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150GHz帯において、伝送距離100mのリアルタイムデジタルOAMモード多重無線伝送に世界で初めて成功【NEC】

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5GおよびBeyond5Gの通信需要に対応する大容量伝送技術を開発

150GHz帯OAMモード多重無線伝送用アレーアンテナ

 NECは3月10日、5GおよびBeyond5G時代の無線通信需要の拡大に向け、大容量固定無線伝送用途として期待されている150GHz帯において、OAM(Orbital Angular Momentum:軌道角運動量)モード多重技術と偏波多重技術を組み合わせたリアルタイムデジタルOAMモード多重無線伝送技術による100mの伝送に世界で初めて(※1)成功したと発表した。
 同研究開発は総務省委託研究「ミリ波帯における大容量伝送を実現するOAM モード多重伝送技術の研究開発」により実施されたもの。

※1:2020年3月10日現在。NEC調べ。

 NECは、これまで、電磁波のOAMを利用したOAMモード多重無線伝送技術の開発を進めており、2018年12月には80GHz帯におけるOAMモード多重技術を用いた40m伝送の実証を行っている。
 今回の実験では、80GHz帯における実証実験と比較し、伝送距離は2.5倍の100mに、伝送容量は偏波多重を加えた16多重化により2倍に、それぞれ拡大している。
 NECは「今後、本技術を超小型マイクロ波通信システム“パソリンク”に適用し、5GおよびBeyond5Gの商用化に向けて大容量化が求められるモバイルバックホール回線での利用などを目指す」としている。

背景

 5GおよびBeyond5G時代における通信データの大容量化に伴い、端末からのデータを集約する基地局間の通信量は数10Gbps~100Gbpsとなる。
 混雑した街中などの高トラフィックエリアでは、カバーエリアの狭い基地局を多数設置するスモールセル化の進展が見込まれているが、高密度に設置した基地局のすべてを光ファイバで接続することは困難なため、光ファイバの敷設工事が不要な無線での接続が期待されている。
 一方、100Gbpsクラスの大容量伝送を実現するためには、既存技術である無線帯域幅の拡大や変調多値数の増加だけでは実現が困難と考えられている。このような状況において、大きな多重度による大容量化が可能なOAMモード多重無線伝送技術が注目されている。

OAMモード多重無線伝送技術

 OAMとは、電磁波の特性の一つであり、同一位相の電波の軌跡が進行方向に対してらせん状になる特徴を持つ。電波が1波長進む間のらせんの回転数をOAMモードと呼び、回転の方向を示す符号(+/-)と併せて、無限のモードが存在する。各モードは互いに干渉することがないため、同一の周波数と時間に重ね合わせて伝送し、分離することが可能だ。この性質を利用し、同一経路上で電波の空間多重化を行う技術が、OAMモード多重無線伝送技術となる。
 また、OAMモード多重と偏波多重は、互いに独立であり、両方を組み合わせることで、さらに多重度を上げることが可能だ。

今回開発され技術

 2018年12月に、世界で初めてリアルタイムデジタル信号処理回路を用い、E帯(71~76/81~86GHz)という周波数帯で、8本のOAMモード多重化した256QAM変調信号を40m伝送する実験の成功について発表を行ったが、これは1つの偏波のみを利用したものだった。

100m伝送での256QAM復調信号

 今回の実験では、OAMモード多重無線伝送技術に偏波多重技術を加えることで、前回の2倍である16本の256QAM変調信号を多重化し、変調速度115Mbaud で、14.8Gbps(8モード×2偏波x8ビット×115 Mbaud)の伝送容量を実現している。さらに、D帯(130~174.8GHz)という、より高い周波数帯を利用することで、伝搬によるOAMモード信号の拡散を抑え、ほぼ同一のアンテナ径で伝送距離を2.5倍の100mに拡大することに成功した。今回の実験は、自社開発したD帯RFデバイスを実装した無線機によって、RF周波数157GHzで送受信を行っている。
 偏波多重と組み合わせたOAMモード多重無線伝送を行うには、受信側で適応的(※2)なOAMモード分離と偏波分離の両方を行い、SINR(※3)の高い情報を取り出す必要がある。
 今回開発されたデジタル信号処理回路により、機器の不完全性や伝搬環境の変動によるOAMモード間干渉・偏波間干渉が存在する環境下でも高精度な信号分離が可能となり、極めて高い周波数利用効率128bps/Hzを実現した。

※2:状態の変化に応じて、自動的に制御値を変えられること。
※3:信号対干渉・雑音電力比。高い周波数利用効率を得るには、高いSINR値が求められる。

今後の展開

 NECは「今後、さらに伝送距離を拡大するとともに、デジタル信号処理部のLSI化と帯域幅の1GHzへの拡大により100Gbps以上の伝送容量を実現し、5G基地局のバックホール回線や、CU(Central Unit:集約基地局)-DU(Distributed Unit:リモート局)間のフロントホール回線への適用を目指す」としている。

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