スカパーJSATが参画する国際共同研究チーム、 新たな5G 衛星通信を用いた越境実証に世界で初めて成功
モバイル/無線 無料国際的なモバイル接続の可能性を拡大
スカパーJSAT、シンガポール工科デザイン大学(Singapore University of Technology and Design:以下、SUTD)、TMY Technology、Rohde & Schwarz(ローデ・シュワルツ)、VIAVI Solutions(以下、VIAVI)の5機関は5月26日、国際共同研究チームを組成し、地上系ネットワークの届かないエリアにおいて通信を可能にする、非地上系ネットワーク(NTN)に関する5G NTN 通信技術の実証に、世界で初めて(※)成功したことを発表した。
(※)公表された事例として世界初。SUTD調べ。
研究チームは5月23日、大阪・関西万博のシンガポールパビリオンにて、国境を越えたエンド・ツー・エンドの5G NTN通信のライブデモを初公開した。

図:静止軌道(GEO)衛星を介した、シンガポールと日本間における5G NTN 技術によるライブデモ(ビデオ通話)の構成
ライブデモでは、シンガポールに設置されたユーザ端末から5G信号を送信し、スカパーJSATが運用するGEO衛星を経由して、日本の地上局へ伝送された。この地上局は5G基地局および5Gネットワークに接続されており、地上系ネットワークと非地上系ネットワークの間での通信の実現性を実証した(図)。その結果、既存GEO衛星が3GPPの定める5G NR規格に対応可能であることが示された。
現在の5Gネットワークは主に地上系で構築されているが、今後到来する6G時代のネットワークでは、地球のあらゆる場所から接続可能で、災害時でも途切れない強靭な通信基盤を構築するため、地上系ネットワークと非地上系ネットワークの融合が必要不可欠だ。今回実施したライブデモの成果は、将来の非静止軌道衛星(non-GEO)への応用、さらには6G時代における地上系と非地上系ネットワーク融合に向けた礎となる。
シンガポールで次世代通信研究開発プログラム(FCP:Future Communications R&D Programme)および次世代通信接続ラボ(FCCLab:Future Communications and Connectivity Lab)を主導する、SUTDの情報システム技術・デザイン学科 トニー・クエック教授は「SUTDは、スカパーJSAT、TMYTEK、Rohde & Schwarz、VIAVIというパートナーとともに、5G技術の限界に挑戦する共同研究を推進できたことを誇りに思っている。各パートナーが異なる専門性を持ち寄ることで、今回の技術的ブレークスルーが実現した。また、この取り組みはSUTDの学生や研究者にとって、世界中の専門家とともに最先端技術に取り組む貴重な実体験となり、技術力の向上のみならず、将来に役立つ技術以外のスキル習得に繋がったと確信している」とコメントを出している。
スカパーJSATの代表取締役 執行役員社長である米倉 英一氏は「スカパーJSATのGEO衛星と『Universal NTNイノベーションラボ』を活用して、大阪万博における世界初のデモンストレーションに参加できたことを大変誇りに思っている。今後も、シンガポールをはじめとした各国の関係者との連携を通じて、通信技術の進化に貢献していく。また、革新的な多層通信プラットフォームである『Universal NTN』を通じて、高い信頼性を備えた通信環境を提供し、モバイルネットワークと衛星ネットワークのシームレスな接続を可能にする技術の確立をめざしていく」とコメントを出している。
さらに本プロジェクトでは、5G NTN GEO通信において、電子制御によるビームステアリングが可能なアンテナ(Electronically Steered Antenna: ESA)を世界で初めて統合し、これまで実現が難しかった海洋・モビリティ分野での応用にも道を開いた。
TMYTEKの創業者社長であるスーウェイ・チャン氏は「当社のESA技術をこの先進的な取り組みに提供できたことを光栄に思っている。衛星通信における当社の専門性を実証し、5G NTNの接続における信頼できるパートナーとしての地位を確かなものにできたと考えている」とコメントを出している。
衛星事業者、モバイルネットワーク事業者、装置ベンダ、アプリケーション提供者は、NTNネットワークおよびその上でのトラフィックの性能を評価する必要がある。ローデ・シュワルツとVIAVIは、LEO・MEO・GEOをカバーするNTNデジタルツインのテスト環境を共同で開発し、今回のエンド・ツー・エンド通信の実証および性能評価に活用された。
VIAVIのCTOであるサミー・ヤマニ博士は「VIAVIは、グローバルに接続性の高い未来を実現するために、イノベーションと協業に注力している。今回の5G NTN技術の進展は、衛星を介したシームレスなモバイル通信が実現可能であることを証明すると同時に、ボーダレスで強靭な6Gネットワークの構築に向けた第一歩となるものだ。世界のパートナーとともに、このビジョンの実現に貢献できたことを誇りに思っている」とコメントを出している。
Rohde & Schwarzのゼネラルマネージャーであるサミュエル・ラー氏は「大阪万博において最新の5G NTN技術を発表できたことを光栄に思っている。ローデ・シュワルツは、テストと測定分野における専門性を通じて、技術革新の信頼性と性能を確保することに貢献した。この成果は、SUTDをはじめとする素晴らしいパートナーとの協力の賜物だ。技術的限界を超える情熱とチームワークに感謝している」とコメントを出している。
ライブデモにおける各機関の取り組み
シンガポール工科 デザイン大学(SUTD)
シンガポール工科デザイン大学(SUTD)は、シンガポールの次世代通信研究開発プログラム(FCP)の拠点として、国内の5Gエコシステムの強化と、将来の通信技術に関する研究および実用化の加速を担っている。国際的なパートナーとの連携により、最先端の5Gおよび6G通信に関する研究・技術開発が進められており、今回のライブデモも、このような協業の成果の一つだ。SUTD内の次世代通信接続ラボ(FCCLab)には、NTN(非地上系ネットワーク)に対応した高度な設備が整っており、実験室内での検証から実環境へのスムーズな技術移行を可能としている。 今回のライブデモでは、SUTDシンガポールキャンパスのユーザ端末からの信号を、大阪・関西万博会場へ送信し、世界初となる国をまたいだ5G NR NTN(新無線・非地上系ネットワーク)のエンド・ツー・エンド構成によるライブ映像通話を実現した。
スカパーJSAT
スカパーJSATは、GEO(静止軌道)衛星、地上局、可搬型VSAT端末、エミュレーターなどを含む、5G NTN向けの通信システム設計および技術検証環境「Universal NTN Innovation Lab」を提供した。
TMY Technology
ハードウェアとソフトウェアをシームレスに統合した電子制御アンテナ(ESA)に加え、豊富な衛星通信試験の実績も本実証に活用されている。
Rohde &Schwarz
SUTDはローデ・シュワルツの無線通信テスター「R&S CMX500」を活用し、様々な無線周波数(RF)条件およびネットワークパラメータを模擬した。これにより、静止軌道(GEO)および低軌道(LEO)環境を想定した包括的な検証と、ストリーミング通信およびVoIP(Voice over IP)通信を含むエンド・ツー・エンドのIPデータ試験を成功に導いた。
VIAVI Solutions
衛星通信事業者、モバイルネットワーク事業者、通信機器ベンダ、エンドユーザ向けアプリケーション提供者にとって、NTNネットワークの性能やその上で流れるトラフィックの評価は不可欠だ。こうした多様なニーズに応えるため、ローデ・シュワルツとVIAVIは、LEO(低軌道)、MEO(中軌道)、GEO(静止軌道)を網羅する「NTNデジタルツインテストベッド」を共同開発した。
このテストベッドでは、以下のようなユースケースに対応している。
・エンド・ツー・エンドの接続性および性能の検証
・様々なユーザ端末(UE)による広域カバレッジでのQoS(通信品質)測定
・衛星および端末の移動や速度、距離といった要素に対応したアプリケーション性能の評価
・通信の信頼性および安定性の検証
また、5G NRに対応したユーザ端末としてVIAVIの「TM500-AS2」が使用される。この端末は、グローバルな通信機器メーカーが基地局試験に用いるフラッグシップモデルを簡略化したもので、ドップラー効果や遅延補償を含む3GPPプロトコルを完全にサポートしている。