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石川佳純選手の競技活動を支えるシスコのテクノロジー

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 シスコシステムズは1月22日、Cisco アスリート アンバサダーの一人である石川佳純選手を招いてメディアイベントを開催した。
 東京2020の卓球競技における女子シングルスおよび団体戦の代表を確実にした石川選手は、シスコと共にICTを駆使した戦い方改革に取り組んでいる。そのテクノロジーは、シスコが企業向けに培ってきたネットワーク、コラボレーション、データ分析、セキュリティの技術をベースにしたものだという。
 世界的なITおよびネットワーキング企業であるシスコの技術が、スポーツ選手の競技活動をどのようにサポートしているのか。今回の記事では、石川選手の体験談と共に、実際に使われているシスコのICTソリューションの事例を紹介する。

(OPTCOM編集部 柿沼毅郎)

石川選手を支える試合のデジタルデータとセキュアなネットワーク環境

石川佳純選手

 史上最もデジタル化されたオリンピックとなる東京2020は、観戦や視聴環境のデジタル化だけではなく、参加選手の競技活動もデジタル化されたものとなる。例えば、シスコが石川選手に提供したソリューションの一つに、動画視聴アプリがある。これは試合の動画に関連データを付加したもので、ラリーの軌跡を表示する機能や、互いの点数獲得時のシーンをワンクリックで再生できる機能などが備わっている。石川選手は「卓球選手の多くは試合のビデオを見ていると思う。この視聴アプリでは、得点と失点を分けて見ることができるので、自分の得点パターンと失点パターンが分かる。試合を通してなんとなく分かることでも、例えば自分のサーブのコースや相手選手のサーブのコースなどをデータで出していただくことで、新しい発見がある。こうした焦点を絞った分析と言うのは今回が初めてで、なんとなく分かっているのとデータで見るのとでは全然違う」と話している。

映像視聴アプリの画面イメージ。石川選手のサポート体制を指揮してきたシスコシステムズ マーケティング本部 東京2020オリンピック・パラリンピック部長の生田大朗氏は「取り組みを始めた当初は卓球に関するデータ解析の手法が確立されていなかったこともあり、我々は石川選手から色々とお話をお聞きし、思考錯誤しながら開発を進めていった。石川選手はたくさんの試合映像を見て対策をされるとのことなので、見たいシーンをいつでもどこでも簡単に、かつ安全なネット環境で見ることができるものを作ろうということで取り組んできた」と話している。

シスコが石川選手に映像視聴アプリを提供する際に構築したプラットフォーム。試合映像をデータ化し、シスコのサーバに収納している。世界各国で遠征をしている石川選手をはじめ、関係者がどこからでも安全にインターネットで情報を共有できるよう、セキュア インターネット ゲートウェイCisco Umbrellaや、エンドツーエンドの暗号化がされた情報共有ツールCisco Webex Teamsも提供された、万全のサポートとなっている。生田氏は「Cisco Umbrellaは、シスコが所有する脅威情報に関する膨大なデータベースと連携して危険なサイトを自動的にブロックするので、世界中どこにいても安全なインターネット環境で映像視聴アプリを活用できる。また、Cisco Webex Teamsを使うことで、関係者の皆さんに新しい試合の情報の入力が完了したことを通知したり、多くの試合データの中から特定の試合を簡単に検索することができる」と話している。このCisco Webex Teamsは石川選手の練習の様子を関係者で共有する際にも利用されており、例えばコーチがその場に居なくてもアドバイスができるという。石川選手は「自分の練習している姿を映像ですぐ見れることで、コーチのアドバイスが非常にイメージしやすい。また試合の映像を見てコーチと研究できるので、非常に助かっている」と話す。

スポーツとテクノロジーの可能性

シスコシステムズ
代表執行役員会長
鈴木和洋氏

 シスコシステムズは、スポーツとテクノロジーにどのような可能性を見出しているか。シスコシステムズ 代表執行役員会長の鈴木和洋氏は、3つの点に取り組んでいると話す。
 1つ目は、スタジアムやスポーツアリーナのデジタル化だ。シスコではこうした設備にWi-Fiを完備することや、ライブ映像をリアルタイムでサイネージに送信することに取り組んでいる。これにより観客は、席から離れて売店を利用している最中でも最寄りのサイネージからライブ映像を見るといった新しい環境を体験できるようになる。
 2つ目は、前述の石川選手の事例のような競技活動のスポーツテック。選手のパフォーマンスデータ、相手選手のデータ分析をしながら、選手を更に強くする取り組みであり、選手のゲーム戦術、パフォーマンス向上に成果が出ているものだ。
 3つ目は、選手のデジタルデータを組み合わせた映像を観客に提供する取り組みだ。普通の映像では分からないデータを付加することで、観戦の新しいエクスペリエンスを提供できる。

 またシスコでは、選手とファンとの接し方についてもICTを使った新しい形を実現しているという。鈴木氏は「2019年11月のワールドカップ会場では、シスコのブースにネットワークで接続されたデジタルボードCisco Webex Board を設置し、ファンからのメッセージを書いていただいたり、お気に入りの選手を表示して一緒に写真を撮ることができる環境をご提供した。これが非常にご好評いただいたので、試合が終わった後にミックスゾーンというメディアインタビューのスペースにも設置させていただき、ファンと選手のコミュニケーションにお役立ていただいた。このデジタルボードに応援メッセージを書き込むと、それが瞬時に選手側にも表示されるので、選手はすぐに返事を書くことができる。また、ビデオ会議の機能も備わっている」と話している。石川選手はこのCisco Webex Board について「試合が終わった直後に、応援してくれている皆さんと話せる機会というのは今まで一度も無かったので、その応援してくれた声を聞けて良かった」と感想を述べている。

今後の展開

シスコシステムズ
マーケティング本部
東京2020オリンピック・パラリンピック部長
生田大朗氏

 鈴木氏は今後の展開について「卓球のみならず、スポーツ全体がもっと大きなビジネスになるお手伝いをしたい。今回ご紹介したようなものを通じて、選手自身も強く、そしてファンとの距離も縮めていただいて、様々な見せ方を通じてスポンサーの方にもご注目いただいて、スポーツが成長産業の筆頭になるようなお手伝いをしたい」と話す。
 生田氏はシステムの開発について「視聴プラットフォームも分析も、現状は人が関わっている部分が多い。将来的には、データ入力の部分であれば映像解析をして自動的にデータ入力する形であったり、AIを使った解析をしてAIがアドバイスするいうことも将来的にはできるのではないかと思う。ただ、それをするには時間がかかるので、今は目前の東京オリンピックに向かってできることをやっていこうという思いだ」と話す。
 石川選手は東京オリンピックへの意気込みについて「シスコさんの心強いサポートを受けることができるので、それをパワーにして、半年後の東京オリンピックで一番強い自分でプレイできるように頑張りたい」と話している。