は、機密性の高い開発プログラムの一環として現在進行中だ。オープン フロントホールの導入、クラウド化されたベースバンド、そしてネットワークのソフトウェア化は、Deutsche TelekomのO-RAN戦略の重要な要素だ。ベンダに依存しないサービス管理・オーケストレーション(SMO)プラットフォームは、マルチベンダRAN環境全体の集中管理を可能にするもう一つの重要な柱となる。
NokiaのCTO 兼 AI責任者であるPallavi Mahajan氏は「AIネイティブRANは、ネットワークの構築と運用方法に根本的な変化をもたらす。NokiaとDeutsche Telekomの協業を拡大することで、Nokiaの技術リーダーシップと、真にオープンでソフトウェアドリブンのモバイルネットワークというDeutsche Telekomのビジョンを融合させ、この変革を共同で加速させることができる。Nokiaは共に、ユーザとサービスのニーズに瞬時に適応できる、高度に自動化された高性能ネットワークの基盤を構築している」とコメントを出している。
両社はまた、オープンなO1インターフェースを通じてO-RAN準拠の管理機能を推進し、構成管理や、ベンダに依存しない長期的な運用をサポートする追加機能への取り組みを拡大している。Deutsche Telekomの社内SMOプラットフォームへのシームレスな統合は、柔軟で将来を見据えたネットワーク管理という同社のビジョンを具体化している。
AIネイティブRANにおける戦略的協業
Nokiaは、AIネイティブRAN(AI-RAN)開発における戦略的共創パートナーとして、Deutsche Telekomと協業する。この共同イニシアチブは、クラウド、エッジ、無線領域全体にわたるインテリジェントで自律的なRAN機能の導入を加速することをめざしている。重点分野は以下のとおり。
・AI搭載受信機、チャネル推定・予測、アダプティブ ビームフォーミング、予測的ネットワーク最適化といった、効果の高いAIネイティブRANユースケースの開発。これらの機能により、スペクトル効率、ユーザエクスペリエンス、ネットワーク自動化の向上が期待される。
・ラボおよび実環境におけるAI技術の検証。Deutsche Telekomのラボおよびフィールドで概念実証試験を実施し、実環境におけるAI for RANのパフォーマンスを評価する。
・オープンで分散型のAIネイティブRANアーキテクチャを構築し、標準に準拠した相互運用可能なインターフェースを用いて、ネットワークレイヤ全体にわたってAIが一貫して組み込まれるようにする。
Deutsche Telekomの取締役(製品・技術担当)であるAbdurazak Mudesir氏は「完全にプログラマブルで自律的なネットワークへと移行する中で、AIネイティブRANとオープンインターフェースは不可欠な構成要素となる。Nokiaは、当社のオープンRAN推進において信頼できるパートナーであり、この協業の深化は、大規模なマルチベンダ対応の柔軟性を実現するための重要な一歩だ。この共同作業により、より効率的で、より耐障害性が高く、次世代のデジタルサービスに対応できるネットワークの提供をめざす」とコメントを出している。
次世代モバイルネットワークの構築
両社は「今回のパートナーシップ拡大は、運用がシンプル化され、より迅速な適応が可能で、将来の接続ニーズに合わせて最適化された、高性能でプログラマブル、かつAIを活用した新世代のモバイルネットワークを実現することが目的だ」としている。
編集部備考
■NokiaとDeutsche Telekomが発表した戦略的協業拡張は、AIネイティブRAN時代における「事業者とベンダの関係性の再定義」を象徴する動きだ。
従来のRANビジネスは明確な役割分担に基づいていた。ベンダは装置を開発し、事業者はそれを調達・運用する。競争力の源泉は、装置性能や価格、導入実績にあった。しかしAIネイティブRANは、この構造の変化を示している。
重要なのは、『AIは「機能」ではなく「能力」』である点だ。AIをRANに組み込むという表現は簡単だが、実態はそれほど単純ではない。
AIネイティブRANとは、単にAIアルゴリズムを実装することではなく、「運用データの継続的学習」「モデル最適化の反復」「自律制御の高度化」といった『進化する能力』をネットワークに内在させることである。この能力は完成品として納品できない。
その構造は、「AIモデルは現場データによって鍛えられる」「運用品質はオペレーション文化やポリシーに依存する」「自律化レベルは経営のリスク許容度に左右される」となるので、ベンダ単独でも、事業者単独でも最適解には到達できない。協創は理念ではなく、構造的必然となる。
AIネイティブ化の議論は、Open RANの文脈と切り離せない。Open RANは、ハードウェアとソフトウェアの分離、マルチベンダ化、インターフェースの標準化を推進する。それは調達柔軟性と競争促進をもたらす一方で、統合責任の所在を複雑化させる。
一方、AIは統合を必要とし、「データ収集基盤」「モデル管理基盤」「制御ループの一貫性」が分断されていては、高度な自律化は成立しない。
この「分離」と「統合」の緊張関係の中で、事業者とベンダの役割は再設計を迫られている。今回の協業拡張は、まさにその再設計を前提とした動きと見ることができる。
そして事業者にとって重要なのは、AIネイティブRANは効率化投資だけではないという点だ。特に「AI基盤を誰が握るのか」「データ主権を誰が確保するのか」「アルゴリズムの進化を誰が主導するのか」は将来の競争優位を左右する戦略テーマとなる。もし事業者がAI能力を完全に外部依存すれば、RANはブラックボックス化する可能性がある。一方で、すべてを内製化しようとすれば、開発負担と人材投資が重くのしかかる。その間に位置するのが「戦略的協創」という選択肢となる。
ここでの協創とは、共同実証に留まらない。技術ロードマップを共有し、データを共に活用し、商用展開を前提に能力を共進化させる関係だ。
今回発表された協業強化が示唆するのは、AIネイティブRANが実験段階から商用拡張段階へと入りつつあるという点だ。PoCの段階では、技術的可能性の確認が主目的となる。しかし商用段階では、「ROIの可視化」「運用体制の再設計」「組織横断的な責任分担」といった経営課題が前面に出る。そうなると、ベンダとの関係も「供給契約」から「戦略的パートナーシップ」へと変化せざるを得ない。
AIネイティブRANは、設備更新の延長線上にあるテーマというよりも、ネットワークを「固定的資産」から「進化する知的基盤」へ転換する試みと捉えるべきだろう。
そのとき事業者に問われるのは、「どこまでを自社の中核能力と定義するのか」「どこをパートナーとして共創していくのか」「AI基盤の主導権をどう設計するのか」という戦略判断だ。
AIネイティブRANの時代において競争力を決めるのは、単体の技術優位ではなく、「誰と、どのように進化していくのか」という関係性の設計となるだろう。





