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低軌道通信衛星コンステレーションに向けた、耐放射線Ka帯無線機の開発に成功【アクセルスペース、東京工業大学】

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Beyond 5Gに向け小型衛星の通信速度の大幅向上へ

 アクセルスペースと、東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の白根篤史准教授と同 工学院 電気電子系の岡田健一教授、戸村崇助教は2月20日、放射線耐性の高い無線機の開発に成功したと発表した。
 この研究成果は、世界最大規模の半導体関連の国際学会「ISSCC 2023」での発表の他、3月に米国で開催予定の「Satellite 2023」での展示を予定しているという。

次世代小型通信衛星コンステレーション構築に向けた電波・光ハイブリッド通信技術

同研究の社会的背景

 Beyond 5Gでは、地上の通信インフラだけでなく、非地上での通信ネットワークシステム(NTN:Non-Terrestrial Network)を利用することで、さらなる通信エリア拡大が検討されている。また、地球低軌道(LEO)で衛星間光通信を行うことによるネットワーク構築は次世代のキーテクノロジーとして注目されており、単に地上の通信インフラ未整備エリアを補完するだけでなく、従来通信サービスが十分に提供されていなかった空間(山頂、船舶・航空機、無電化地域)や、自然災害発生時といった地上通信インフラが一時的に使えない場合に、非地上の通信インフラがより広域かつ堅牢な通信ネットワークを提供することで、より安心、安全な社会の実現につながる。

 近年Beyond 5G時代に向けた低軌道衛星コンステレーションの研究開発およびサービス化が急速に進んできており、人工衛星に搭載する無線機にも高速通信が可能で、宇宙における過酷な環境に耐えうる衛星搭載用の高速通信可能な無線機の需要が高まっている。しかし、現在の光通信機や通信衛星用の高速通信が可能な無線通信機は数トン級衛星を念頭に置いた高出力・高消費電力なものが多く、安価にコンステレーションを構築することに有力な100kg級衛星への搭載が困難と考えられていた。

 アクセルスペースではNICT受託研究「Beyond 5G次世代小型衛星コンステレーション向け電波・光ハイブリッド通信技術の研究開発」を進めており、100kg級衛星でGbps級の衛星間通信および地上との通信が可能な小型衛星による電波・光ハイブリッド通信衛星コンステレーション ネットワーク構築をめざしている。
 アクセルスペースは「電波・光ハイブリッド通信では、光通信リンクの確立のために非常に精密な衛星姿勢制御が要求される。一般に光通信は電波に比べて高速に通信できる一方で、雲があると完全に通信不能になる欠点がある。そのため、電波通信のなかでは高速化が期待できるKa帯を使用し電波・光ハイブリッドな通信システム構築をめざす。一方で、電波・光ハイブリッド通信のためには、電波通信に対しては光通信のための精密な姿勢制御を邪魔せず、かつ光通信に匹敵する高速な通信という相反する非常に困難な要求を達成する必要があった。それを達成するキー技術として、東京工業大学との共同研究でKa帯フェーズドアレイ無線機および、広帯域Ka帯通信機を研究開発していた」と説明している。

宇宙空間における放射線環境耐性の高い無線機の開発

 放射線環境が厳しい宇宙空間では、電子部品には放射線による劣化が起こる。人工衛星の内側と外側では放射線を受ける量が異なり、外側に配置された電子部品が、内側に配置された電子部品より劣化度が高くなる傾向にある。そのため、特段の理由がない限りは、電子部品は人工衛星の内側に配置し、多くの場合放射線を減らす目的でシールドで覆い保護される。
 また、宇宙空間に打ち上げた後は、現時点での劣化度や劣化箇所についての情報を的確に捕捉することが難しく、設計段階で軌道寿命から計算した電子部品の劣化量を考慮し、劣化が最大の状況でもシステムとして機能喪失しないように設計することが求められる。

 フェーズドアレイ無線機は、地上用製品としては昨今サービスが始まったミリ波帯5G通信などにおいて、多数の製品が存在する。しかし、これらのフェーズドアレイ無線機は小型、軽量、低コスト化等を目的としてアンテナとフェーズドアレイICを基板上に一体化して搭載している。そのため、アンテナとICを分けて搭載できず、人工衛星に搭載する場合には必然的に衛星外部に配置されることになる。つまり、フェーズドアレイICが宇宙空間に暴露され、非常に厳しい放射線環境に置かれることになる。このため、放射線によるフェーズドアレイICの経年劣化が課題となり、放射線環境に対し堅牢なフェーズドアレイ無線機を開発することが求められていた。

 今回の研究で新たに開発されたフェーズドアレイICは、IC自体に劣化量を測定する放射線センサを内蔵している。同ICを利用して無線機を構成することで、アレイ上のあらゆる位置での放射線劣化量を検出することができる。これにより、無線機性能の劣化を補正するようにパラメータを再調整し、フェーズドアレイ無線機全体の性能悪化を避けることが可能となり、放射線に強い通信システムを開発することができるという。

 アクセルスペースは「弊社では今後も東京工業大学と共同研究を継続する予定であり、これまでの研究成果を生かして送信向けのフェーズドアレイ無線機の開発も進行中だ。数年以内に本研究成果である受信フェーズドアレイ無線機と送信系フェーズドアレイ無線機、アクセルスペースで開発中の広帯域Ka帯送受信機を統合した、高放射線耐性・省電力なKaバンド通信サブシステムを搭載した実証小型衛星の打ち上げを予定している。今回の耐放射線フェーズドアレイ無線機技術により、宇宙での活用が可能となったフェーズドアレイ無線機を組み込んだ高機能な次世代衛星による衛星コンステレーションを構築し、より宇宙を身近に利用しやすい未来を創る」との考えを示している。

 なお、本件の研究成果はNICTの委託研究(採択番号00601)により得られたものとなる。

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