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将来光アクセス基礎技術「エラスティック光アグリゲーションネットワーク」の実証実験に成功

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2030年以降のサービス多様化を見据えた、通信速度・光周波数帯域が伸縮自在なネットワーク

 日本電信電話(以下、NTT)、日立製作所(以下、日立)、沖電気工業(以下、OKI)、慶應義塾大学(以下、慶應)、KDDI総合研究所、古河電気工業(以下、古河電工)の6機関は4月25日、2030年以降を見据えた先進的な研究として、「エラスティック光アグリゲーションネットワーク(EλAN:エラン)技術」の研究課題に取り組むと発表した。
 EλANとは、光周波数の利用効率を向上する適応変復調OFDM伝送方式を用いながら、アクセス(加入者-局舎間)・メトロ(局舎間)ネットワークを波長選択スイッチを介して光信号のまま伝送するネットワークであり、インターネット・ビジネス向け回線・モバイルなど複数のサービスで利用される異なる性質のトラフィックに対し、伸縮自在(エラスティック)な通信速度・光周波数帯域の割り当てを行うことができる。(※EλANはElastic lambda Aggregation Networkの略)
 また、このような革新的なネットワークに必要となる信頼性を光伝送路の制御方式やスイッチ技術の検討を通して追求し、検証機を用いて実験を行なった。局舎装置が故障しサービスが断絶しても、故障した装置から10km離れた別の局舎装置が自動的に10秒以内にサービス断絶前と同じ通信速度で再接続する実験に世界で初めて成功したという。
 同技術は、2030年以降に訪れるサービスの多様化に適応できるアクセス・メトロネットワークの基礎技術として期待されている。なお、同成果については、光通信に関する国際学会iPOP2017(The 13th International Conference on IP + Optical Network、神奈川県川崎市で6月1日~2日開催)の展示会にて出展発表される。
 今回の研究開発は、国立研究開発法人情報通信研究機構の委託研究課題「エラスティック光アグリゲーションネットワークの研究開発」を受託し、実施したもの。

背景

 FTTHサービスの普及に伴い、光アクセスネットワークへの期待として、従来のFTTHサービスに加えてビジネス向け回線およびモバイル向けサービス、高精細映像伝送サービスや将来的にはIoTへの対応など、様々なサービスの提供が求められることが想定されている。
 このようなマルチサービス収容を実現するためには、これまでのようにサービス毎に独立したネットワークを構築するのではなく、一つのネットワークで様々なサービスを効率良く提供することが求められる。また、サービス毎に異なるネットワークへの要求条件に柔軟に対応することや、災害発生時などに残されたネットワークリソースを柔軟に組み替えてサービスを継続することも必要となる。さらに、提供サービス数増加に伴う光周波数の将来的な資源リスクに対応するために、単位光周波数当たりの通信速度(光周波数利用効率)を向上することも求められる。
 このような背景から、2030年以降を見据えた先進的な研究として、NTTのアクセスサービスシステム研究所、日立、OKI、慶應、KDDI総合研究所、古河電工の6機関は、アクセス・メトロネットワークにおける設備・運用の効率化、光周波数利用効率の向上、柔軟なマルチサービス収容および高信頼性の実現をめざし、EλAN技術の研究課題に取り組むに至ったという。

エラスティック光アグリゲーションネットワーク(EλAN)

 EλANは、加入者に近いアクセス局舎に配置している局内装置(OLT)を、メトロネットワークの回線を集線(アグリゲーション)するコアネットワークに近いメトロ局舎に配置し、加入者からメトロ局舎を光信号のまま伝送するネットワーク。光ファイバ伝送路網には波長選択スイッチを配置し、光信号の経路を冗長化し自律的に変更可能とすることで信頼性を確保する。また、光-電気-光変換処理が不要となり、ネットワーク全体の低伝送遅延化や低消費電力化の効果も期待される。
 またEλANでは、極めて優れた光周波数利用効率を実現できるデジタルコヒーレントOFDM伝送方式を用いるとともに、適応変復調技術を活用することにより、大規模なマルチサービス収容および伸縮自在(エラスティック)な通信速度・光周波数帯域の割当を行う。さらに、世界で初めて、デジタルコヒーレント適応変復調OFDM伝送方式に、OLT内動的帯域割当アルゴリズム技術を適用することにより、メトロ局舎からの宅内装置(ONU)までの距離(収容距離)に依存せず、どのユーザにも公平な通信速度を割り当てるよう制御する。

EλANの概念図

EλAN技術の研究開発の内容と成果

 今回、NTT、日立、OKI、慶應、KDDI総合研究所、古河電工の6機関が取り組んだEλAN技術は、下記6項目の要素技術から構成される。

OLT内動的帯域割当アルゴリズム技術の開発【NTT】

 収容距離の異なる複数ONUを収容するEλANでは、メトロ局舎に近いONUにより高い通信速度を適応することにより、ネットワーク全体の利用効率を向上できる。この利用効率向上効果を、トラヒック要求を考慮しながらサブキャリア数を動的に割り当てることで、全てのONUに公平に分配するアルゴリズムを提案した。また、単一のOLTと接続された512台のONUに対して提案アルゴリズムの実機動作を実現した。

OLT内動的帯域割当アルゴリズム技術(NTT)

適応変復調OFDM伝送方式の制御技術の開発【日立】

 適応変復調OFDM伝送方式に対応したONUを自動的に発見し、多様な光信号パラメータをONUに自動設定する通信制御プロトコルを開発した。災害などにより光伝送路が断線した場合、従来は通信復旧が困難だったのに対し、同技術では、新たに構築された光伝送路に適した光信号パラメータが設定され、自律的に通信が復旧する。同技術を論理回路に実装したOLT及びONUを試作し、実機での通信復旧動作を実現した。

開発した通信制御技術を搭載した局舎装置の写真(日立)

適応変復調OFDM伝送方式対応の光送受信器技術の開発【OKI】

 信号処理回路を高速に切り替えることで光信号パラメータを動的に変更可能としたデジタルコヒーレントOFDM光送受信器、および伝送路の状況に応じて最適な光信号パラメータを選択する適応変復調アルゴリズムを開発した。これらの技術を組み合わせることで、従来より少ない光周波数資源で大容量の通信を行うことのできる高効率なネットワークを構築することが可能となる。

開発した適応変復調OFDM伝送方式対応光送受信器の写真(OKI)

複数のOLT間動的帯域割当アルゴリズム技術の開発【慶應:理工学部 山中直明教授】

 各OLTにおいて設定されるサービス毎の機能を論理OLTと定義し、障害回復や省電力化などのポリシーに基づいて、複数のOLT間における論理OLTの配置(マイグレーション先)および帯域割り当てを1ミリ秒程度で算出するアルゴリズムを開発した。OLTの監視・制御を行うリソースコントローラに本アルゴリズムを実装し、光スイッチコントローラと連携して加入者再収容を行う技術を確立した。

複数のOLT間動的帯域割当アルゴリズム技術(慶應)

波長選択スイッチで構成された光伝送路の制御技術の開発【KDDI総合研究所】

 様々なサービス形態に対応するために要求される通信速度・伝送品質・遅延量に合わせて最適経路・使用周波数帯を計算し、その結果に基づき波長選択スイッチの設定を行うプロビジョニング装置(以下、光スイッチコントローラ)の研究開発を実施した。光スイッチコントローラは、メトロ局舎や装置、光伝送路の障害時において、復旧先の探索や波長選択スイッチの設定変更を行うことにより光伝送路の障害復旧を可能とする。

波長選択スイッチで構成された光伝送路の制御技術(KDDI総合研究所)

多ポート波長選択スイッチ技術の開発【古河電工】

 柔軟な光ネットワークの構築に貢献するため、出力ポート数30以上の多ポートかつ帯域可変な波長選択スイッチの試作機を開発した。また、更なる多ポート化の開発を推進するため、石英系平面光導波路技術を用いた多ポート化に最適な入出力アレイを開発し、それを用いた出力ポート数93の波長選択スイッチの検証実験を実施した。その低損失かつ多ポートな性能は世界トップレベルの成果となる。

多ポート波長選択スイッチの試作機の写真(古河電工)

 6機関はこれらの新規開発した革新的技術を結集し、EλANの有用性・信頼性について機能検証機で実験を行った。具体的には、最大伝送距離40km、1波長当たりの最大通信速度10 Gbps、最大収容端末数512を模擬した実験系において、伸縮自在な通信速度・光周波数帯域割当機能を確認するとともに、あるメトロ局舎が被災したことを想定したユースケースの検証を行った。その結果、10km離れた場所に残された別のメトロ局舎が、被災したメトロ局舎に接続されていたサービスを、10秒以内に自律的にサービス断絶前と同じ通信速度で再接続する実験に世界で初めて成功した。

EλANの実機検証実験の様子


EλANのユースケース(災害発生時のサービス再接続)


サービス再接続のリアルタイム検証結果

今後の展開

 今後は、開発したEλANのさらなる技術成熟度および信頼性向上をめざすと共に、成果のプロモーション活動を実施していくという。