光通信、映像伝送ビジネスの実務者向け専門情報サイト

光通信ビジネスの実務者向け専門誌 - オプトコム

有料会員様向けコンテンツ

衛星×5Gネットワークにおける柔軟な経路選択・品質制御等を活用した実証実験に成功【JRC、スカパーJSAT、東京大学、NICT】

テレコム 無料

宇宙と地上を結ぶ柔軟なネットワークで、つながる社会をめざす

 日本無線(以下、JRC)、スカパーJSAT、東京大学大学院工学系研究科(研究科長:加藤 泰浩氏、中尾研究室教授:中尾 彰宏氏、以下 東京大学)およびNICTは10月2日、静止軌道(GEO)衛星回線、低軌道(LEO)衛星回線、地上回線を含む5Gネットワークにおける動的なバックホール経路の切り替えやQoS制御の実証実験に成功したと発表した。

 これにより、多様なサービスや回線状況にも柔軟に対応可能な、信頼性の高い衛星回線×5Gネットワークの構築が期待される。
 本実験は、NICTが実施する委託研究『Beyond 5Gにおける衛星-地上統合技術の研究開発(採択番号 21901)』の一環として実施された。

背景
 Beyond 5Gでは、拡張性・広域性という観点から「非地上系ネットワーク(NTN:Non-Terrestrial Network)」が注目されている。NTNは、衛星、高高度プラットフォーム(HAPS:High-Altitude Platform Station)、ドローンなど多層的で様々な通信インフラを介して宇宙、空、海などを含めた異なる空間を相互につなぐネットワーク。NTNを構成する各通信インフラは、遅延や安定性においてそれぞれ異なる通信特性を持っており、用途に応じた柔軟な通信路の実現が期待される。また、3GPPにおいても5GにおけるNTN接続のサポートに関する標準化が進められており、これらの動向を踏まえ、衛星回線×5Gネットワークの商用化に向けた取り組みが国内外で活発になっている。そこで、NICTは欧州宇宙機関(ESA:European Space Agency)との趣意合意書(LoI:Letter of Intent)を締結し、本分野における日欧の連携を強化し、NTN技術のグローバルな視点での技術開発及び通信インフラの実現に向けた取り組みを推進している。
 このような背景から、JRC、スカパーJSAT、東京大学およびNICTは、多岐にわたる通信需要や回線状況に合わせ柔軟に対応できるネットワークを構築するため、GEO衛星回線、LEO衛星回線、地上回線といった複数種類の経路を含むシステムにおいて、トラフィックに応じた適切なバックホール経路の動的な切り替えや動的なQoS制御を行う実証実験を計画してきた。

衛星-地上統合技術研究開発の実証実験
 各機関が協力し、GEO衛星・LEO衛星・地上設備(ローカル5Gシステム)を相互に接続したネットワークの構築および実証実験を行った。本実証実験では、回線監視や経路切り替え、用途に応じたバックホール経路の割り当て、バックホール回線の帯域幅に応じた動的なQoS制御など、次世代通信技術の検証を実施した。また、衛星回線と5Gを組み合わせ、多様な用途や回線状況に合わせて柔軟に対応できるネットワーク基盤の実現性を確認するため、災害時を想定した実証実験も行った(図1)。これらすべての実証実験に成功し、エンドユーザにおける通信の有効性を示した。
 四者は「本成果により、将来的な社会インフラの信頼性向上と、様々な通信ニーズに応える持続可能なネットワークの実現に大きく貢献できることを確認している」と説明している。

図1:GEO衛星、LEO衛星、ローカル5Gシステムを相互接続したネットワーク構成

実証実験における各機関の役割と成果

各機関の役割

JRC
 JRCは、発災時の通信ネットワークをユースケースとし、災害状況の把握から、現場監視、人命救助、支援物資の運搬、ライフラインインフラ設備の復旧復興まで、長期的に優先度の高い通信環境を構築することに取り組んだ。具体的には、GEO衛星回線、LEO衛星回線、地上回線をバックホールとした、マルチバックホール スイッチングの実証、および、災害時をユースケースとし、GEO衛星回線と、LEO衛星回線のそれぞれをバックホールとしたローカル5G-衛星の実証実験を実施した。人間が立ち入れない危険な場所での情報収集を想定し、360度カメラを搭載したロボットをローカル5G環境に置き、衛星回線を経由してロボットの操作と高機能映像の伝送を行った。ジッタの少ないGEO衛星と遅延の少ないLEO衛星、それぞれの特長を活かすため、GEO衛星回線では360度カメラや監視カメラからの映像伝送を行い、LEO衛星回線では、災害用ロボットの遠隔操作を成功させた。この実証実験により、災害下での情報収集ニーズに対し、使用したいアプリケーションから最適な軌道の衛星回線を選択することで、優れたソリューションを提供できることを実証した。また、スライシングのQoS制御を活用することにより、災害時の限られた通信帯域を有効利用できることも示した。
 なお、LEO衛星回線は、ソフトバンクが提供する「Eutelsat OneWeb」またはKDDIが提供する「Starlink」を利用した。また、ロボット制御と360度カメラ映像伝送は、ポケットクエリーズによるシステムを利用した。

スカパーJSAT
 スカパーJSATは、ローカル5Gのバックホールとしてそれぞれ特性の異なる複数軌道の衛星通信の活用を目的として、「QoS制御」及び「経路制御」を組み合わせた環境の構築を行った。構築した環境では、回線状況に応じた動的な制御の有効性を実証した。具体的には、アプリケーションの用途に応じて最適なバックホール経路を割り当てるとともに、災害や障害などで一部のバックホール回線が使用できなくなった場合には、自動的に衛星回線へ切り替える仕組みを導入し、通信の継続性と安定性を確保した。回線の切り替えに伴い、一部の回線にトラフィックが集中せざるを得ない状況においても、QoS制御により各アプリケーションに対して適切な帯域の割り当てを動的に調整する仕組みを適用した。LEO衛星による通信容量の増大とGEO衛星利用時の安定した帯域確保を組み合わせることで、スループットの向上と通信の安定性の両立が可能であることが確認された。
 これらの成果から、GEOおよびLEOといった複数軌道衛星と5G通信を連携させた通信システムは、地上インフラが整っていない地域や災害時などの特殊な環境においても、高速かつ安定した通信の提供が可能であると実証された。

東京大学
 東京大学はBeyond 5Gにおける衛星-地上統合技術研究開発の実証実験において、衛星地上統合システム上でエンド・ツー・エンドのネットワークスライシング技術を実現した。さらにネットワークスライスの動的QoS制御手法を確立し、東京大学が開発しているローカル5Gシステムや実衛星システムを利用し、上記にて確立した手法の実証を行った。
 遠隔による災害監視等では、複数台の高品質なカメラを同時に利用することが求められるが、現在の衛星地上統合システムは通信帯域に限界があり、すべてを同時に高品質で配信することは難しいという問題がある。一方で、常に高品質な映像が要求されるわけではなく、時間や場所によって要求されるカメラやその品質は変化する。
 そこで、監視者のニーズに応じて、カメラのQoSを動的に制御させる動的QoS制御手法を研究開発した。この手法には、各カメラによる映像配信アプリケーションを5Gが提供するネットワークスライシングを利用して個別にQoSを確保・制御する手法を採用した。具体的には、高品質な伝送を必要としないアプリケーションについては、GBR(Guaranteed Bit Rate)を利用して一時的に帯域を制限する。これにより、品質を高める必要があるアプリケーションが利用できる帯域を相対的に確保することで、QoSの向上を図っている。さらに遠隔監視というニーズに応えるため、動的QoS制御を遠隔地からリモートで操作可能なコントローラの開発も実施した。
 また、今後の利活用推進に向けてSDN/NFV技術を利用したトラフィック分類、優先制御、遅延対策機能などの研究開発も独自に実施しており、ローカル5Gシステムの堅牢化やネットワークスライシングの自動化につながる技術も開発した。

NICT
 NICTは、Beyond 5G時代における衛星地上統合技術の研究開発を加速させるため、委託研究の枠組みを整備し、ESAとの連携を通じて国際的な協力体制を確立した。これにより、国内外の企業・大学・研究機関が連携して研究開発を行える基盤を整え、グローバルな視点から技術開発及び通信インフラを相互接続する連携技術の実現に向けた取り組みを推進している。また、本実証実験では、NICTがこれまで培ってきた衛星回線、5G基地局、5Gコアなどを含む通信システム全体のネットワーク構築に関する知見を活かした技術的な支援および委託研究としての支援を行った。特に技術的な支援として、実験環境の信頼性向上を目的に、ノウハウを活かして5G基地局の接続安定性確保のための通信パラメータ設定や5Gコアのシステム構築などを行い、本実証実験の成功に大きく貢献した。

今後の展望
 JRC、スカパーJSAT、東京大学は、本研究開発成果を基に、防災機関等での利活用を目指し取り組みを継続する。また、5G NTNへの展開を視野に技術実証環境を整備し、将来のユースケースにも対応した実証実験を推進する。さらに、多様なサービスや回線状況にあわせて柔軟に対応可能な衛星地上統合システムを支えるローカル5Gシステムについては、産学連携により商用展開をめざす。三者は「本検証で取り組んだ要素技術については、今後も研究及びフィールド実証を重ね、宇宙と地上を結ぶ柔軟なネットワークで、いつでもどこでもつながる社会の実現に向けて継続的に取り組んでいく」との考えを示している。
 NICTは「これまでに築いてきた国内外の企業・大学・研究機関との連携をさらに深化させ、Beyond 5G時代における衛星地上統合技術やNTN技術の研究開発・実装をグローバルな視点で推進し、地上から海・空・宇宙までを多層的につなぐ三次元ネットワークの実現をめざしていく」との考えを示している。

関連記事