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5G/IoT 本格普及に向けた光アクセスネットワークの仮想化制御試験に成功【東京大学、OKI、三菱電機】

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さまざまな IoT サービスを効率よく提供できる「PON リソース管理・割当制御技術」の開発 により、サービス事業者のビジネス拡大と加速に貢献

 東京大学(以下、東大)大学院情報学環の中尾 研究室(教授:中尾彰宏氏)、沖電気工業(以下、OKI)、および三菱電機は4月14日、PONの通信リソース(低遅延や大容量など通信における能力)を管理・制御する「PON リソース管理・ 割当制御技術」を開発し、光アクセスネットワークの仮想化制御試験に成功したと発表した。
 これにより、デジタルシネマや自動運転など、通信要件の異なるさまざまな IoT サービスに最適な仮想ネットワークを効率よく柔軟に構築できることを実証し、通信事業者が、5G/IoT 時代に必要な多種多様な通信サービスに応じた光アクセスネットワークをIoT サービス事業者に提供する目途をつけた。

背景

 近年、各種センサを使った IoT サービス基盤や無線通信システムの開発が盛んに行われており、無線通信システムとしては、国内でも今春から5Gの商用サービスが開始され、2025年頃には本格普及する見込みだ。一方、IoT サービスにおいては、5Gを活用した様々な社会課題解決への期待の高まりに伴い、有線と無線が統合されたネットワーク上の通信サービス要求が多種多様化(超大容量化、超多数同時接続対応、超低遅延化・超高信頼化)している。これらの要求は通信リソースを大量に消費するため、ネットワークの設備・運用コストが増大することが予想される。この課題を解決する技術として、経路全体にわたるネットワークについて、それぞれの通信サービスに合った形で通信リソースを柔軟かつダイナミックに管理・提供できる「ネットワークスライス関連技術」が注目されている。

図1:ネットワークスライスの概念図

開発および試験の内容

 東大・OKI・三菱電機は、通信サービスが多種多様化する 5G/IoT 本格普及期に向けて、通信リソースを有効利用できる柔軟なネットワークを提供するため、2017 年に総務省から受託した「IoT 機器増大に対応した有無線最適制御型電波有効利用基盤技術の研究開発」に取り組んでいる。その中で、仮想的なPONを構築するオーケストレータ(東大担当)、光アクセスシステムを PON などのネットワーク形態に依存しない形態に抽象化して通信リソースの管理制御を行うSDNコントローラー(SDNC)(三菱電機担当)、および PONリソースの割当制御を行う VOLTHA(※1) /vOLT(※2)形式の PON 仮想化(OKI 担当)の研究開発を行ってきた。今回の試験では、図 1 の「光アクセス網」部分における光アクセスシステムの通信リソースを仮想化制御するためのテストベッド(試験用プラットフォーム)を構築し、リソース割り当て試験を行い、柔軟に仮想的な PON が構築できることを実証した。図 2 に実証試験の構成概略およびテストベッドを示す。

※1「VOLTHA(Virtual OLT Hardware Abstraction)」:業界団体 Open Networking Foundation (ONF)が CORD(Central Office Re-architected as a Datacenter)プロジェクトの中で開発した OLT の機能を抽象化する装置であり、各ベンダの異な る仕様の OLT 装置を共通化することで、制御を簡単化する。

※2「Volt」:Virtual OLT PON における集線装置を仮想制御するOKI 開発の装置。

図2:実証実験の構成およびテストベッド

開発技術の内容

オーケストレータ技術(東大担当):ONF(Open Networking Foundation )が開発している CORD プロジェクトで開発したオープンソースの ONOSプラットフォームで動作する PONドメインオーケストレータ(光アクセス網のみの制御)を開発し、多種多様な光アクセスサービスを従来よりも柔軟かつ効率的に収容する見通しを得た。

SDN コントローラー技術(三菱電機担当):データの送受信に要する伝送遅延時間の要求度に応じて、事前に通信リソースを超低遅延向け・低遅延向け・遅延制限なし等の複数のクラスに分類し、そのクラスごとに通信速度や可用性(システムを停止することなく稼働し続ける能力)などを算出しておくことで、ネットワーク構築の要求を受けた際に最適な通信リソースを素早く割り当てることができるアルゴリズムを開発した。また、PON のOLTと複数のONUを結ぶ PON リンクごとに通信リソースの利用状況を管理し、利用可能な通信リソースに応じて、スライス(分割されたネット ワーク)に利用すべきPONリンクを選択する方式を考案し、多数のスライスを効率よく収容できる通信リソースの管理・制御アルゴリズムを開発した。

PON 仮想化技術(OKI 担当):波長と時間の帯域を割り当てる TWDM-PONをベースに、要求に応じて PON のハードウ エア機能の切出・合成を行うリソース割当技術、および切出・合成されたネットワーク(スライス)の独立性を確保する帯域割当技術(vOLT)を開発し、ONF が開発した VOLTHAアーキテクチャを考慮し、SDN コントローラーとのインタフェースを NETCONFで構成することで、PON 仮想化を実現した。

 同技術の開発にあたっては、早期にビジネス展開することを想定し、国際標準化も同時に行っている。光アクセスネットワーク仮想化を実現するアーキテクチャについては国際標準化 ITUT SG13で勧告化を完了し(Y.3150、Y.3151)、インタフェースについては ITU-T SG15(G.hsp)にて勧告化に取り組んでいるという。東大・OKI・三菱電機は「今後、仮想的ネットワークをより効率的に構築するために、今回の開発技術をベースとしたダイナミックな割当制御技術を開発し、他の仮想化装置との協調動作検証やIoT 有線無線リソース管理制御技術のプロモーション活動を実施していく」としている。